第68話 依頼書 ②
「我らが父であり母である神は、いつ誕生したのかご存じだろうかッ?!」
英雄の国と呼ばれ多くの人々が行き交う道中の中、とある1人の男が一目も気にせずに叫んでいた。
「我らは人と繋がりこの世界に生を受け、そして命尽きるまで活動を続けていく。 それは我らが神が与えた人生と言う名の課題とも言えよう!! しかし、ならば神は一体いつ誕生したのかッ!!」
神は何故、我々を見守ってくれるのか!
神は何故、我々を誕生させたのか!
神は何故、世界を創造したのか!!
男は周囲の人々から不審な視線を向けられても尚、大雨にうたれながら暗雲に両手を広げて見上げる。
「私は知りたい! 我らが主は一体何を考えておられのか! 私たち人間という存在に対して何を求めておられるのかッ!!」
そんな男の行き過ぎた演説の最中、1人の少女が母親に手を引っ張られながら目の前を通り過ぎようとした。
まだ幼い少女には男の言っている意味があまり理解できていなかったが、何か必死に話をしていると思いながら母親に手を引っ張られながら男の顔を眺めていた。
その時、買い物の際に購入した桃を母親が落としてしまう。
「あっ、モモ!」
雨を完全に遮る事が出来ていなかったせいか、母親と繋いでいた手は幼い少女の力でも簡単に振る解く事が出来た。
落とした桃を拾い上げようと転がって桃を追いかけていく少女。
ようやく追いついたと思った場所は先ほど必死に大声で演説をしていた男の足元だった。
「やぁ、こんにちはお嬢さん」
「・・・こんにちわ!」
周りから見れば奇人のような男にも笑顔で返事を返す少女。
「うんうん。 やはり子供と言うのは元気が1番だ。 今日はお母様とお買い物かい? 美味しそうな桃だね」
「うん! あたしモモすき! おじさんもすき?」
「大好きだとも。 知っているかい? 桃と言うのはあの世とこの世の道中にあるとされる神聖な果物なんだよ」
「へぇ~・・でもね! あたしはあそこのお野菜屋さんで買った桃も好きなの!」
少女は男の言っている意味がよく理解できていなかった。
不思議な事をいう大人だなと思っていると後ろから少女の母親が必死に彼女の事を呼びながら近づこうとしている。
しかし
男の近くにいる少女へ駆け寄ろうとした母親の前に誰かが道を遮っているようだ。
「まま?」
少女が母親の異変に気が付いた、その瞬間だった。
「いい・・・いいね。 とてもいい。 やはり神と呼ばれる存在と言うのは純粋でなくてはならない」
男は母親を見ている少女の肩に手を置き、少女の瞳を覗き込むように顔を近づける。
「君なら・・良いピースの欠片になるだろう」
二タッとした不気味な笑みを浮かべると、男は雨を遮るマントの手元から1冊の黒い本を取り出した。
―――やめろッ!!
少女の母親を男に近づかせないように道を遮っていた人物が大声で叫んだ。
しかし、その人物の呼び止めた声はどうする事もできず男は不気味な笑顔を向けたまま短く唱えた。
「【 我 創造スル者ナリ 】」
その瞬間、男の目の前にいた少女の足元から黒い液体のような物が飛び上がり、少女の身体を縛りつけると同時に現れた足元へと消えて行ってしまった。
「ハハ・・アッハハハハハッ!!」
雨が降り注ぐ街の中、男の不気味な笑い声が気持ち悪いほど響き渡った。
その後、男は近くにいた冒険者パーティーの拘束された。
男は元々、国からギルド本部へと依頼され指名手配されていた史上最悪の魔術師。
非人道的な魔術研究を繰り返しただけでなく、危険な思想を持っていたという。
それが原因で男が作り上げた団体は短期間の間で大きな宗教団体へと変貌しており、気が付いた時には手が付けられない状態にまで膨れ上がっていた。
そこで国の王はある冒険者パーティーに男の拘束と団体の壊滅を依頼した。
だからこうして国の衛兵などが到着するよりも前に早く男を拘束する事に成功したのだ。
そして、そんな危険人物とされていた男の名は ソロモン・コネクト 。
元は英雄の国を支える最高幹部が1人であり大賢者と呼ばれていた男。
さらには勇者一行の仲間だったと言われている魔術師の子孫である。
◆ ◇ ◆ ◇
ソロモン・コネクトが拘束されて、ギルドは国王からの命令で2つのクエストを発注した。
1つはソロモン・コネクトが最後に発動させた魔術で行方不明となった少女の捜索。
そして
その2つ目は発動させた黒い魔術書の解析だった。




