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「ん? もうそんな時間か。長居して悪かったな。今日はゾイルとデイルと約束しているから、そろそろ帰るな。ありがとう」
子どもにするみたいに頭をポンポンしてくる。
ゾイルとデイルっていう知らない名前が出てきたけど、どうやらどこかのお姉様達とではなく、どこかのお兄様達との約束があるらしい。
「ゾイルとデイル?」
「ああ、昨日ケインに足を診てもらった時、騎士寮の門前に熊と狐の獣人が立っていたろ? あの狐獣人の方の息子な」
「狐、獣人? ……ああ〜、あの失礼なキツネ!」
ロイさんにお姫様抱っこをされて治療に連れて行かれる途中、「元の場所に戻してこい」と言い放った、あのキツネである。
その時のことを思い出して頬を膨らませていれば、ロイさんは困ったように笑って、
「まあ、アイツは口がとんでもなく悪いが、悪いヤツじゃないんだ」
と頭をポンポンしてきた。
……イケメンのポンポン。これだけで機嫌が良くなる自分はチョロいと思うが、これがイケメン効果というものなのだ、うん。
玄関まで見送って、しっかりと施錠してリビングへと戻る。
先ほどまでは感じなかった静けさを感じで、誰かがそこにいるだけでも部屋の中が温かく感じるものなんだなぁ、なんて改めて思いつつ、晩御飯の支度を始める。
冷蔵庫の中にあった鶏胸肉が二枚入ったパックを取り出した。
「今夜はヘルシーな、揚げないなんちゃって唐揚げでも作りますか!」
元気よく明るい口調の言葉は、我ながら何だか少しだけ態とらしく聞こえた気がした。
少しだけ大きめに肉をカットし、フォークで味が染み込みやすいようにブスブスと刺していく。
ボウルにおろしニンニク、おろし生姜、酒、醤油、塩コショウ、黒コショウを入れて肉をよく揉みこんで、ラップをして二十〜三十分冷蔵庫で味を染み込ませておく。
この間にボウルに貝割れ大根をシナシナになるまで揉みこんでギュッと水気を絞ったものと、ツナと割いたカニカマとマヨネーズ(少な目)を入れてよく混ぜる。
貝割れ大根はしっかりと水気をきることによって辛みがなくなるのだ。
とはいえ、絞るのが面倒な時やシャキシャキ感を残したい時は、マヨネーズの量を増やしている。
マヨネーズを増やすことによっても辛みが抑えられるためだ。
小鍋で冷凍コーンと溶き卵と創味シャンタンを入れた超手抜きなスープを作り、洗い物をササッと終えたら冷蔵庫から胸肉の入ったボウルを取り出す。
汁気を切って、ボウルに片栗粉を入れてよく混ぜる。
フライパンには油を引かずに皮を下にして並べて中火で蓋をして十分焼き、蓋を取って肉をひっくり返して五分、最後に強火で一分焼いて出来上がり。
油を一切使わないし、胸肉なのでかなりヘルシーなのだ。
多めに作って残りは冷凍してしまえばいいし、この揚げない唐揚げは里緒菜の食卓にのぼる頻度は結構多い。
今日はロイさんが色々やってくれたお陰であまり動いていないのだけれど、普通にお腹も空いているのでご飯もしっかりよそう。
テーブルに並んだご飯と唐揚げとスープとサラダをしっかり食べて、洗い物を済ませる。
その後湯船には浸からずシャワーだけ浴びてササッと出てくると、冷蔵庫から出した麦茶をコップに注ぎ一気飲みした。
フゥと一息ついてもう一杯麦茶をコップに注ぐと、それを持ってパソコンデスクのある部屋へと向かう。
足が治るまではあれこれ動くことが出来ないのだから、その間にチャッチャと絵本を作ってしまおう。




