田吉にも柚木にも悩みの1つぐらいある④
徒競走で六人が横一直線で走っている。最近は、子ども達が最後まで必死に走れるよう、事前にタイムを測定してから、ほぼ同じタイムの六人で競争できるようにしているらしい。
それなら、一時期流行した、みんなで並んでゴールするよりかよほどマシだ。大蔵は三着だったらしいが、六人が団子状にゴールへ入ったので、誰が大蔵なのかよく分からなかった。
ゴール後に、着順ごとに並ばされると、ようやく大蔵が誰なのか分かった。驚くほど、田吉によく似ている。特に切れ長の目とか、すらっと伸びた腕や脚とか、いずれ父のように一八〇ぐらいの長身になる片鱗が確かにある。
「そうですね…。遠目だからはっきりとは言えないけど、小三にしては割と大きいですね」
「確かに、そうかもしれんな…。すぐに田井島よりも大きくなるぞ」
大男は時々身長のことでからかってくる。冗談だと分かっているので、ここはあえて思いっきり冷たくあしらう。
「帰ってもいいですか?」
「もう、冗談だよ…。ごめんよ、田井島…。ところで、後で一緒に大蔵と会ってくれないか?」
「はあ? それはちょっと…」
運動会を一緒に見るぐらいなら、まだどうにかなる。しかし、息子の引き渡しの場面に立ち会うのは、さすがに気が引ける。
「いやいや、無茶は承知の上だ。田井島が横にいるだけで落ち着く。息子と会えるのも、これが最後だと思うと、なんか落ち着か無くてさ…」
これがあの田吉太一なのか? 僕の知っているおっさんはこんな人ではないぞ。合コンではいつもイケイケだし。男気もあふれている。それでいて、どこかずるくて抜け目ない人こそ田吉太一である。
それなのに…。一方で、子どもの南中ソーランを眺める姿はまさに父親の姿だ。これほど、子どものことを思っていながら、なぜ女遊びが高じて家庭を壊すようなことをしてしまったのか…。
田井島にはさっぱり理解できない。もし、田吉が常に父親であり続けることができたなら、そもそも離婚することもなかっただろう。また、前妻が子どもを連れて東京で再婚することもなかったはずだ。
「よし、ジョイフルへ行くぞ!」
「ここで、お子さんを待っていたらいいのでは…」
「そんなことできるわけがないだろう…。あいつの立場もあるから、校区外のジョイフルで、いつも待ち合わせなんだよ。もちろん、ここで大蔵と会うことも許されない。まっ、世間体があるから仕方ないさ」




