4.結局はそうなんですよ
「何かあったんですか? 私、何かしましたか?」
「いや、違う。セフィラが何かしたとかではない」
「なら、どうして……」
正直、あんなに、じょ、情熱的に口付けを交わしたのなんて初めてだ。まだ唇に感触がじんじんと残ってる。普段だったら、絶っ対しないのに。
私がぎゅっとフェイラルカ様の頭を抱え込むと、「セフィラ、苦しい」と訴えられてしまう。
「フェイラルカ様が正直に言わないなら、離しませんから」
「この体勢は、これはこれで悪くはないのだが」
「フェイラルカ様!」
「はいはい。ーーまったく、敵わないな、セフィラには。ちゃんと話すよ」
「聞かせて下さい」
フェイラルカ様は一呼吸、間を取ってから静かに話し出した。
「さっき、団長の部屋に行ったんだ。そしたらセフィラと団長の声が聞こえて」
話し声が聞こえてしまった、と。
「聞くつもりはなかったのだがな。セフィラの気持ちがイシュリに向いてると、思ってるわけでもない。浮気だとか、そう思っているわけでもない。ただ……」
耳元で、フェイラルカ様の掠れた声が響く。甘く、切なく、余裕などなさそうに。
「好きだと、イシュリに対して言葉を紡ぐ姿に。これほど、動揺するとは思ってなかった。どんな状況であれ……あんな場面は」
二度と見たくない、と。今度は逆に私が抱きしめられる事になる。ぎゅうは嬉しいのだが、あれ何か勘違いなさってる気がする。
「フェイラルカ……さま。あの、それ多分。勘違いだと……思われます」
確かに言葉だけ聞けば勘違いしてもおかしくない内容なのだが。
「それは、フェイラルカ様に対しての言葉ですよ。イシュリと……イシュリッシュ様と二人で話していたんですよ」
貴方のことを。
私がそう告げれば、私の顔を驚いたように見つめ返しし、そしてその意味をじわじわ理解したのか。
その目元は段々と赤く染まっていく。あ、フェイラルカ様でも照れたりするのね。そう新しい発見に私が口元を綻ばせれば、フェイラルカ様は困ったように眉をひそませて。
「笑うんじゃない。セフィラ、俺はお前が思っている程出来た男じゃないんだ。あんな言葉一つで……こんなにも余裕がない」
「ふふっ。私は嬉しいです。フェイラルカ様のそのお気持ちが。もっと……貴方の心を、私に見せて下さい」
イシュリッシュ様の忠告も、時々はちゃんと聞いておくものだな。こうして照れたり余裕のないフェイラルカ様を見る事が出来たのだから。たまには、こういうのも良いかもしれない。
「俺の心が見たいなら、セフィラの気持ちもちゃんと教えてくれよ」
「私、ですか? そんなのとっくに見せてるじゃないですか。この心はただ一つ」
求める物は一つだけ。この気持ちの行方は目の前にいるこの人だけに。
「いつだって、フェイラルカを求めて止まないですよ」
そう言った時のフェイラルカ様のお顔は、一生忘れられないだろう。