プロローグ
死んだ。
身体の感覚は既に失われ、暗い闇の中を俺の意識だけが揺蕩っていた。
記憶は酷く曖昧だが、酷く不様な死であったという事だけは実感があった。
ただ、道を過ち、『大罪』を犯した俺には相応しい様であったと、どこか納得もしていた。
そんな事を思いながら、俺の意識は闇の中に沈んでいった。
深い、深い、闇の中へ。
「……?」
気が付くと、俺は再び闇の中だった。
ただ、先程とは違い、手足の感覚があった。
しかし、感覚があっても手足は碌に動かせないでいた。
(な、なんだこれ? 棺桶?)
俺の周りの四方八方、まるで棺桶にでも入れられたかの様に窮屈であり、俺の身体は殆ど動かせない状態だった。
「くそっ……このっ!!!」
俺はここからどうにか出られないかと、力任せに右の掌底を突き出した。すると、
「え……?」
突然、闇は晴れた。俺が押したのは俺が入っていた物の『蓋』だった様で、俺が強く押した事で勢い良く吹っ飛んでいったのだ。
飛ばされた蓋は床に落ち、大きな音を立てる。俺は上体を起こしてみて、その床に転がっていた蓋に視線を向けた。
一見分厚い金属で出来た重厚な造りの様に見えるそれには、俺が押した痕である大きな窪みがくっきりと残っていた。
俺が入れられていたのは、金属で出来た棺桶の様な物であり、隣にあった何かよく分からない物体と、無数の管の様な物で繋がれていた。
(どこだ……? ここは……)
俺は辺りを見回す。全体的に古めかしく朽ちた内装、何かしらの薬品の瓶や器具等が並んだ棚、長年使われて無い様に見える埃の積もった作業台の様な物、その全てに見覚えが無かった。
しかし、覚えが無かったのはこの場所だけでは無かった。
(俺は……誰だ……?)
記憶が無かった。俺が何て名前で、いつ、どこから来たのか、何でこの場所でこんな鉄の箱の中で寝ていたのかも、何も思い出せなかった。
ただ、強く実感出来る事があった。二つだけ。
一つは、俺が嘗て大きな罪を犯した事。
俺自身の事について何も覚えていない筈なのに、俺は何故かその事は強く覚えていた。その罪がどんな物かは覚えていないが、俺は兎に角過去に大罪を犯したのだ。
そして二つ目。俺は、既に一度死んでいる事。
何故死んだのかも同様に覚えていないのだが、俺は既に死んでいる、その事だけは確信して言えた。
俺はどうやら、蘇った様だ。この、見知らぬ場所で。




