9 計画
サミュエル達側近候補は、王宮に軟禁状態で再教育をされていた。
「問題だらけですな」
教育係としてつけられた講師は、とある男爵家出身であった。
だが、彼は優秀な人物で、その論文は各国からも称賛されているほどの著名人であった。
だが男爵家だから、と馬鹿にするサミュエル達は全く授業を受ける気がないらしい。
ロイドが様子を見に行った際も、相変わらず不貞腐れたままで、椅子に座ることもしていない。
「ロイド、いつまでこんな事をさせる気だ?」
「私たちはギルバート殿下にお仕えしなければならないというのに、今更また再教育などと・・・」
「たかが男爵家ごときが我々の講師などと・・・」
「ロイド、お前、優秀な我々に嫉妬してこんなことをしてるんじゃないのか?」
しまいには、ロイドに対してその様な暴言まで飛び出した。
「優秀ねえ・・・。まあいいでしょう、でしたらこの案件を解決してください」
そう言って渡した書類には、貧民街の衛生問題に関する陳情書だった。
貧民街では現在、謎の流行病が蔓延しており、このままでは下町まで広がりかねない事、原因をはっきりさせた上で、病気を止めてほしい事、今後の事も考えて、貧民街と呼ばれる場所の整備計画を考えてほしい事、その3点が書かれている。
「こんな案件すぐにでも処理してやるが、それには予算がないとな」
「計画書を出してもらえれば、すぐにその予算をつけましょう」
「本当だな?」
「お疑いならすべて書面にて契約しますよ」
「ふん、自分たちで解決できない案件を持ってきたんだろうが、こんなのすぐにでも解決してやるよ」
それから三日後、提出された計画書を見たロイドを始めとした監察部隊、国王、宰相、建設大臣、王宮医務官は全員が無言になってしまった。
計画書の内容が、どう読んでも〈貧民撲滅計画〉となっていたからだ。
貧民などいなくても問題はない、むしろ隔離して全員罹患させるべきで、治療の必要はない。
よって、病気の原因である貧民街はすべての区画を封鎖して全員がいなくなるまで放置。
そこに出入りする者はすべて犯罪者として拘束。
万が一下町にも流行が広がれば、その都度封鎖場所を拡充。
貧民街で貧民が一掃された後、すべての建物をつぶし、その上に娯楽施設を建設。
娯楽施設はカジノなどが入った商業施設となるが、筆頭管理にはギルバート殿下が付く事、だそうだ。
試しに再教育中のギルバートにこの案件の解決方法を課題として与えたところ、
「まずは貧民街の事を知らないと何もできませんから」
そう言って、講師に貧民街についての資料を要求してきたそうだ。
そこからは、講師が情報を与えつつ、ギルバート自らが考えながら解決策を模索中らしい。
「以前は貧民など人では無い、などと使用人に対しても横柄でしたが、サミュエル殿たちと距離を置くことで、そういった選民思想から徐々に違う考え方も受け入れていらっしゃるようです」
講師はそう言って嬉しそうに報告してきた。
「まだ、14歳、今後の成長が楽しみです」
それを聞いた父である王は、嬉しそうにその目を緩めた。
「さて、監察権限により、これでサミュエル達の側近候補を解任いたします」
ロイドの宣言にその場の全員が了承として手を挙げた。
「ギルバート殿下の側近候補は新たに決めてください」
「わかった、本当に優秀な人材を身分関係なく入れるようにしよう」
「ロイド殿、それで、貧民街についてだが・・・」
王宮医務官が声をかけた。
医師として、貧民街の流行病については気になるところだったのだろう。
「ああ、それについてはご心配なく、すでに計画書を提出の上、議会にて了承を得ております。
現在は、貧民街の流行病患者の隔離、治療方法の確立、それによる薬の調合を始めております。
王宮医務室もお力添えいただければ、早く終結することでしょう。
お願いできますでしょうか?」
「我々の知識が役に立つのです、喜んで協力しましょう」
「また、貧民街の整備についても早急に行うため、すでに予算編成中です」
「まさか、貧民街ごと潰すのか?」
「そんな気の狂ったような政策をしたら、人心が付いてきませんよ。
あそこが貧民街になってしまったのは、水源がなく、汚染の心配がないからとゴミ捨て場として利用されていたからです。
ごみを漁るものが居つくことで、貧民街になってしまったのでしょう。
少し時間はかかりますが、王宮主催の事業として貧民街に水路を作ります。
貧民街の住人から積極的に労働力を募集しますので、住居の整備なども速やかに進んでいくでしょう」
貧民街についての問題はギルバートの良い教育材料になる、として、新たな側近候補の選抜を兼ねた
同年代の貴族子弟が一緒に解決まで参加することとなった。
自信満々に提出した計画書が酷評されたことを知り、サミュエル達は激怒した。
そして、側近候補からも外された事を知り、ロイドを襲う計画を立て始めた。
「あいつさえいなければ、我々は元の生活に戻れる!」
ロイド一人いなくなったところで、彼らの処遇が変わるわけではないのだが、怒りで我を忘れた愚かな彼らにはそれがわからなかった。
当然だが、人脈も人望もなく、頼みの側妃マリアベルもローゼン公爵もいない中、その計画が果たされることはなく、王子予算の使い込み分と合わせて、南の領地に労働者として送られることになった。
クワイエット公爵以外の側近候補達の実家も、すでに監察の摘発が済んでおり、南に送られる息子たちを気にかけることはなかった。




