Ver1.251 (強襲! 嵐の3人娘)
リアル編始まります
「おつかれさまです。 身体の調子は如何ですか? どこか具合が悪い等はありませんか?」
男の声に反応して目を開ける。 ヘルメットのバイザー越しに蛍光灯の灯りが目につく感覚。
「あ~・・・なんかバカに汗かいてません? 借り物のローブがなんか凄く重いんですが・・・『ビチャ!』って感じで」
軽口をたたいて寝ていたポッドから起き上がろうとしたところ体中の節々、全身が痛い・・・最近なってなかった筋肉痛を訴えている。 あれえ?
「代えの物はありますんでそこのBOXの中に入れといてください。 クリーニングされて戻ってきますんで・・・どうしました?」
なかなか起き上がらないオレの異常を察して桐生さんが駆け寄ってくる。
「ああ、ちいと・・・筋肉痛かな? 結構動いてたんじゃないですかねオレの身体?」
「は~~~・・・確かに・・・それに途中でログインしながら起き上がったでしょ・・・あれはビックリしました。 中のキャラは動いてるのに身体の方も動いてしっかり受け答えしてトイレにいったりしてましたし。 飲食までしてました」
呆れた様子でポッドの下に転がる数本のペットボトルを見てため息をつかれた。
「あ~・・・ゲームが面白くて途中で止めたくなかったからやっちゃいました」
「やっちゃいましたって・・・それでできるのが不思議です・・・でもできればログオフして休憩してください。 ちょっと上の方でパニック入っちゃいましたから」
呆れ半分関心半分みたいだ
「私はチョット信号が漏れる程度なんですよ。 偶に素でできる人も居るみたいなんですが・・・私のはコツがあるんです。 『多重並列情報処理法』って言葉知ってます?」
「・・・ええ、近年見られるVR空間での多重処理の方法でしたか? 精神病とされてた多重人格症を形成できる脳の能力ならそれぞれの人格で情報処理すれば・・・とかの実際は高速処理法とか?」
「それなんですがねVRを仕事に取り入れた職場であることなんですが仕事のスケジュールが被る時があるんですよ。 例を挙げれば午前に上げないとイケナイ仕事があるのに9時からVR会議とかね」
「あ~ありますね・・・」
「そんな時『並列情報処理法』でVR会議に出席しながら急ぎの仕事を別の端末のVR空間内で内職するんです」
桐生が納得のいった様な諦めが入ったような微妙な表情をする。 どうやら桐生さん本人も経験があるらしい。
「それなら私にも経験がありますよ会議にアバターの影を残して音声のみ聞いて作業するって・・・あまり褒められた話ではないですが・・・」
たはは・・・と苦笑する桐生さんも大変なようだ。
「私の会社のような小さな会社だとそれが4つも5つも重なるんですわ・・・」
ちと考えて深刻に内の会社大丈夫か?と思うが・・・
「5つ・・・え? 会議が・・・じゃないですよね・・・? 作業がですか!?」
言ってる事の異常さに気付いたらしい桐生さんは顔を顰める。
「ええ、簡単な作業ですが重なるんですよ。 でも納期もあるからやらなきゃいけない・・・でさっきの方法になるんですがVRで思考加速がありますよね? それを応用するんです」
そういって説明を始めると信じられないと言う様な顔をする。
人間の脳は自然でも並列処理を行っているようなもので自動車の運転で考えてみる。
教習のビデオ等で普通に何気なく運転しているがその間にも一瞬一瞬毎に情報処理を行っているということ。 操作、視認、判断、操作の繰り返しと言うやつだがその三つを自然に行っている訳だ。 そんな中でも経験ある人も多いと思うが何気なく曲をかける。 一人だと気が緩んでその歌詞を口ずさむ・・・オレだってやっちまう時があるがカラオケみたいなもんだ大声で歌えばストレス発散にもなる。
しかし考えてほしい・・・操作、視認、判断の中に簡単に見れば『曲を聞く』と『歌う』という情報処理が混じることを・・・
更に細かく指摘すれば曲を聴く、リズムを追う、リズムを認識する、歌詞を記憶から取り出す、リズムに沿って歌詞を口ずさむという6つの情報処理を合間合間に入れてるということ・・・最初の3つの処理も正確にはもっと行なっているのだが簡単にみれば5つをこなしている。 別に並列処理では無いではないか、高速でその処理を少しずつしているだけと言うのが正解。
ならばその処理を思考を加速させた状態で考えれて頂きたい。
A、B、Cの仕事があるとしてAをはじめる。 操作して命令、処理を始める。
Bをはじめる。 操作して命令、処理を始める。 Cをはじめる。 操作して命令、処理を始める。 Aが処理を終る。 次の操作して命令、処理を始める。 Bが処理を終る・・・
それをA、B、Cを終った端から処理命令を出していく。 処理する側はコンピュータ。 指示を出すのは脳。 この例では脳の方が処理する情報は少ないようでコンピュータの方が処理が終るまで時間がかかってる状態。 思考加速すればこういったことが頻繁に起こる。 加速すればするだけ体感する待ち時間が延びるのは分かって頂けると思う。
そうすれば落ち着いて処理ができるならいくらでも捌ける仕事この場合情報処理が増えるのだ。 後は入力されたデータをコンピュータが認識した時点で先行入力できれば更にできる処理は増える。 今はパソコン等は処理速度も速く問題ないが一昔前などブラインドタッチのキー操作に処理が追いつかずデータ打ち込み、待機、データ打ち込み、待機等があって待機中に二台目のパソコンでデータ入力してたこともあった。
そこでオレがVRをしながら身体をコントロールしたかというと前記述の応用でキャラにこうする指示、命令を入力・・・別にキー入力でないが、ある程度の予測先行入力のようなもの。
『前方50cmに右足踏み込み右追い突きの後少しノックバックするだろうからそのまま半歩30cm右すり足で腹部に向けて5cm下にずらし右ひじを曲げる反動と肩を回す動作で肘撃ち』と、いう思考先行入力の処理中に、実際の身体に向けて命令を出す。 無論首の信号遮断のジャマーが入るが最初の信号が消されてる最中に信号を連続で通すという強引な手法もある。 これが『多重並列情報処理法』のVRでの実態・・・なのだが本当の『多重並列情報処理法』はちょっと違う。
多重人格障害という症状がある。
解離性同一性障害と近年では正式な名前があるが今回の『多重人格障害』はマンガやアニメ、ドラマ等のフィクションの産物「二重人格」を元に考えられた方法である。
眉唾物の話だがもう少し説明させてもらう。
頭の中に違う人格の自分がいて気がついたら普段の自分と違う行動をしていた。 とか良くある設定。
中には別人格と記憶も共有しており、何らかの事件等を幾多の人格の協力のもと解決したり相棒のような関係なんかもある。 実際オレの知り合いに一人そんなマンガな!? な人物も・・・人達と言うべきかいる。 最近『二人で一人の・・・』とかがセリフに多いのはおそらく某探偵ヒーローの影響だろう。
話を戻そう
その他の人格を人工的に・・・たとえば催眠誘導だったり自己催眠・・・似たようなもんか? だったり薬物といったり・・・やりようは幾つでもある。 VR技術が進んでる昨今、VRムービーなる自分を主人公に置き変えて体験するものもあるくらいだ。
VRで脳からの出力のみで命令できるなら、非合法ともなればいくらでも入力できる。
頭が良くなりたい記憶力を上げたいとかは可愛いもので人間の欲求なんて底が無い。
違法VRムービーなんてのもあるくらいだ・・・どんなものかは・・・想像にお任せする
そんないくらでもあるやり方で他人格を作り並列処理を人格ごとにさせようというのが・・・本当の『多重並列情報処理法』
今では前記のようなのも含めて『多重並列情報処理法』と呼ばれる。 多分桐生さんは最近流行りの言葉的な『多重並列情報処理法』で考えてるのだろう。 さもなければ倫理に反するモノを語るにへラっとした雰囲気で話せるもんじゃない。
まあ、この方法でのオレのVR中に身体を動かすと言うのは至極簡単でAの人格にVRを担当。 Bの人格にジャマーの信号妨害。 Cの人格に身体操作させるという簡単なもの・・・ちなみに言っておくがオレは信号連射派(連打派ともいう)だ。
できないことはないが
まあ、そういった方法もあるってことだ。
ここら辺の裏技技術は公式ではないがやってる猛者は結構各地にいるはずだ。 一昔前にもゲームから離れるのを嫌って用を足すのをその場でやる方法を模索するとかあったし・・・オレはソコまでしたくないから信号連射派を習得したんだが・・・やってることは同じムジナかもな・・・
そんな感じで説明すると習得は難しいが利にはかなってると納得してくれた。 ところでシップとかないかな・・・と説明中並列思考で思ったのは内緒だ。
文にすれば長いが会話であれば10分程度、そんな話をして重く軋む身体を押してシャワーを浴び普段着に着替える。 ・・・ベルトがやたらユルイ気がする。
「おつかれさまでした。 一応これがシップですが・・・貼りましょうか?」
オレの様子に気遣わしげな桐生さんにオレは気にするなと言う・・・事も無く
「お願いします・・・」
と、治療台に寝そべった。
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館内放送で初回クローズドベータテストの成功と終了の告知があった。
また、ディナーの時間に放送で明日のテストの予定と重大発表があるらしい。 なんにしても明日が楽しみなのは変わりゃせん。
各関節や筋に異常が無いのを確認してホテルに戻る。 シップくせえ・・・筋肉痛なんて何年ぶりだ? それでも我慢できない致命的な痛みが無いのは鍛えてたおかげかもな・・・
VR施設の出入り口は出て行く人がまだ大勢いる様でアンケート用紙のような物を受け取って待機室で記入するか持って帰ってるかしているようだ。
まあ、ホテルの自室で書けばいいか・・・腹へったし。
「あ、出てきたよ~おつかれ~」
「おつかれさまです政様」
「おつかれさん政さん」
用紙を受け取って外に出ると髪の色と髪型が違うだけのこの2日で馴染み『桜花』『ライズ』『エイシャ』の3人娘が待っていた。 周りの視線を集めてる辺り容姿的に目立つ娘達だ・・・
3人に向かって歩いていく途中
「チッ・・・保護者同伴かよ」
「さっき様とか呼んでなかったか!?」
とかの雑音はこの娘達と付き合うなら流すくらいで丁度いい・・・気にしたらドツボだろう。
「お、おう、3人とも揃ってどうした? ・・・もしかして待ってたか?」
「もしかしなくてもそうだよ」
「お待ちしてました」
「お腹減ったからご飯いっしょしよ~って」
あっけらかんとエイシャが飯に誘ってくる・・・回りの目を気にしたら負けだ・・・この先やって行けん。 エイシャの綺麗な顔に似合わず無邪気なところはこんな時は何とかならんかと思う。
「飯か・・・まあオレも今からそのつもりだったからいいか・・・」
「やった♪」
「チカちゃんナイスです」
「じゃあいこ~♪」
なんか違和感を感じ・・・しかしやれやれと思いながら若い子達といると元気を分けて貰ってるようだと苦笑・・・いつの間にか桜花とライズに左右挟まれていた。
躊躇いも無くライズが手をとると桜花もおずおずと反対の手をとる。 両極端な二人に手を引かれ恋人候補の宣言しただけに照れる反面・・・休日に娘に手を引かれる疲れたお父さんのようだと言ったら、二人とも拗ねそうだなと思うと、何とも言えない苦笑がもれた。
二人はそんなオレに照れながらも満面の笑顔を浮かべながら引っ張っていく前には、元気に先を行くエイシャが二本の尻尾のように纏めた長い髪を躍らせ、偶に遅いと振り返ってはオレ達を急がせた。
そんな中オレ達の会話は・・・
「政さん・・・なんかシップ臭い・・・」
「どこかお怪我でもなされましたか!?」
「ん~なんといえばいいか・・・ゲームが終ったら筋肉痛だった?」
「政ちゃんおじいちゃんみたい~」
『グッサア!!』と擬音が鳴るくらいダメージを食らったみたいだ・・・
「ちょっと、チカ!」
「チカちゃん!?」
「おじいちゃんか・・・ははは・・・は・・・確かにキャラは爺さんだけどなあ」
「ふえ!? 二人とも何か怖い・・・よ?」
エイシャの一言が引き金に二人から言い知れぬ迫力が生まれる・・・本気で怖がってないかい?
「政さんも微妙な歳なんだから・・・そこのとこ考えて話そうね?」
「政様、私のお父様もよく肩がこったとシップ薬を愛用してますし・・・気になさらないで」
二人の優しさが嬉しい半分セリフがクリティカルにオレに止めを刺そうとする。 哀がイタイってこういう時使うのかな?
~~~~~~~~~~~~~~~~
何だかんだと言いながらも展望レストランのビュッフェでのディナーと言っても遜色無い料理を前に4人で座っていた。
テーブル席には決められたように右に桜花、左にライズ、前にはエイシャが陣取っていた。
気持ち目立たないように席は奥にしてオレは窓側、目立つ3人の顔が入り口方面から見えにくいようにしたのは逃げではなく防衛本能と言っておく。 まあ、バイキング方式だからどうあっても人目は惹くだろうが・・・
「じゃあ私から・・・日野 温海、政さんは温海と呼んでね♪。 華乃ちゃんとチカちゃんとは幼馴染兼いっしょのクラスで都内星歌学園高等部1年F組 趣味はゲームにアニメにコスプレ衣装作成! BWでは魔法使いと精霊使いの混合職をしてます。 現在は華乃ちゃん共々政さんの嫁候補!!」
「ちょ・・・あっちゃん!?」
「はいはい・・・アピールはわかったからもう少し声を落とそうな・・・って・・・日野?」
イキナリの自己紹介。 なんでも結婚どうとかは流れたが「これからの付き合いに本名を知らないのは変だ!」と、のライズ改め温海の鶴の一声で全員自己紹介と・・・こういう流れになった。 酒でも入ったかのようなテンションだが・・・温海なりの照れ隠しのようにも思える。
だが疲れた声で対応するオレは悪くないと思う・・・正直若い子のテンションの高さに疲れています。 主に周りの反応とか視線とか? しかし今ちょ~っと聞きなれた姓を聞いた気がしたが・・・
「Ye~s、ある時はここの筆頭株主にして三光グループの会長の孫娘! ある時は星歌学園理事長の娘! またある時は謎のネットコスプレアイドル! しかしてその実態は!?」
「タダのオタク少女」
「へう!?」
エイシャの見事なツッコミの一撃!
「自他共に認めるゲームマニアだったかしら」
「ぐはあ!!?」
華乃の落ち着いた口調の抉るような追撃!!
「全部言っとるやん?」
『ガタ~ン!』
オレのツッコミは止めになったのだろうか? 華乃の時点でオーバーキルっぽかったが・・・テーブルに突っ伏す見事なリアクションに乾杯。 更に被害を受けそうな料理の皿を見事に素早く回収した二人にエールを・・・
二人の見事な口撃+1に温海は沈黙んだ。 人は第一印象じゃわからんもんだ・・・ここまでノリのいい子だとは思わなかった。 多分・・・人見知りの激しい娘なのだろう。
その裏返しに親しくなったらぶっちゃけるというか依存が強く出るのかもな・・・難にしても難儀な性格してるわ・・・爺さんのくにさんに良く似てる。 悪ふざけがスギルとことかな。
まて、まてまて・・・あの爺さんの孫・・・ヤバイ・・・オレ終ったかもしれねえ・・・
「じゃあ次は私だね! 月森 千陰 チカでいいよ~♪ さっきあっちゃんが言ってたように幼馴染でクラスメート 星歌学園高等部1年F組 趣味は特撮! それと映画鑑賞アクション主体! ヒーローショーも見に行ったりするよ~変身ヒーローのベルトやグッズ集めもしてるかな~一人で悪と戦う孤高のヒーロー! かっこいいよね~!」
なんかとり止めが無くなってきたな・・・復活した温海と華乃はヤレヤレって顔をしてる。 いつものことなのか・・・しかしチカさんよ・・・おめえも人のこと言えねえほどの特撮マニアじゃねえか? オレも人のことをイエネエが・・・
しかし・・・『日野』に続いて『月森』だと? 三光グループの一角のお家柄じゃねえのか? これで『星原』が揃えば日本最大企業グループの御三家そろい踏みになるじゃねえか・・・まあ華乃は『桜咲』だから全く別か? まあ、それは今気にするとこじゃない。 チカをそろそろ止めるころあいか・・・
「でも一番好きなのは『田園戦隊タンボレンジャー』!!」
チカの口からでた意外なご当地戦隊の名前に少し興味をおぼえもう少し聞いてみることにする。 懐かしい名前だな・・・フリーター時代に知り合いに頼まれてヌイグルミショーでタンボレンジャーブラックに入ってたことがある。 人数の都合上合間合間に戦闘員と入れかわったりして何気にハードなバイトだった。 最後の日には小火騒ぎがあって火傷しながらもデパートの扉壊して逃げたっけ・・・ 今ではいいネタ話の思い出だ。
「あ~出ちゃったか~」
温海がゲンナリしてる・・・あまり人前でしないほうが良いとおっちゃんは思うぞ。
「あれが出るとチカちゃん長くなるから・・・」
華乃も諦めたようにヤレヤレと首を振ってる。
『そんなに長くなるのか?(ボソボソ)』
小声で華乃に聞いてみる。 チカは良い気分でお気に入りの戦隊のどこが凄いか熱演している。
『ええ、何でも小さい頃その戦隊の黒い人に助けられたとかで・・・(ボソボソ)』
『ほ~迷子にでもなって助けてもらったとかかな(ボソボソ)』
オレ達が話していると温海も寄ってきた
『いいえ火事になって燃えた瓦礫が落ちてきたところをキックで吹き飛ばして助けてくれたのよ。(ボソボソ)』
『へえ~凄いヤツなんだな瓦礫をねえ(ボソボソ)』
小さな子を押しつぶそうとする1mぐらいの瓦礫をキックで粉砕するヒーローを想像する。 普通ありえねえが・・・いるんだよな・・・この世にはそんなことができる超人というか変人が・・・ オレなんか30cmほどの燃えたブロックを蹴飛ばして火傷するぐらいなのにな。 たしかあの時一緒に避難してた女の子達はどうしてるだろうな・・・一人はジッと泣くのをガマンしててもう一人がわんわん泣いてて手こずったっけ。 親御さんにあったとき駆け出していって安心したもんだ。 もう13年もたつんだな・・・
オレがそんなことを考えてると
『ああそんな大きな瓦礫じゃなくて子どもの頃だからね多分これくらいだったんじゃないかな?(ボソボソ)』
そう言って手で示した大きさは20cmくらいの大きさ。 まあそんなもんか。
『でも温海は見てたように詳しいみたいだな~そんなに何度も聞いてるってことか?(ボソボソ)』
『いいえ、それは詳しいわよ・・・私もソコにいたんだもん(ボソボソ)』
おお、それは災難だったな・・・今この場にこの二人が居るのはその人のおかげかも
しれないな。 その人に感謝しとこう。
『だからなのかあの子キックを必殺技に持ってるヒーローに憧れるようになってね(ボソボソ)』
「そこ! ちゃんと聞いてる!?」
そんな過去の話をしてたオレ達を見咎めチカの雷が落ちる。
「おお!? すまん、聞いてるぞ」
『コクコク』と二人もオレの後に苦笑いで同意してる。
「じゃあいいや・・・とにかく、タンボブラックはすごいんだよ!」
「ああ、そうだな」
「燃える瓦礫をキックでふっとばして私たちを救ってくれた。 でも火がスーツに燃え移って何とか消し終わった後は酷い火傷をしてた・・・でもブラックは私たちを励まして助けるために更に閉ざされた扉を必殺のキックでこじ開けたの!」
・・・あれえ・・・なんかどっかで聞いた話に繋がってきたんですが・・・気付かないフリをしてたんだけども~・・・この流れはなんかヤバイ気がする・・・うん、最近こんな勘が発達してきた気がするのってゲームで『第六感』手に入れたからじゃないよね? と、ゲーム脳になって逃避する。
「どうしたんですか? 顔色がすぐれないようですが・・・」
「ホント・・・筋肉痛が悪化した・・・訳ではなさそうね?」
「ああ、なんでもない」
心配してくれるのに悪いがその大半の原因は3人にあるから。
「そして助かった私たちをパパとママに会わせてくれて何も言わず手を振るだけで去って行った・・・」
火傷が痛くて救急車に運ばれていったんです。
「その後お礼が言いたくて・・・ううんある約束をしてほしくてショーをやってた劇団を尋ねて行ったの。 でもその彼はアルバイトで人づてに紹介された人だった。 それで誰も本名は知らなくて『まっちゃん』という愛称しかわからなかった・・・でもいつかあの人を見つけて弟子にしてもらう!」
あ~弟子にね・・・ゲームの中なら喜んで!
そうか・・・パターンでいう最悪の事態は回避できたようだ・・・ オレは嫌だぞ! ラブコメ主人公みたいな出会った女の子は皆惚れる非常識パターンは! 見る分には面白いが実際なったら目も当てられん修羅場だろう? まあ今の時点で十分オレには非常識です~お腹一杯です~目の前のご飯をいつもなら御代わりするけど、胸がいっぱいとハラハラしたせいでもう入りません。 心なし古傷のある右足を撫でて少し気を紛らわす。 ばれなきゃOK・・・と、しかも都内に住んでる3人とじゃあね。 似たような話があったのかも? 地域的に・・・まて、ご当地ヒーローが都内なんてないわ。
「そ、そそ・・・それっていつごろの話なのかな~?」
「何でどもってるの? たしか・・・12年ほど前かしら?」
はい、リーチ入りました・・・
「そうだね~あの時は丁度パパの仕事のついでで『逢坂』の方に行ってたんだっけ」
速攻ビンゴ・・・そう、バレナケレバナニモモンダイはナイハズ・・・
「よう、『まっちゃん』!」
バレナケレバ・・・
「コンバンハ・・・シゲさん・・・」
シゲさんが気さくにオレに声をかけてきた
「なんだ、まるで大凶と仏滅とさんりんぼうがいっぺんに来たみたいな顔をして」
訝しげにオレを見るシゲさんは目を見開いた3人の様子に気付いたようで・・・
「・・・なんか込み入ってるようだから・・・失礼したな・・・じゃあ、また」
凄く気を使わせたようだが今のオレを放置するのは優しさじゃない!
「「「『まっちゃん』?」」」
三人の声が見事にハモる。
「奇遇だよな~驚いたよ。 でもよくある呼び名だろ?」
「「「・・・・・・・」」」
ごまかせんか・・・恨むぞ・・・シゲさん。
とりあえず目のあるこんな場所では、お互い何なので薄暗くなり街灯の明るい外の休憩所のテーブルに移動してきた
「確かに・・・オレは12年前に小さなアクション劇団『河童横』にアルバイトしてたことがあるし大○デパートのヒーローショーにタンボブラックと戦闘員の役をしたこともある」
オレの言葉に3人が更に驚いたようだ・・・正体がバレタヒーローってこんなやるせないというか・・・勘弁してよ~って気持ちだったのかな・・・ちがうよな?
「じゃ・・・じゃあ、右足の火傷は?」
ホテル専用の貸し出しサンダルをめくって見せる。 そんなに大きくはないがミミズバレのように足の甲から脛までの長い火傷が残っている。 歳とってから偶に引き攣るんだよな・・・寒い時とか。
「ごめんなさい・・・」
いきなりチカに謝られた。 その本人は今にも泣き出しそうな顔をしている。
「私の所為でそんな怪我を負わせてごめんなさい・・・ずっと謝りたかったの!」
溜まった涙が零れ落ちる・・・しまった。 そうきたか・・・はあ・・・全く・・・難儀なヤツだ・・・この娘は!
「ずっと探して・・・助けてもらって・・・でも足を引きずって遠ざかるブラックに声が届かなくて・・・」
グズルチカを見て黙って立ち上がる。
そんなオレ達を見て二人はどうすればいいか分からずにうろたえてるようだ・・・そりゃ~いつも明るいチカがこんな顔してりゃあ付き合いが長いこいつらも動揺するさ・・・ましてやいつも憧れだとか言ってたヒーローの話の裏にちっさい時から罪悪感抱えてたとありゃあ笑える話で無くなるよな・・・
「でも・・・わたしは・・・え!?」
『ポン・・・』という感じで千陰の頭に手を優しく置く。
「そっか・・・謝りたかったのは分かった」
「・・・・・・・」
置いたその手で優しく撫でてやる。
「けどオレはそんなこと気にしてねえ」
「・・・うん・・・」
あやすように千陰の頭を『ポンポン』と優しくたたく
「もう、千陰が気にする事もねえ・・・でもな・・・」
おもむろに手を軽く握りゲンコツ振り下ろす!
「はう!!?」
「「はあ!?」」
オレの突然の奇行に一人は小さな悲鳴を二人が驚いて目を見張る。
「あ、あああうう・・・!?」
何が一瞬起きたのか分からずオレを潤んだ目で見る千陰はゲンコツの痛みで頭を抑え呻いている。 何で!? という表情の千陰に言い放つ
「お前らを助けたヒーローはそんなもん望んじゃいねえ」
静かに怒りを千陰にぶつける。
「ヒーローってのは誰かに恨みを持つために行動してんじゃねえ・・・自分が助けたい者をその手で助けたい・・・そんな思いを持って手を差し伸べるんだ」
まだ痛むだろう頭を抑えて涙目だった千陰が目を見張る。
「そんなヤツが助けた者に謝られて嬉しいと思うか? お前の言うカッコいいヒーローってのは、そんなしょうもないヤツなのか?」
フルフルと首を振り一生懸命否定する千陰の目には涙は無くいつもの強い生命力の溢れた目に戻ろうとしていた。
「オレ如きが言うのもなんだが・・・そんなお前が尊敬するヒーローならどう言われたほうが喜ぶよ? ちゃんと自分で考えてみろ月森 千陰!」
強さを取り戻した千陰の瞳を正面から睨みつけ目を逸らさずにその時を待つ。
長いようで短い緊張した時間が過ぎ・・・千陰がすっと瞳を閉じた。
次の瞬間目を『カッ!』というぐらいの勢いで見開き逆にこちらを睨んでくる。
そんな活きの良い瞳を見返し笑みがこぼれそうなのを我慢して睨み返し誤魔化す。
そんなオレの葛藤など気付いてないであろう千陰は口をゆっくり開く。
「ありがとう!」
そうだ賞賛を求めるのはヒーローでは無いが、オレはそんな立派なヤツじゃない。 でもホントのヒーローが居たとして、言われるのなら謝罪の言葉より『ありがとう』の一言のほうがよっぽど嬉しいはずだ。 少なくともオレが夢見ていた頃のヒーローはそんな愛しきバカヤロウだった。 だからオレは夢を汚されたから怒ったのであって千陰の為だけに怒った訳ではない!
「私はあなたに助けられてから今まで、何もできなかった罪悪感と謝りたい思いもあった・・・だけど感謝してる気持ちはその何倍もある!」
千陰の力いっぱい握った手がその気持ちを雄弁に語っている。
「だから・・・ありがとう・・・あなたのおかげで私・・・こんなに大きくなりました・・・ありがとう・・・政ちゃん・・・」
しかし言ってる最中に声は震え出し俯いていきオレにもたれかかってきた・・・どうも感極まったようだ・・・仕方ねえな・・・まあ、がんばったんだ胸の一つくらいかしてやるさ・・・何も言わず見守ってくれていた華乃と温海の二人に苦笑いで返し優しく背中を『ポン・・・ポン・・・』とたたいてやる。 子守唄を聞かせるように・・・
「ホント・・・あんな小っこい子が大っきくなったな・・・オレも歳をくうはずだ。 でも、泣き虫なのは変わってねえな」
「う~~~~・・・」
また泣き虫に戻りやがった千陰は抗議の声を漏らしているが・・・なあに、すぐに元の元気な娘に戻るだろう。 だから今はもう少し甘やかしてやろう。 なんかニヤニヤしてる二人の様子に悪寒が走ろうと・・・
「政ちゃん・・・」
オレのシャツに顔を押し付けたくぐもった声。
「ん・・・」
「シップ臭い・・・」
そうだよな・・・シリアスなんかオレ・・・オレらには似合わねえ。
「なら離れろ」
にべも無く言ってやる。
「や・・・」
逆に甘えるようにグリグリ頭を押し付けてくる。 こいつ・・・的確に痛てえ所を・・・確信犯か!? 甘えさせるのもそろそろ終りだ・・・頭のてっぺんを軽くぺしっと指ではたく。
「うにゃ!・・・」
やっと顔を上げたチカは、痛くも無かろう頭をスリスリとさすりながら顔を上げる。 目元は少し赤らんで涙の後も新しかった。
「も~何するのよ~優しくないな~」
演技っぽくムスっとしてそれで居ていつもの元気が戻ったようだ。
「オレはそんなに甘くねえ・・・ほれ」
胸ポケットからハンドタオルを出しチカに放り投げる。
「オット!?」
それをなんなくキャッチしてそれでいて不思議そうに手の中の物見ている。
「目の周りがウサギさんみたいになってるぞ。 そこに水道あるから行ってこい」
チカは今気付いたのか目元を慌てて隠し水道に駆けていく。
「お前らも行って来い」
顎でまだ二ヨニヨと微妙な表情をしてる二人を促すと、二人顔を見合わせて何かあったのかいい笑顔になってチカの元へ走っていった。 女同士の話もあろう・・・オレができるのはここまで・・・後は若いもんでやってくれ・・・
水のみ場の水道で何を話してるのやら、はしゃぐいつもの3人娘を眺め頬を緩める・・・反面、ガラじゃないと思いただ疲れたな・・・と思うことにした。
~~~~~~~~~~~~~~~~
「師匠、弟子にしてください!!」
開口一番、戻ってきた千陰はそんな風に切り込んできた。
まあ、そんな話があったなあ・・・でも何の弟子?
そんなことを聞いてみるに人生の先達にとか何とか言ってたが・・・つまるところヒーローになりたいそうな・・・なんて~か・・・何かズレテねえ?
オレが教えれることってそこら辺のことは殺陣ぐらいよ?
何だかんだと断っても頑として聞かない・・・こいつ・・・こんなに頑固だったのか・・・いや、夢を持ってるやつはどこかしら頑固なものだ・・・仕方ないことってか?
じゃあって事でゲーム内で弟子にしてそこから何かしら見つけろと言ったら我も我もと結局次のログインで3人とも弟子にとることになった・・・まあ、オレに何かしら損があるわけでも無し問題は無かろう。
そんな風に思ってた時もありました・・・数分前は・・・
「それで師匠お願いがあります!」
「はあ、なんだ?」
オレはイロイロ疲れていた・・・早く寝てえ・・・ってかオレの呼び方師匠固定か!? まあ、年頃の娘にちゃん呼ばわりされるよりましか・・・習い事の師匠とか誤魔化せるし・・・
「実は・・・ですね・・・」
さっきまでと違いなんからしくなくチカが言いよどむ・・・
「師匠に1人前と認めてもらった暁には師匠の嫁にして下さい!」
男前に一息で言い切った! 褒めるとこだが褒めたくない内容だ!?
「なんでそうなる!?」
「仲間外れはいやです!」
なんか良く分からん理由で嫁になりたい宣言されたオレの感情はどうしたら良いのでしょうか? もう1発躾のゲンコツいくか? オレは他人の子どもを叱れる大人だ。
「好きでも無い男に嫁にしてとか言うな!」
オレは怒ってもいいよな? 怒っていいところだよな? と誰に言い訳するで
もなく自問自答を繰り返す・・・なんか混乱しそう・・・なんだろう血糖値が下がってるっぽい・・・
「違います! 師匠のことは好きです」
「お前の好きはライクだろう!? どう見てもラブじゃねえ!」
こんなおっさんじゃなくもっと若いちゃんとした人を見つけなさい
「12年越しの恋です! 諦めてください! そのほうが楽になれます! 私も嬉しいです! いい嫁になる自信はあります!」
このまま押し切る気満々・・・無茶苦茶だ・・・
「おまえ・・・千陰ってこんなキャラだったの?」
横で苦笑して傍観している二人に矛先を向ける。
「ええ・・・残念ながらやると言ったらやる子です」
「いつか見つかるまっちゃんの為にって今のボディーラインを保ってしかも健康的でなければいい子どもが生めないとかトレーニングとか毎日走りこんでたね」
おおう・・・すげえ・・・筋金が入っとるわ・・・信じられんほど純粋な子だった・・・
「チョット待て! 顔も分からんヤツなのになんでソコまで?」
「あ~そこは私が説明するわ」
温海が説明してくれた話によると・・・
オレが救急車で運ばれて行った後、千陰パパはこう言ったそうな。
「彼のように代価を求めず自分のことを省みず人に助けの手を伸ばす・・・月森に生まれたからには『付き守』として守る者を定めその身をもって守るを常に心がけなさい。 そう彼のような者をこそ師と仰ぎ己の戒めとしなさい」
子供に言うセリフじゃねえだろうパパさんよ~! ってか何時代の忍者や侍ですか!? いや、忍者好きですけど!? 『月森』は元々は『日野』の護衛を担う家系だっていらん説明もされた。
更にその後千陰はその師に付きたいと言った所から、パパさんも見つかるとは思ってなかったのだろう・・・ならば見つかるまで己を磨けと言ったそうな・・・めでたしめでたし・・・ナ訳あるか!
「じゃあなにか? 小さな時から顔も分からんヌイグルミの中のヤツのためにひたすら己を磨いた集大成の頑固者が千陰か!?」
「これなんて酷いよ師匠~」
「うん、酷い男のことは忘れていい人見つけろ、な?」
「うん、でも酷いの忘れたらやっぱり師匠に行き着いた!」
堂々巡りだ・・・わかった、分かりました。
「キリがねえ・・・わかった! それじゃあ千陰も華乃や温海みたいに扱うことでいいな? そこで何か企んでる二人!」
さっきからライバルが増えるかも知れないのに傍観してるって絶対何かある!
「ん~ライバルが増えても勝ち取る自信があるだけだよ? たとえ何を使っても・・・」
お前が言うとシャレニナラン・・・
「私は正面から行くだけです! 何に変えても・・・」
なんだろうな・・・この中で一番まともそうな華乃が一番怖そうな気がする。
「はあ、今日の内に一体何人に言い寄られてるんだよ・・・贅沢な悩みってか・・・人はなくして気付き嘆くんだよ・・・平穏をな・・・」
これが正に平穏な現実に皹が入る予兆とは誰も思わなかっただろう・・・
リアルの中でも信じられないことが起こればファンタジーに入るかな?
この作品案外リアルの方がファンタジー要素強めかも知れません
おっさんがもてたりとか?
お笑い 次回予告
政十郎達4人に忍び寄る黒い影!
平穏な日々の終りへと時は進んでいく
宿泊先のホテルで待ち受ける最上階の謎とは!?
新たに現れた男の正体とは!?
千陰「なぜ、姉さんが!?」
華乃「私の(ヒエラルキーの)力を見せるときがきたようです!」
Ver1.252(強敵襲来! 忍び寄る首領の影!?)
注意・・・今回の予告の内容は題名以外ほとんど冗談ですネタとして笑えないならスルーしましょう




