婚活は所詮、手段に過ぎない?⑨
どこに価値観を見いだすかは人にもよるだろうが、人生を本当に意味で豊かに彩るのは、自分とは全く異なる言葉や文化、思想などを持つ人々である。
彼らは自分の中に無いものを発見させてくれる。もちろん、それぞれの価値観を認め合える素敵な異性と出会えたら、それは違った意味で人生が豊かになるだろけど…。
九時過ぎに会はお開きとなった。ずいぶん早い解散に思われたが、五時から始まっていることを考えれば、極めて妥当かもしれない。
田井島は戸部と子安に一言挨拶した後、この会の幹事であるアーノルドに感謝の言葉を述べる。それから、会場を後にした。さすがにこの後も続けたい人は店を変えるらしい。田井島は久々に難しい英語をフルに使ったので、今にも知恵熱を出しそうなほど疲れている。しかし、実に心地よい疲れであった。
それなのに…。家に届いていた一通の手紙のせいで、一気に気分が悪くなった。差出人の名前は水巻美羽。彼女こそが田井島の母親である。
離婚してまだ幼い田井島を連れて再婚。そこまでは田井島に取ってもよかったと思う。しかし、再婚後に継父との間に子どもが生まれてからは、継父とともにひたすら田井島を冷遇した。要するに田井島は母に見捨てられたのだ。母の幸せのために…。
そんな訳で、大学を出てからは完全に音信不通だ。今さら何のつもりか? 手紙には継父が急死したから、今までいろいろあったけど、一度実家に戻って来てくれないかとの旨が記されていた。そんな都合のいいことを、よく手紙に書けたものである。反吐が出るぜ。
今なら、母も母なりに苦しい立場にいたことは分かる。それでも、継父と一緒になって冷遇してきたではないか…。そんな中で強いて母親らしいことをしてくれたことをあげるなら、継父に高校・大学の学費を出させるように約束してくれたことぐらいである。
だが、それさえも、早く田井島を家から追い出すためと理由で…。そんな理由でなければ、継父は学費を出さなかっただろうけど、母には否定さえしてくれなかった。
そんな背景があるから、これまで大学卒業後に一度も家に帰っていなかったというのに…。よくもまあ、こんなに都合のいいことが言えたものである。こんな時、柚木結鶴は何と言うだろうか? ふと、無性に彼女の声が聞きたくなり、柚木結鶴に電話する…。




