第50話 消失
『このガキがァァアアアッ!!』
綺麗な顔立ちには似合わない咆哮と殺気だった鋭い視線で正樹を睨む。
その姿にはすでに美貌などとい清楚差など微塵も感じない。
『この我の何処が醜いと言うのかッ!! 千年だぞッ! 千年も待ち望んだこの身体を手に入れた我を前になんと不快な事を言いのけるッ?!』
「いや、そんな状態で美貌だのなんだの言われても説得力皆無と言いますか。 その前にアンタが乗っ取ったその身体は元々別の人の身体なんですよ? なんで自分に似合うとか思っちゃったわけ?」
平然としながら修羅のように怒る女王に思った事を口にする正樹に対し、女王は更に怒りをあらわにする。
雪のように輝く白髪は怒りで氷柱のように逆立ち、目は充血して真っ赤になりながら血を流し、顔の表面は血が上っているせいで血管が浮かび上がってきていた。
『許さぬ・・許さぬぞ小僧ォォオオッ!! この世界一の美貌を手にした我を前にして只で済むと思うなァァァアアアアッ?!?!』
怒り狂う女王は正樹の胸倉を掴む。
『さぁ女神の加護よッ! この小僧を今すぐに消せッ! 我を侮辱した罪を今ここで魂事永久に復活できぬよう消してしまェェッ!!』
天井が崩れ落ちているせいで教会内にも雨の音が響き渡る。
女王の声はまるで自然の音にかき消され、最初っから何もなかったかのように周囲は雨の音だけが聞こえる。
『・・・なんだ。 何故何もおこらないッ?!』
本当ならこの後、正樹は蒼い光の粒子となって消滅するはずだった。
女神の加護の能力は敵と認識した攻撃をすべて防ぐ、または無効化する事である事は把握済みだ。
それならば、女王が敵と認識した正樹は敵と認識され触れているこの瞬間に蒼い粒子となって消滅するはず・・だった。
「これは僕の憶測なんですけど・・・」
『!?』
正樹は小さい溜息を吐きながら胸倉を掴まれる女王の手を掴む。
「多分、アンタは女神の加護を使う事はできない」
『・・ハッ。 何を言っている。 この身体は加護によりあらゆる害から護られる神聖な身体だぞ? 今はその身体の所有は我にある。 貴様のような小僧の憶測が当たっている――』
「神様ってさ。 誰にでも扱う事が出来る力を簡単に人に与えるものなの?」
『なに?』
女王の目をハッキリと合わせて視線を逸らさない正樹を見て、女王は自分でも気づかずに足を一歩後退させていた。
「神の権限っていうスキルがどういったものなのかまだ全然把握できてないけど、少なくとも神様っている存在が簡単に世界を狂わせるような力をホイホイと与える事はしないとおもうんですよ」
『だからどうした? この身体は我が貰うまで確かに加護を発動させていた。 それならば我が使えない道理はない!』
「いやだからさ。 アンタがその加護のついた身体を乗っ取れた時点で少しおかしいって話」
正樹は振りほどこうとする女王の手を逃がさないように掴んだまま話を続ける。
「恐らくアンナの賢者の石の効力はすでに女神の加護を消失させてたんだよ。 だからアンタは今女神の加護を発動できない」
『ならばあの魔術師はどう説明するつもりだ! 現にあの男は我の指示に忠実に従う人形へと変わり果てておるではないかッ!』
「ん~、これも僕の憶測なんですけど、たぶんあれはアンタのオリジナルの権限なんだと思う。 まぁこれもカガミに聞かなきゃハッキリと分からないんだけど」
瞼をピクピクッと動かして見るからに苛だつ表情を浮かべる女王に正樹はフッと笑みを浮かべた。
『何をそんなに余裕が持てる小僧。 女神の加護が使えないからと貴様を殺す事はいくらでも出来るのだぞ?!』
「あぁいや。 やっぱりなぁ~って思って。 ―――アンタ、醜いわ」
呆れるような表情で笑みをこぼしながら女王にハッキリと再度言い放った正樹に対して、女王の身体から先ほどの形の定まらない物体が溢れだしてきた。
『このまま貴様を取り込んで息の根を止めてやるゥゥゥウウウッ!!』
そこには、すでに美貌などという言葉に似あう姿はない。
怒り、苦しみ、嫉妬と言った醜い感情を露わにした何かが物体と化しているものだった。
「まぁ、こんなものかな?」
形の定まらない何かが正樹を覆いかぶせようとしたその瞬間、女王の背後で立っていたカガミの顔が急に光だした。
ただ光っただけでなく、神々しさのあまりに周囲が光に包まれ女王の形のない何かが蒼い粒子となって一瞬で消滅した。
何が起きたのか理解できない女王は後ろを振り返る。
そこには自分自身が乗っ取った身体の主と、そっくりな女が女王に向かって指をさしていた。
「 【アルマゲドン】 」
その瞬間、女王の視界は真っ白になり意識は完全に消失した。




