田吉にも柚木にも悩みの1つぐらいある③
おっさんが黙り込んだ。その上、田井島から不自然に視線をそらす。普段、あれほどペラペラ話す人が黙ると、すぐに何かあったに違いないと分かってしまう。
急に子どもの運動会を一緒に見に行こうと言ったり、昼食中に何度もため息ついたりしていたからな…。そして、子どものことを聞いたら、急に黙り込む。これはビンゴだろう。間違いない。
「やっぱり、分かるもんなの?」
「そりゃ、分かりますよ。だって、田吉さん、朝からずっと変ですからね…。やぶから某に『息子の運動会を一緒に見に行こう』とか言うし、食事中もため息ばっかりつくし…。それにお持ち帰りできなかったぐらいで、そこまでへこむたまでもないでしょう?」
田井島の皮肉に、田吉は苦笑いで応じる。苦笑いでもいい…。やはり、この人に憂鬱とかため息は似合わない。
「ああ、そうだな。田井島、お前を特別天然記念物と侮っていたけど、実は結構できる奴なのかもしれんな…」
「毒を吐く元気があるなら、まだ大丈夫ですね!」
「こいつ…」
話しているうちに、おっさんの息子がいる学校に着いた。小学校の運動会なんて、もう二十年近く見に行ったことない。まさか、こんな形で来る事になろうとは…。
田吉の息子は大濠大蔵と言って、今は三年生とのこと。一応、前妻からプログラムを送ってもらっていたようで、昼からの徒競走とダンスを見に来たらしい。
「もしかしたら、もう大蔵と会え無くなるかもしれない…」
「えっ、何かあったんですか?」
「あいつが再婚することになって、早ければ年明けにも二人とも東京へ行くらしい…」
これで全てがつながった。それはさすがの田吉でもへこむかもしれない。さすがのおっさんも子どもと会えないとなれば、こんな風になってしまうようだ。これまで月に五万円の養育費の仕送りと引き換えに、年に何回か息子と会わせてもらっていたらしい。
しかし、前妻の再婚が決まり、相手が養育費の受け取りを止める代わりに、息子に会わせることをやめたいと申し出があったようだ。おっさんもおっさんなりに、いろいろ悩んでいるんだな…。田井島は人の数だけ悩みがあるんだな…と月並みなことを感じずにはいられなかった。
「あれが大蔵だ。俺によく似ているだろう?」




