8 移送
「さて、監察中だと申し上げていたはずですが、何故逃げ出したのでしょう?」
ロイドの質問にギルバートは下をむいたまま答えない。
「ギルバートよ、返事をせよ」
何も言わない息子に対して、父である王が問いかけた。
「私は、ずっと部屋に閉じ込められ、勉強ばかり。ほんの少しの外出もできず、王子である私にこのようなことを強要するなど、不敬です。
ですから、この状況を何とかしてもらおうと、母上に連絡を取ろうと思って出かけただけです」
あきれた言い分に誰もがため息を漏らした。
「ギルバート殿下、逃げ出す際に使用人に何をしました?彼がその後どうなったかご存じですか?」
「あれは・・・ちょっとだけ暴力をふるったが、たいしたことないだろう?
血も出ていなかったし・・・。王族がたかが使用人にやった事で、なんで責められるような言い方をされなきゃいけないんだ?」
その返事を聞き、ロイドは王の方を向き、 よろしいですね? と確認をした。
王は黙って頷いた。
「ギルバート殿下、今よりあなたの身柄を王家直轄の領地に移動いたします」
「なんだと!なんの権利があってお前なんかにそんな事を言われなければならない!!」
ギルバートは今にもロイドに掴みかからんばかりだ。
「王室典範にのっとり、すべてのカリキュラムを終えるまで、王子としての身分、権利すべてが凍結されます」
「なっ・・・」
「王族としての立ち居振る舞い、思考、知識等、現在の殿下はふさわしくありません。
王族としてふさわしいのかを見るために、監察がなされるのです。
私は臣下ではありますが、王命により、殿下の監察をしております」
「ぐぅうう、父上、父上はそれでいいのですか?こんな失礼な事を言われているんですよ?」
「問題ない、カリキュラムを終えればよいのだ」
王の言葉に、ギルバートはがっくりと膝をついてしまった。
そんなギルバートに、
「お前は私の息子だ、私の息子なのだ。しっかり学びなおして戻るがよい」
王はそう言って声をかけた。
たとえ側妃との子供であっても、親としての情はあるのだ。
学びなおして立ちなおってほしいと、王は心から願っていた。
ギルバートは王家の直轄地に移送されていった。
監察部隊からは、教育係が付けられ、歴史からマナーに至るまですべてを学びなおし、近くの孤児院での奉仕活動なども義務付けられた。
王の最後の言葉に何か思うことがあったのか、真面目に取り組んでいる、との報告があがっていた。
「まだ14歳です。周囲の環境によってはどのようにも変わることができるでしょう。
クリスフォード殿下もそれを求めておられますから」
ロイドは王と王妃、宰相たちの前でその様に話した。
「やはりローゼン公爵家の影響が大きかったのだろうな」
「そうですね、周囲の者すべてがローゼン公爵の息がかかっておりましたから」
「入学までには戻れるかしら?」
「殿下の頑張り次第ですね。まあ、あの側近候補達がいないのですから、大丈夫かと」
「ところで護衛候補と側近候補達はどうしている?」
「再教育中ですが、こちらは前途多難です」
ロイドが苦笑を漏らした。
サミュエル達側近候補は側近としてのすべてが不足していたのだ。
貴族たちのパワーバランスもわからず、隣国との関係についても全く知識がないというあきれた状況である。
「クワイエット公爵の方は?」
「だいぶ監察も進んでおります。ローゼン公爵までたどり着くのもあと少しかと」
「そのローゼン公爵はうまくハッシュレイ湖に誘導できたからな」
「しかし、ロイド、監察とはいえ容赦なくやるとは、怖い男だな」
「クリスフォード様がお戻りになるまでには地盤を整えておくのが側近の役目ですから。
それに、監察とはそのような仕事だと思っておりますので」
ロイドはそう言って真面目な顔で眼鏡の位置を直すのだった。