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30代からの婚活デビュー  作者: あまやま 想
第12章 田吉のセッティング
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田吉のセッティング⑦

「やっぱり、隣の芝は青く見えるのね…。まあ、柚木さんみたいに准教授にでもなれたら、大学が定年まで面倒見てくれるし、学生指導も作品制作も好きなようにできますよ。でも、助手なんて、三年契約だから、上のポストに空きが出なければ、三年後はポイです。」


 四位は日頃のうっぷんを吐き出す。田井島は目の前の女性が黒木瞳似でなければ、トイレに逃げ込んでいたかもしれない。ああ、男女問わずに美形はいいよな…。


「それなのに、上のポストはいつまでも空かないから、しかた無く助手として再契約です。でも、助手は若手のための枠だから、三五を過ぎると更新もできない…。ただ、絵がうまいだけでやっていけるほど、甘い世界ではないんですよ…」


 やっぱり、トイレへ逃げ込むべきだった。美しい顔に見とれたばっかりに、延々と大学の愚痴を聞かされるはめとなった。


 それにしても、男は馬鹿だとつくづく思う。きれいな女性の話となれば、聞かずに逃げ出すのが失礼だと思ってしまうのだから…。世の中、外見で損する人もいれば、得する人もいる。つくづく、世の中は不公平にできている。


「では、柚木さんは絵だけ無く、世渡りも上手にやっていると言うことですか?」


「はっきりとは言えないけど…。柚木さん、本当に上手にやっていますよ。大学教授会って、どこでも男性優位で女性はなかなか准教授以上にはなれないんです。でも、柚木さん、気がよく利くから上からも気に入られているし…」


 そんな風に思っているなら、四位も柚木のマネをすればいいのに…。なんの関係もない田井島に愚痴ったところで何もならない。


「それなら、四位さんも同じようにされたら、いいではないですか?」


「田井島さん、それができたらもうやっていますよ…。上のポストが空かないのに、そんなことやっても無駄…。それに上を追い出そうとしていると誤解されたら、それこそ終わりよ。助手で教授に目を付けられたら、すぐにお払い箱ですから…」


 上の世代が詰まっていて、今の二〇代や三〇代が苦労しているのは、どこの業界も一緒のようだ。ただ、公務員はどんなに上から目を付けられようとも仕事を失うことはない。せいぜい、出世が遅くなる程度だ。そう言った意味では、楽でいいのかもしれないけど…。

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