第八十一.五話 躊躇い
『第八十一話 時間』に書き切れなかった続きのお話です。
「……」
「……」
私とモラは無言で城の廊下を歩いていた。
「……レナ」
「何、モラ?」
私はそう聞き返した。
「ネブラ、ちょっと寂しそうじゃなかった!?」
モラは大きな声で言った。
「声も心なしか低かった気がする」
「まぁ、いつも低いけどね〜」
そう言うとモラは走り出した。
「えっ、ちょっと待って!」
私は慌ててモラの後を追った。
追いつくと、モラは玉座に座っていた。
「何してんの?」
「やっぱり前にも座ったけど、この椅子座り心地いいね!」
「……モラ、大丈夫?」
「……何が?」
モラは首を傾げる。
「何か元気がない気がして」
私がそう言うと、モラは玉座から立ち上がり、窓辺にもたれかかった。
「やっぱりレナには分かっちゃうか……カッコ悪いよね。私、怖いんだ。ネブラやレナに会えなくなるのも、死んじゃうかもしれないのも」
「……モラ」
「……なーんてね。私が元気でいないとダメじゃん。レナには笑顔でいてほしいんだから!」
「……モラは両親に会いたい?」
「……両親か。あんまり記憶がないんだよね。実際、一緒にいた時間も10年ないくらいだろうし」
モラは少しだけ遠くを見るような目をした。
「……でも時々夢に見るんだ。お母さんとお父さんと私が一緒に遊んでる夢を」
「そう……良い夢だね」
私は小さく頷いた。
「確かに人生には怖い事なんて多くある。けど、そればかり見ていたら疲れるでしょ? 人間は私達と違って、すぐ死んじゃうんだから。だからこそ、楽しい事とか、やりたい事とか、そういうことを考えなよ」
私は微笑みながらそう言った。
「そうだね!じゃあ私のやりたいことはね――」
それから私達はしばらく話し込んだ。
「遅くなるから、もう寝るよ。モラ」
「えー、もうそんな時間?」
モラは少し不貞腐れたような顔をした。
そしてふと、私を見つめる。
「レナは親に会いたい?」
「……別に会いたくないかな」
私はモラの顔を見ないまま答えた。
「レナ?」
「私は……二人がいなくなったら、どうすればいいのかな」
気づけばそんな言葉が口から漏れていた。
「……笑えるよね。自分で言った言葉なのに、私には何一つ響いていないんだよね」
私はモラに背を向けた。するとモラは私の手を掴み、無理やり正面を向かせた。
「レナ、そんな顔しちゃダメだよ」
「……」
「レナが楽しいと思う時って何かな。うーん……私には、人の気持ちに寄り添ってる時だと思うな」
「……そうかな?」
「そうだと思うよ! もし、楽しいことが見つからなかったら、苦しんでる人とか悩んでる人達を助けてあげて。私も、レナに救われたんだから」
「……うん、分かった。そうするよ」
モラは私が人を殺したことを知らない。知ったら幻滅するだろうか。……いや、此れは言わなくていいことだ。世界が再構築されたら、あの母親も生き返るのだから。
「……私は最後まで嘘吐きだな」
「レナ?」
「もう寝るよ」
私はそう言うと、モラと一緒に奥の部屋へ向かった。




