婚活は所詮、手段に過ぎない?③
まさか、そんなにあっさり認めるとは…。もっと、ごまかすのではないかと思ったのに…。田井島は一瞬拍子抜けしたが、すかさず別の質問を畳み掛ける。
「ええっ! それ、すごいじゃないですか! ペンネームは何て言うんですか?」
「田井島…お前、興味のあることにはとことん食いつくんだな…。全く…興味あることと、ないことの差が激し過ぎるぞ…」
おっさんは急いで、机の上の資料を片付けてから、ネットの「小説家もどきのお部屋」と言うサイトを見せてくれた。田吉は「大所チータ」と言うペンネームにて、趣味の範囲で活動を続けているようだ。まあ、二〇年もやっていると言うだけあって、作品も五十近く発表している。
長編もあれば、短編もあり、内容も政治モノの固い作品から、夜の街の浮ついた物語まであった。思えば、やけにこった言い回しとか表現をするなあ…と感じることがよくあった。これで全てがつながる。
「ところで、ペンネームは何か由来でもあるんですか?」
「アナグラムだよ」
「アナルラム?」
「ア・ナ・グ・ラ・ム! お前、アナグラムを知らないのか? いいか、俺の名前は田吉太一だろう?」
「はい…」
「それを並び替えると、大所チータになる」
「おお、すげえ!」
「こんなの、物書きの初歩技術の一つなんだけどな…。本当はネットで知り合った人以外にはあまり知られたくなかったのに…。まあ、仕方ない。気が向いたら、暇つぶしに読んでくれ!」
それにしても、田吉のおっさんは芸達者だなあ…。おっさんの話によれば、結婚する前に仕事しながら、作家養成学校の通信教育を受けていた時期もあったとのこと。そんなものが存在していることすら、田井島には初耳であったけど…。
そこで「タンデムシートに君を乗せて」で華々しくデビューしたらしい御金持好に弟子入りしないかと言われたらしい。仕事を捨ててまで、小説に打ち込むようなバクチはできずに断ったらしい。
断らなければ、今頃は御金持一門で大成した司馬やまとや南風新のようになれたかも…なんて、サラッと言うあたりはおっさんらしいけど…。




