田吉のセッティング⑧
さすが、田吉のおっさん。百戦錬磨は伊達ではない。他に席が空いていないので、そのまま元に戻ろうと思ったが…。違う席に行けるように席を空けてくれるとは、本当にありがたい。一番奥の正面には千原ちかが座っていた。
彼女は田井島に対して、英語は話せるのかと聞いてきた。田井島は、かつて学生時代にフィリピンで活動するボランティアサークルに入っていたので、片言程度なら話せる。
一方、千原は英会話教室でネイティブクラスまで英会話を上達させている。そして、既に取得している小学校英語指導者資格を生かして、子ども向けの英会話教室を開設したいと言っていた。
どうやら、僕を恋愛対象としてみる女性はここにはいないようだ…。そう割り切って、千原の話を最後まで聞くことにする。
やがて、会はお開きとなった。そして、びっくりしたことに、田吉のおっさんが中江奈美をお持ち帰りして颯爽と帰って行く。
どのタイミングで口説いたのか、さっぱり分からない。あのおっさん…、本当に持ってやがるな…。他の人々も三々五々に散って行ったので、一人寂しく帰ろうとした時だった。
「マー君、一人なら一緒に帰らない? ちかちゃんも、しずえちゃんも予定があるって言って、先に帰っちゃったのよ…」
柚木結鶴が声をかけて来た。これは願ったり叶ったりである。断る理由が一つもない田井島は、そのまま柚木について行く。ふと、空を見上げると下弦の月が東の空に浮かんでいた。




