そうじゃない
シンとした階の廊下を奥まで突き進み、黒いドアの前で立ち止まる。小さく深呼吸をしてから控え目にノックをした。
コンコンコン…
〔はい〕
セヴィルの声だ。
「あ!あのっ!私だけど!」
〔誰かな?〕
「あ、えっとですね……えっと、えっと、」
情けないことに自分の名前が出てこない。緊張もあったが、もし名乗ればセヴィルに拒否され出てきてくれないのでは、と思ったからだ。
そのまま俯き込んでいると……
【…ハハッ、嘘、嘘】
「…え?」
ガチャ…
ドアが開き優しい笑顔のセヴィルが出てきた。
「久しぶり、シャイナ」
セヴィルは名前を覚えてくれていたのだ。その事が嬉しくてシャイナもニッコリと微笑みうなずいた。
「コーヒー、飲める?」
「あ、ごめんなさい。コーヒー苦手なの。お水でいいわ」
するとセヴィルは棚の奥を物色し始め、何かの袋を取り出した。
「ココアもある」
大好きだ。笑顔で頷くとセヴィルは「良かった」と言ってお茶の準備を始めた。
部屋は整理が行き届き隅から隅まで清潔さが保たれていた。床にはフカフカの藍い絨毯が敷かれ、ベッドには皺1つない。天井には洒落た照明器具がぼんやりとした温色を放ち、居心地よい雰囲気を醸し出している。
「私の小屋とは大違いね…掃除、頼もうかな」
そんなことを1人で言って笑ってるとセヴィルが湯気の立つコップを持ちやってきた。
「ありがとう」
差し出されたコップは熱すぎず冷めすぎず、夜風で冷えた手を程良く暖めてくれた。
「元気そうだな。また会えて嬉しいよ」
「あなたも。半年前からしたら顔色がいいわ。色々と吹っ切れたみたいな感じ」
「ああ、君に喝を入れられたからかな」
珈琲を啜りながらニヤリと笑うセヴィルにシャイナはここへ来た目的を思い出す。カップをテーブルに置くと立ち上がり窓辺へ腰掛けるセヴィルに深々と頭を下げた。
「あの時はごめんなさい!出会ったばかりの私に辛い事打ち明けてくれたのに。あんな態度取っちゃって。余計に傷つけちゃったりして…本当にごめんなさい」
「……うん、確かに。あれは酷かった」
「………」
「弱気な事を口にした俺にも原因はあるが、突然胸倉を掴まれたり、森のど真ん中で置き去りにされたり…もう散々だったよ」
「う………」
言い返す言葉もなければ資格もない。なんだか泣きそうにまでなりそうだ。
「――ごめんなさい」
もう一度謝る。しかし…
「いや、そうじゃない。シャイナ」
「?」
「俺は君に心から感謝をしたい。――あの日、君が言った言葉を、俺は忘れなかった。だからここまでこれたんだ。ありがとう、シャイナ」




