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白蛇と人災


「うん、うまいっす!やるっすねボルクス君!」

「ありがとうございます。大したものは作れませんがこれくらいでしたらいくらでも。」


 王宮を出ておれとボルクス、手助けしてくれたリザリーは『女神の子』なるやつと戦うために、一路フェルーへの道中。向かっていたのだが・・・


「・・・なんで悠長に飯食ってんの?」

 マンガで見たような骨付き肉を頬張るリザリーに質問と視線を投げかける。


「なんでって。夕食時だからっすよ?」

 当たり前だろうといった顔でおれの投げた質問に対して求めているのとは違う返球が帰ってきた。

「もう少しで荷車が帰ってくる、」そう言った彼女だったが結局彼女の部隊が戻って来たのは数時間後の事だった。 

 

 結果的におれたちは思っていたよりも進むことができず城下街を抜け少し進んだところで日が完全に落ちてしまい野営をすることになってしまったのだ。


「そもそも王都のバカでかい壁の中なら魔獣も出ねえんだろ?」


 この王都と呼ばれる都市は半端じゃない広さの敷地を魔獣除けの術式で囲い複数の街が点在する集合都市だ。なので夜間であっても魔獣の出現頻度は王都外の街道と比べると天と地ほどの差があるらしく、夜の長距離移動も可能なのなはずである。


「魔獣が出ないからって夜通し強行軍かますつもりっすか?そんなことしたら着いた頃にはさすがの僕でもヘロヘロで使い物にならないっすよ。それに、仮に僕らがそれで動けたって馬の方がもたないっす。ちゃんと休むことも大事っすよ?」


 確かに正論ではある。夜通し走り続けることができたとしてもまる2日。

 内心早く追いつきたい気持ちでいっぱいではあるが追いついたとしても疲労で動けないのでは戦力的にどうこう以前の問題だ・・・


「焦る気持ちはわかりますよ。けど今はリザリー様の言う通りです。休めるときはしっかり休んでください。それでなくてもあなたは無茶ばかりするんですから。」

 ボルクスが言葉と共に差し出してくれたスープで口から出かかった焦燥感を飲み込む。


「・・・わかったよ。」

 じっとこちらを見ていた二人に渋々頷き骨付き肉に手を伸ばす。

 日本人なら誰もが憧れるこの料理。どうせならもっと、晴れやかな気分の時に食べたかったものだ・・・


「うんうん。素直でよろしいっす。お姉さんの言うことは聞くもんすよ。」

 満足そうにうんうんと頷くリザリー。

「お前の属性が定まらなさすぎだろ。ケモ耳にロリ巨乳に僕っ娘でお姉さん。その上戦闘中毒者(バトルジャンキー)って・・・キャラが渋滞してるっつの。」

「ちょっとなに言ってるかわかんねっす。」


 というか今思うと『王剣三銃士』様とやらは、どいつもこいつも揃いも揃ってキャラ盛り過ぎだろう。高身長、高収入、高攻撃力の3Kの最強騎士様。高学歴、高身長、高慢の3Kの最高の魔女様。

 そして目の前にはケモ耳、巨乳、クレイジーの3Kの最凶ロリ様。・・・クレイジーのスペルが違うことくらいはおれだってわかっているが。


「そりゃあ脇役にもなるよなぁ、おれ・・・」

 食後の一服をしつつくだらない思考に頭を傾ける。


 理解してはいても時間が空くとどうしても焦りが出てしまう。

「浮かない顔してるっすね~。今からそんなんじゃ身がもたないっすよ?」

 相変わらずどぎついアルコールが入ってそうな酒を片手にリザリーが傍に座る。

「お前の脳は酒浸しか?それか胃の消毒でもしてんのか?お前の胃は雑菌まみれなの?」

「な~に言ってんすか!こんなの一本くらい寝酒にもならないっすよ!」


 獣人は酒が強いとはデロスでも言ってたが、こいつはそういうレベルを大幅に超えている気がする。

 牛の胃みたいに肝臓が四つくらいあるんだろうか。

「やっと表情がちょっと晴れたっすね。多少男前になっても気は小さいんすね。」

 からかうように笑うリザリーだったが以外にも彼女なりの気づかいだったらしい。


 そもそも彼女に人を気遣うなんて感情があること自体驚いた。

「悪かったな。あと男前になったんじゃなくて、もともと顔はいんだよおれは。」

「あはは。そんだけ軽口叩ければ十分すね!明日は日の出と同時で出発するんで夜更かししちゃダメっすよ~?」

「へいへい。」


 なぜか手渡されたリザリーの飲みかけの酒を少し口に含む。うん。もうほぼ消毒用エタノールの味だ。


「あ!でも僕と夜更かししたいっていうなら言ってくださいね?こんなかわいい子と同じ荷車の荷台じゃ男の子は大変っしょ??」

 ニヤニヤしながら自分の胸を持ち上げる彼女に思わず酒を噴き出す。


「っぶ!お前もうちょい発言考えろ!」

「あっははは!いや~おもしろいっす!そんな見た目で意外と慣れて無い感じすか?ほんとにお姉さんが手ほどきしてあげましょうか??」

「るっせ!早よ寝ろ!」


 笑い続ける彼女をしっしと追い払い、どぎつい酒を仕方なく口に含む。


「こんなもん飲んでたら胃の中が無菌室みたいなりそうだな・・・」

「ずいぶん楽しそうな声が聞こえてましたけど何かあったんですか?」

 入れ替わりで洗い物をしてくれていたボルクスが片付けを終え戻ってきた。


「楽しくねえよ、、、。あんの酒浸しロリめ、、。」

「ろり?あまり飲み過ぎて明日起きれないとかやめてくださいよ?」


「ヤバいチビって覚えとけ。これもあいつが押し付けて荷車に戻ったから仕方なく飲んでんだよ。じゃなかったらこんな消毒薬みたいな味の飲むかよ、、、。」


 普段なら数分で無くなりそうな量なのにとにかく味がキツイ・・・

 もったいないの一心で受け取るんじゃなかったと少し後悔している。


「わかりました。そう把握しておきます。」

 なにが琴線に触れたのか、ボルクスは楽しそうに笑っていた。

「・・・いろいろ迷惑かけたな。」

「どうしたんですか急に?」

 なんとなく発生した沈黙を破り素直に謝罪を述べる。

 

 こんなタイミングでこういう話題はいけないフラグな気もするが、、。

「まあ・・・ちゃんと言っとかねえとかなって。」

「謝られるようなことは何も覚えが無いですよ?」

「あー・・・なるほどね。こういう時はあれだ。――ありがとう。か。」

「はい。どういたしまして。僕にできることなら何でも言ってください。」

 少し満足そうな表情をしボルクスも荷車の方へと歩いていく。

「では僕ももう寝ますね。タイヨウも早く寝てくださいよ。」


「はーい。これ無くなったら寝まーす。」

 もう一息がなかなか飲み干せない瓶を振りながら荷車の中へ入って行こうとするボルクスの背中を見送る。が、なぜか顔を突っ込んだところで困ったような顔でこちらを振り向いた。


「なんだよ。いい感じに締まったんだからすんなり寝ろよ。」

「僕もそうしたいのは山々なんですが・・・」

 そう言って彼は荷車の中を指さす。


 仕方なく立ち上がり、中を確認しに行くと

「異世界女子の寝相は悪いのがデフォルトなのか?・・・」

 色々と直視しては倫理的にまずそうな格好で荷車の真ん中で大の字に眠るリザリーの姿があった。


「これでどうやって3人寝るつもりなんだ・・・」

 手で顔を覆いため息をつく。とりあえず、明日の朝寝不足で迎えることは間違いなさそうだ。




「ふぁ~~~~~、、、。」

「大きなあくびっすね~。あんなところで寝るからちゃんと休めないんすよ?」

「誰のせいだよ、、、!」


 翌朝。辺りはまだ日が昇ったばかりで朝なのか夜なのか、境目が何とも曖昧な時間帯だ。

 結局リザリーを横に転がしてみたものの、眠りながらも抵抗してくる彼女に根負けしボルクスだけを荷台に乗せおれは外で眠る羽目になった。


 ちなみに、中で寝たボルクスもかなり眠たそうにしており熟睡とはいかなかったようで今も荷台で寝たままにしてある。

 なにがあったのか見てはいないがなんとなくの察しはつくが・・・せめてラッキーな方の理由であってほしいと願うばかりだ。


「そもそもあんな真ん中で寝られたらおれらどうしようもないだろうが。」

「狭いのは仕方ないっすよ。なにせ時間が無かったんすから。ていうか皆で引っ付いて寝たらいいじゃないすか?あ。もしかして恥ずかしくて眠れないとか??」

 昨日に引き続き元気な彼女にいじられているが今は本当に眠いので反撃も反応もする元気が無い。


「お兄さんも後ろで寝てきたらいいんじゃないすか?」

「さすがにそこまで気は抜けねえよ。一応厳戒態勢だろう今。」

 もう一度大きなあくびをして前を向く。目の前にはなんともそんな厳戒態勢を感じさせないのどかな草原が続いている。


「まあ~たそうやって気を張るんすから。そういうのはいざって時に置いとかないとダメっすよ?」

 そういう彼女は朝っぱらから酒を片手に荷車に乗っている。


「いや、お前は緩み過ぎだろ?慰安旅行じゃねえんだぞ。」

「普段はさすがにこんなことできないっすからね!僕だってさすがに部下の騎士さんがいる時は気を使ってるっすから!」

「この世界には道路交通法はねえのか・・・」

「あるっすよ?人を引かないように注意する。って。」

「じゃあそこに「飲んだら乗るな。飲むなら乗るな。」って足しとけよ。」


 その後も緩い空気の中、うとうとと寝落ちたり起きたりを繰り返しながら荷車を走らせ続けた。

「タイヨウ?しっかり寝てしまってすいません。代わるので後ろで寝てきたらどうですか?」

「ん?あぁ・・・じゃあ寝てくるわ、、、。くぁ~~」

 うとうとしていたところをボルクスに起こされ荷台へと移りしばしの仮眠を取る。


 こんな緩くて本当に大丈夫か、、、?夢現にそんな事を考えながら眠りに落ちた。

――そして残念ながら、その心配はすぐに払拭されることになった。緩い空気で送っていたおれたちの旅路も起きた頃には一変、シリアスモードになったからだ。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 そこそこよく眠った気がする・・・頭は起きていないが意識は起きたのでぼんやり前の二人の会話が耳に入ってくる。


「ん~~~~~、、、?」

「どうしたんですリザリー様?」

「いや。そんなに何回も行ってるわけじゃないからわかんねっすけど。こんな所に丘なんてあったかなって。」

「まあずっと草原ですしね。地形まで把握するのは難しいですよね。」


 何か問題かと思ったがそんなに深刻ではなさそうなのでもう少し眠ろうかと思いうつらうつらしていると・・・

「あ!やばいっす!止まって止まって!」

「うわっ!」

 荷車が急ブレーキをかけ荷台を転がり壁にぶつかった。


「・・・いってぇ。」

 痛みでさっきまでよりは頭も起きたが以前おれにはよく状況が掴めない。


「なんだよ・・・もうちょい優しい目覚ましでもしでもよく――」

 独り言を言いかけた所で気づき口に出しかけた言葉をしまいなおす。

 見なくても分かる変化。そう何度も体験したわけじゃないが忘れるはずの無い五感への刺激。

――血の匂いだ。


 それも辺り一面を覆いつくすほどの分厚い臭気。

 先ほどまでは荷車が走っていたことと、追い風であったことが影響し近づくまで気づかなかったがこのにおいの強さから察するに一人や二人の者ではすまなさそうだ。


「おい!なにがあった!」

 荷車を飛び降りた所で目に飛び込んだ光景に目を疑った。


 掘り返され顔を出した土の茶色の上に、ペンキ管を落としたように散りばめられた赤色。

 死屍累々とはこういうものを言うんだろうなと漠然と思った。騎士や魔獣と思われる死体の数はぱっと見でも合わせれば100は下らないだろう。

 けれど目を疑ったのはそれらがおまけに思えてしまうほどの、草原に突如口を開けた大きな堀のような長い穴だった。 


 見る限り向こう側10mと深さが10m程度ずつ。その大きさのものが横に30m以上は続いていそうだ。まるで蛇みたいな巨大な生き物がのたうち回ったような跡。


 どうすればこんな穴ができるのか?そもそも普通の生物にこんなことが可能なのか?

「なんだ・・・これ・・・」

 横に視線を移すと、ボルクスだけでなくリザリーまでもがいつになく真剣な顔をしていた。


「リザリー様。これって・・・」

「『バシュム』っすね。やっかいなのが出て来たっす。にしても都合のいい登場っす。それにヴァルト君がいてこの数の死傷者。とにかく急ぐっす。めちゃくちゃ嫌な予感がするっすよ。」


 何とも驚いたことにこの破壊痕は何かしらの生物が行ったものだという事は二人の会話から見えてきた。

 けれどあまりに現実離れしている。これが魔獣の仕業だとしてもおれの倒した「ウガル」では10匹いようとこんなことはできない。なにより体感だがあの程度の魔獣ではヴァルトのいる部隊を、ここまでの被害にはできないようにも思えた。


「なにボーっとしてるんすか?とにかく進めるだけ進むっすよ!」

 リザリーに急かされ荷車へと戻る。今更ながらにとんでもないことを決意したもんだと思い知らされた。


「とにかくこうなってくると夜はなおさら動けねえっす。けど、あれだけの被害が出ている以上ヴァルト君の部隊もかなり疲弊しているはず。日が出ている間にとにかく進むっす。お馬さん、ちょっと無理させるっすけど頑張ってくださいよー!」

 握る手綱を大きく振り横たわる大穴を迂回するべく進路を変え旅路を急ぐのだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 そこから急ぎ足で2日。おそらくは明日の昼過ぎにはフェルーの街までつけるかという所で野営をする。

 あの日、草原で惨状を見てからというもののさすがに少しばかり空気が重い。


「とりあえずここまでは無事来れたっす。爺様の予知の日時は明日。ギリギリっすね。」

「そうだな。迂回したからどうなるかと思ったけど間に合いそうでよかった。」

 想像では戦闘前に最後になるだろうゆっくりした晩ごはんを終えしばしの歓談中。


 あの日以降さすがに悠長に全員で就寝とはいかないので交代で番をしている。

「今更だけどさ。そのバシュム?って何だ?魔獣の仲間?」

「タイヨウはバシュムも知らないんですか?そんな人いるんですね。」

「無知で悪うございましたね。」


 だが反応を見ればかなり有名なことは分かった。要するにそれほどヤバい奴って事だろう。


「バシュムは魔獣の中でも()()の個体が確認された中では最強と言われています。」

「多数の個体?」

「はい。この場合前に説明した『魔人』は除きます。」

「魔人てのは魔獣に人がなったやつだよな?狂人てのもいるんだっけか。」


「その通りです。一応わかりやすくするために分けて呼称されていますが、基本的には同じ種と思ってもらって問題ありません。それらを総称して『ギルタブリル』と呼ばれています。魔人化したものにはバシュムも及びませんがそうそう発生するものではありませんので。」

 なんとなくの種類訳に納得し頷いてみせる。


「1匹しかいねえ種類もいるのか?」

「そうですね。漆黒の海魔『ラフム』。空を統べる竜『ウシュムガル』。そして有翼の牡牛『クガランナ』。この三体に関してはもはや『災害』扱いです。まあその姿を見たものですらほとんど存在しないのが現実ですので、本当にいるのかも怪しいですが。」

「おいおい。神様陣営ちょっと層が厚過ぎひねえか?難易度高すぎるだろ・・・」

「だからこそ、ついに始まった女神との決戦までの秒読みに国中が厳戒態勢になりつつあるのです。」


 女神様一人倒せれば、シルヴィアが気兼ねなく笑えるようになるのかと思っていたが・・・

 そこにたどり着くまでの障害が四天王どころの騒ぎではないことはよくわかった。


「僕的にはぜひともその魔獣たち全部、自分の手で狩ってやりたいんすけどね~。聖典に姿が記されてるだけでほとんど噂話の域っすからね。」

 とても物騒なことを残念そうに荷車のへりに座り足をプラプラとさせているリザリー。


「災害ねぇ・・・」

 聞いたところによると傍に居るリザリー・バロックフォートに着けられたあだ名は「王国最凶の人災」だそうだ。


 人の身にありながら”災害”と。神話に出てくるような化け物と同じラインに並べられた女と二度もケンカして我ながらよく生きてたもんだ・・・


「なんすか?人の顔じっと見て。」

「いんや。自分で自分を褒め称えてただけ。」


 目を逸らして寝る前にタバコに火をつけ煙を吐き出した瞬間全身を寒気が襲った。

 前にも受けたむき出しの怒りや殺意をぶつけられたような感覚。


「タイヨウ、どうしました?」

 おれの様子を見て何かを察した二人がこちらを不思議そうに見ている。

「やべえ!荷車出せ!」

「何をそんなに焦ってんすか?それに夜はダメだって。」

「どっかにいる!とにかく早く!」

「なんにもいないっすよ~。そもそもまだお月様もてっぺんに昇ってないからバシュムがいたとしても動くには早いっすし。」


 この寒気が二人には分からないのか??ボルクスはまだしもリザリーまで感じないのはどういうことだ!?


「説明は後からするから――」

 おれの必死の説得は地鳴りのような何かが這う音にかき消され、二人の耳には届かない。

 代わりに何を伝えたかったを否が応にも二人は見た。


 巨体。としか形容のできない巨大な何かがこちらを数十m先から見つめている。

 この距離でも這う音が隠せないほどの巨体。夜の闇の中浮きあがったまがまがしい雰囲気とはあまりにも違和感のある純白の蛇。


「・・・なるほどっす。」

「あれが・・・バシュム。けどなんで?まだ時間が早いのに、、、。」

「考えんのは後だろ!こんな時にあんなのとやり合ってる余裕無えぞ!」


 呆然とするボルクスを抱え上げ荷車へと積み込む。

「乗ったすか?行くっすよ!」

 言うや否やリザリーは手綱で馬を叩き全速力で走りだす。


 そしてそれを追う様に白い蛇も行進を開始する。

 ただ移動するだけで大地が抉れ、奴がいた痕跡を地面に刻みながら這い寄ってくる。


「このままやだ追い付かれんぞ!」

「わかってるっすよー!けどこれが全速力っす!!」


 荷車を引く馬も自らの危機を感じているのかこの数日で一番の走りを見せるが・・・

「早え、、!」


 巨体を思わせない速度で白蛇は徐々に距離を詰めてくる。

「にしても良く気づいたっすねお兄さん!僕でも全く気付かなかったのに!!」

「獣人より鼻が利くみたいだなおれは!てか、今そんなこと言ってる場合じゃねえだろ!」

 普段通りの口調でどうでもいいところが気にかかったのかリザリーが声をかけてきた。


「それよりも。僕思ったんすけど。このまま逃げるのもそれはそれでまずくないっすか!?」

「なんでだよ!今おまえの病気(戦闘中毒)に付き合ってる場合か!?」

「ひっどい言われようっすねー!けど、逃げ切れるかも微妙すけど逃げ切っちゃったらこのままじゃ、あいつ。連れて行くことになるっすよ??」

「あ、、。」

 

 言われてみればその通りだ。おれたちがこのままフェルーに向かえばただでさえ消耗しているであろう所へ厄介ごとを持ち込むことになる。


「で、でもリザリー様!だからと言ってどうするんですか!?」

 ようやく情報処理が追い付いたのかボルクスも前へ身を乗り出し、青ざめた顔で会話に混ざってくる。


「決まってるっす。ほいボルクス君。運転交代よろしくっす。二人はこのままフェルーへ向かうっす。僕はあのデカいの寝かしつけたら追いかけるんで!」

 と、カッコいい死亡フラグを目を爛々と輝かせながら口にした。


「それはさすがに無理があるんじゃ・・・」

「ボルクスの言う通りだろ!どうせやるなら三人であれを片付けて――」


「なんすかなんすか~。いっちょ前に人の心配すか?僕を誰だと思ってるんすか?それに申し訳ないっすけど二人がいても足手まといっす!」

 新しいおもちゃを見つけた子供のような無邪気な笑顔で言葉のナイフを投げつけてきた。


「そう言われるとなにも言えねえけど、、、!」

「それに、な~んか嫌な予感がするんすよ。ただの勘っすけど。よく当たるんすよね僕の勘。てなわけでヴァルト君の方はよろしくっす!あと、もしもう一匹いたりしたらそこは自分らで何とかしてください!」

「優しいのか厳しいのかわかんねえな、、!了解。終わったら飲み会なんだからちゃんと遅れず来いよ!」


 ニカっと満面の笑みでこちらを振り向き

「当り前じゃないっすか!会議なり集会なりは遅れても飲み会だけは絶対参加っす!特におごりとあればなおさら!!」

「いや、なんでおれがおごることになってんだ!こちとら無職だぞ!」

「ケチっすねー!ま、楽しみにしてるんで!そっちこそ無事でいてくださいよ!」

 言い終わると同時にこちらの返答を聞かず彼女は荷車を飛び降りた。


「本当にいいんですか!?」

「悔しいけどあいつの言う通りだろ・・・おれらがいても邪魔にしかならねえ!それに、おれもなんか嫌な予感がビンビンすんだよ・・・とにかく今は急いでフェルーへ!」

「・・・わかりました!落ちないように気を付けてくださいよ!!」


 後ろでは大蛇と戦闘が始まったのかとてつもない爆発音のような音が鳴り響き、彼女の姿も視認できないような距離から立ち上がる土煙だけは確認できた。

 

「人が覚悟決めた途端に不戦敗なんて勘弁してくれよ、、、!」

 


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