田吉のセッティング④
それぞれのグラスが織りなすカーンと響く心地よい音。ふと、田井島は今日の席決めのことを振り返る。来た直後に、田井島が田吉や柚木の近くに座ろうとしたら、田吉から
「それでは、ここへ来た意味がないでしょう…」
と言われた。確かに知っている三人で固まっても意味がない。それで三人はそれぞれバラバラに座る。柚木が女性側の一番奥。田吉が男性側の真ん中、田井島が男性側の一番手前に散らばった。
そのため、田井島は遅刻女性の正面となった。ビールで喉を何回かうるおした後、女性はようやく落ち着いたらしい。呼吸もすっかり正常に戻ったようである。そのタイミングを見計らったかのように、それぞれの自己紹介が始まった。
「田吉太一です。四〇歳、バツイチですが、某私鉄で楽しく電車の運転手をしております。おかげで『電車でGO』では、いつも満点を取ることができます。もし、リアルに電車でGOがしたくなったら、ぜひとも私にご一報くださいませ。それと座右の銘は『神様はツンデレぐらいがちょうどいい。そうでないと人間がダメになる』です」
さすが、田吉のおっさん。初めにサラッと言いにくいことを言った後、笑いを取ってプラスのイメージのままで挨拶を終えた。それにしても、とんでもない座右の銘だな…。
他の男性陣もいかにも慣れた感じの挨拶をしている。この人達と同じ土俵に立っても、まず勝てない…。田井島はあえて初々しさをアピールする作戦に出た。
「田井島正行と申します。三〇歳の独身です。これまで、何もせずにぼんやりしていたら、いつの間にか三〇を過ぎていました。そこで慌てて、婚活デビューしました。まだ、婚活始めてから二週間の初心者ですが、どうぞ、よろしくお願いします!」
会場が笑いに包まれた。もしかしたら、失笑かもしれないけど、場が静まり返るよりかはマシである。田井島はどんな形であれ、まずまずの手応えにホッとした。引き続き、女性陣の自己紹介に移った。
「柚木結鶴です。四〇歳、バツイチですが、某芸術大学美術部西洋画科で准教授をしております。准教授と言っても、ただ絵を描いたり、絵の指導をしたりしているだけで、ちっとも偉くはありません。もし、絵を描きたくなったら、いつでも個人レッスンをしますよ」
肩書きだけ聞いているとすごく偉そうなのに、あえておちゃらけてしまうのがいいようである。他の男性受けはなかなかいい。何と無く、田吉と自己紹介の形式が似ているのはバツイチだから故か?
「中江奈美、二五歳、独身です。今日は遅れてしまって、本当に申し訳ありませんでした。私、極度の方向音痴でよく道に迷うんです。道だけで無く、人生にもよく迷っています。そんな私の道しるべとなる方を探しております。どうぞ、よろしくお願いします」




