婚活は所詮、手段に過ぎない?⑧
「ねえ、田井島さん。何か他に酒の名前が出てくる小説とか、歌とか…ありますか?」
子安がずげずげと聞いてくる。この子は知りたいと思ったら、どんどん聞いてくるタイプのようだ。一方、戸部はいろいろ知っているが、自分からひけらかすようなことはしないようだ。ただし、子安が変なことを言ったら、さりげなく訂正するしたたかさを持っている。なるほど、確かにいいコンビだ。
「そうだね。平井堅のイーブン・イフにバーボンとカシスソーダが出てくるかな…」
「バーボンって、何ですか?」
「バーボン・ウィスキーのことよ。通はオン・ザ・ロックで飲むとうまいと言うらしいよ」
戸部が代わりに答えてくれたので、田井島は特に何も言うことなく、テーブルに戻ろうとした。しかし、空いた席には他のメンバーが座って会話をしていたため。三人は最初のテーブルの空席へと座る。ふと、テーブルを見ると田吉がいない…。
近くのイギリス人男性に聞いてみると、何人かで日本文化を知るために、ラーメンを食べに行ったと言うではないか。もちろん、例の金髪留学生もいないので、一緒に夜の街へと消えたと思われる。
さすがにそれは変に詮索せず、推測にとどめておいた。それにしても、あんなことが合っても、なお相変わらずとは実にあっぱれである。
もちろん、三つ固まって席が空いているはずも無く、三人はバラバラに散らばる。ある特定の異性と仲良くなるものいいけど、言葉も文化も違う人々と入れ替わり、立ち代わりに話していくのも悪くない。席を替えた後、偶然同じテーブルに千原ちかがいたので、田井島は
「あ、この前はどうも…」
と頭を下げた。千原も田井島に気付いたのか、同じように頭をさげる。そう言えば、千原は英会話教室を開設したいと言っていたな…。とても流暢で聞き取りやすい英語。
ああ、みんなそれぞれの正解で頑張っているんだよな…。ところで僕は一体何を頑張り、どこへ向かっているんだろうか…。ふと、田井島はそんなことを考える。




