22
「というわけで、頼んだぞ」
「端折り過ぎですよ、カナト様」
カナトはニイナを連れて、騎士団の訓練場へ来ていた。
先日話をした、自衛の訓練をする為である。
「ニイナも自衛が出来た方が良いと思ってな。ブランクは長いが、元々冒険者だ」
勘と体力さえ戻ればそこそこいけるはずだ。
「まぁ良いですけどね・・・」
騎士団は模擬剣を使って軽く打ち合うようだ。
ニイナもそれに混ざるように促す。
「ふふふ、少しはまともに動けるかしら。行ってきます!」
ニイナはくせ毛達のところへ混ざりに行った。
カナトは混ざらず見学のみだ。
元々剣は好まない。
「良いんですか」
「何がだ?」
ダイが溜息をひとつ。
「傷ひとつつけるなとか、言わんで下さいよ」
「ああ・・・そういうことか。そこまで過保護じゃない」
ダイがカナトに疑うような視線を寄越す。
王様と思ってないだろう、文句はないが。
そもそもカナト自身も王の自覚などない。
「というかむしろ、傷つけることが出来たら金一封だな」
向こうでは、ニイナがくせ毛の模擬剣を弾き飛ばしていた。
◇
まったく心配なさそうなニイナは騎士団に預け、カナトは城を回った。
人数も増え、機能していると思う。
大神官が国の仕事をほとんど請け負っているおかげだろう。
「剣術大会か・・・」
恐れられなくなったのは、城下町だけでのことだ。
地方から騎士団に入団希望は今のところない。
剣術大会ならば、王の不興を買うのでは、という考えも薄いかもしれない。
とりあえずオウルに相談だ。
「じーさん、剣術大会はどうだ?」
「どうだって・・・またいきなり」
「賞金か賞品で釣って、腕がいいやつはスカウトする、と。騎士団員募集より剣術大会の方が食いつきはいいんじゃないか?」
「まぁ一理あるか・・・。大々的にやった方が良いでしょう。準備もありますので夏の祭りに組み込んでは?」
「夏か・・・」
ガデスには一応四季があり、今は春だ。
「まぁ仕方がないか。それまでに騎士団を強くしないとな」
優勝が騎士団の中から出ないと正直面子が立たない。
ダイがいるので大丈夫だと思うが、油断大敵である。
それに他の団員もそこそこ食い込んでもらいたい。
それに祭りに組み込んだ方が参加者も観客も増えるだろう。
「賞品も考えないとなぁ。宝物庫の中から使わないヤツ出すか」
「そうですね。使わない値打ち物はそれこそたくさんあります故」
半月ほど企画を詰めて準備を始めれば、十分に合うだろう。
祭りに組み込むのであれば、先に大神官に話を通しておこう。
久々に大神殿に向かう。
一般人はカナトに対して普通になって来たが、神官や神兵の半数は未だに好意的ではない。
それもそうだ。
同僚を殺されれば当たり前である。
むしろ半数のみという事が凄いと思う。
まぁ害がなければどうでも良いことだ。
◇◇
「というわけで、頼んだぞ」
「端折り過ぎだ、王よ」
「祭りに剣術大会を組み込もうと思う」
「剣術大会ですか・・・?」
「あぁ。端的に言うと賞金と賞品で釣って腕の良い騎士を増やそうっていうことだな」
「・・・・・・・・・・・・・」
「神兵も参加して良いぞ」
剣術大会の参加要項などをまとめ、祭りの広報と同時に行ってもらう。
祭りはコーヒー豆やワインなども売り込む良い機会だ。
何しろ他国からも大量に人が流れ込んでくる。
問題は、儀式がなくなった影響だ。
信仰心が薄れ、思ったより入国が少ないという事態はまだ良い。
問題は暗殺者が紛れてくるかもしれないことだ。
カナト自身に来れば負ける気は全くないが、周辺に被害があると困る。
特にニイナ。
その為の訓練ではあるが・・・心配であることは変わらない。
「詳細が決まり次第連絡する。頼んだぞ」
「承知しました」
祭り自体が中止になることはない。
入国者が増えるのは避けられない事態。
警備をするには実力も人数も足りない。
それなら少しでも益になるように利用するだけだ。