田井島、30にして婚活に立つ⑥
いまいち、気分がのらないので、このまま二人の誘いを断って帰ってもよかったが、これも何かの縁だと思い、四十歳の男女とご一緒させてもらうことにする。
「はい、ぜひご一緒させてください」
「ところで、お前、酒飲んでるか?」
「はい、飲んでいますよ」
「飲んでも、酒に酔わないとは不幸な奴だな…」
厚化粧達にからまれて、気持ちよく酔っぱらうこともできなかったのだ。それにしても、おっさんはのんきだな。
「田吉さん、何を言っているんですか? 僕あ、厚化粧に絡まれて大変だったんですよ」
「まあ、面白い人…」
柚木が楽しそうに笑っていた。田吉のおっさんは苦笑いしている。やがて、会はお開きとなり、四十名の人々は三々五々に散り散りとなった。そして、それぞれ夜の街へと消えていく。
月明かりのおかげで、街はいつもよりもずっと明るく感じられた。田吉太一と柚木結鶴と田井島正行も、他の一行と同じように夜の街へとくり出す。
「さて、どこへ行こうか? 田井島さん、何か食べたいものありますか?」
「いえ、特には…。おまかせします」
「本当に面倒くさい奴ちゃな…。結鶴、ニッパチでいいんじゃないか? あそこは安いし、メニューも多いからな…」
「そうね。さっきの軽食、ほとんど腹の足しにならなかったから、飲み食べ放題にしてもいいかもね…」
「太るぞ!」
「太一、うるさいぞ! こう見えても、私、食べた分はきちんと体を動かしているから大丈夫よ」
「ベッドの上でね…」
「はいはい。田井島さんは、こんなエロ親父になったらいかんよ」
ああ、やっぱり面倒くさいな…。こんなことなら、ついて行かずに帰ればよかった。ふと空を見上げると、空には満月を少々過ぎたいびつな楕円の月があった。
天間堂駅前にあるニッパチにはあっと言う間に着いた。九月に入り、夜はすっかり涼しくなっている。中に入ると、他にもさっきまでボーリング場にいたとおぼしき人々がいた。しかし、お互い特に声をかけることも無く、三人は一番奥の四人がけのテーブルへと案内された。




