魔界ホテル
自身で書いてAIに修正してもらっています。残酷表現が少しあるので注意です。
気がつくと、目の前には巨大な建物がそびえ立っていた。人間界のどんな建造物とも違う威圧感が、ヒリヒリと伝わってくる。
「ここは初めてでしょうか?」
背後から声をかけられ、私は振り返った。
そこに立っていたのは――白い翼を持つ存在だった。人間に近い姿だが、明らかに違う。天使……そう呼ぶのが一番近いだろう。
「……はい」
「そうですか」
にこやかに微笑み、その存在は胸に手を当てる。
「私はハデス様直属の使い魔、天使でございます。そして、こちらは《魔界ホテル》です」
「……魔界、ホテル?」
聞き慣れない言葉に、思わず聞き返す。
「どうぞ、ご案内いたします」
天使に導かれ、私とネブラは中へ入った。
⸻
チェックインを済ませ、館内を一通り案内される。
「ご宿泊は7日間、無料でございます。お食事は先ほどご案内したホールをご利用ください。こちらがお部屋の鍵です」
そう言って、天使は私たちにそれぞれ鍵を手渡した。天使が去ったあと、私はネブラを見る。
「……さっきから気になってるんだけど」
「ハデス、だろ」
先回りするように、ネブラが言った。
「聞いたことない名前‥」
「この魔界と冥界を管理する神だ。お前が思っている“神”とは、少し違うがな」
「神……?」
驚く私を見て、ネブラは付け足す。
「魔の者が人間界で存在を残し、信仰や畏怖の対象として神格化されると、神になれる。基本、神は天啓で人間界に縛られるが……ハデスは例外だ」
「じゃあ……冥界って?」
「ありとあらゆる存在が、死後に辿り着く場所だ」
淡々と語られる内容に、背筋が寒くなる。
そんな時、廊下の端を――半透明の、鬼のような姿の魔が通り過ぎた。
「……今の魔、少し透けてなかった?」
「ああ。魔力が少ないと、ああして半端にしか見えない」
「魔力?」
「人間にもある。魔力は能力の源であると同時に、生命エネルギーでもある」
ネブラは歩きながら続ける。
「人間は、それを生命維持に使うだけで精一杯だ。魔力をある程度持つ者しか魔は見えない」
「じゃあ、私が見えるのは……」
「それなりに魔力を持っている、ということだ。悪魔、天使、神は例外だがな」
そう言って、ネブラは壁に貼られたポスターを指差した。
――《格闘トーナメント参加者募集》
「これに出ないか」
「……戦闘狂」
「違う」
ネブラは即座に否定する。
「そう見えるか?」
私は少し視線を逸らした。
「私の母も……たくさんの人も、お前に殺された」
「正当防衛だ」
ネブラは淡々と言う。
「それに――優勝賞品は魔力だ」
「魔力って……そんな簡単に貰えるものなの?」
「普通は無理だ。だがここは、ハデスが管理するホテルだ」
彼は少し笑う。
「魔界では魔力は通貨みたいなものだ。ハデスに承諾された商売なら、譲渡もできる。渡した側の魔力は消え、受け取った側の力になるのだ。」
「……じゃあ、使えばなくなる?」
「ああ。体力と同じだ。使えば減るし、休めば回復する。限界を超えれば――動けなくなる」
「……開催日は?」
「3日後。人間と魔で部門が分かれている。優勝すれば、今より確実に強くなれる」
⸻
その夜、食事を終え、私は自室のベッドに横になった。
人間界では、魔の者を見ることがなかった。それなのに私は、こうして少しは見ることができる。
――私の魔力は、どれほどあるのだろう。そんなことを考えながら、眠りに落ちた。
⸻
「はぁ……無理、疲れた」
私たちは地下の訓練場にいた。
「お前が教えてくれと言ったんだろ」
ネブラは呆れたように言う。
魔力を使った基礎能力――飛行、身体強化、理屈では分かっても、実際に使うのは難しい。
「お前の能力は応用が利く。だが、このままじゃ勝ち上がれないな」
「そもそも、魔界に来る人間って多いの?」
「今、ホテルにいるの10人ほどだ」
「少な……」
「魔の者は魔界への道を開けて来る。ここに来る人間の大半は、契約者だろうな」
「契約者?」
「悪魔との契約だ。悪魔に魂や将来などを代償に捧げる代わりに、富、知識、力――現世の望みを叶えることができる」
ネブラは武器を出現させながら続ける。
「そして、契約者は不死になる」
「……不死」
彼は私を見る。
「いいか、魔力は無限じゃない。無理に使えば、魔力切れを起こす」
「魔力切れ……?」
「体が動かなくなる。トーナメントでそれをやれば、確実に負けだろうな」
一瞬、真剣な目をしたあと、彼はいつもの調子で笑った。
「だからまぁ管理しろ。勝つ気があるならな」
「やるんだろ、ルイーナ」
そう言って、ネブラは笑った。
――そして3日後。
トーナメント当日を迎えた。
「緊張しているか?」
そう言って、ネブラは薄く笑った。
「しているように見えるか?」
私がそう返すと、ネブラは小さく首を振り、同じように笑う。
「それより――」私は視線を逸らしながら言った。
「お前が行きたいと言っていた場所には、行かないのか?」
「このトーナメントが終わったら行くつもりだ」
そう聞いた直後、館内にアナウンスが響いた。
《参加者の皆様へ。トーナメント表が掲示されました。ご確認ください》
「来たな」
私たちは人の流れに混じり、掲示板へ向かった。
――16人参加。
思っていたより多い。少し前までは10人程度だったのに。
「第一回戦は……」
名前を追って視線を動かしていると、横から声をかけられた。
「ルイーナさん、だよね?」
振り向くと、そこには一人の男が立っていた。30代くらいに見える。
「俺はサクスム。よろしく」
そう言って、彼は躊躇なく手を差し出してきた。
一瞬、戸惑う。だが無視するのも不自然だと思い、私は軽く息を吸ってからその手を握った。
「……ルイーナです」
短く名乗ると、サクスムはにこりと笑った。
ネブラに何か言おうとして振り返る。――いない。
「……あいつ」
さっきまで隣にいたはずなのに、姿が見当たらない。都合のいいときだけ、消えやがって
《1ブロックの参加者は、第一ホールへお越しください》
再びアナウンスが流れる。
「同じブロックみたいだな」
サクスムが掲示板を指差しながら言った。
「……そうみたいですね」
私は頷き、視線を前に戻す。
第一ホール。――トーナメントの始まりだ。私達は歩き出した。
第一ホールは、床も壁も灰色の石でできており、物凄く広く、天井が高い。戦闘用に魔力で強化されているのが分かる。
「……思ったより広い」
対面に立つ男――サクスムが、軽く肩を回した。
「手加減しないよ」
次の瞬間、彼が地面に手をかざす。
ゴゴ、と低い音とともに、床が隆起し、刃のように尖った岩片が、空中に浮かび上がる。
――来る。
私は一歩、前に踏み込んだ。
「行くぞ!」
サクスムが腕を振る。岩が、雨のように降り注ぐ
速い。だが、避けられないほどじゃない。身体を強化し、魔力を脚に流し込む。床を蹴り、岩を次々避ける。
「……っ!」
距離を詰める私に、サクスムが舌打ちする。
今度は、地面から柱のような岩が突き出した。逃げ場を塞ぐように、左右から迫る。
――正面突破。拳に魔力を集中させる。そして壊す。
「――っ!」
岩柱に拳を叩き込む。砕けた。衝撃が腕に返ってくるが、それもお構いなしに進む。
「な……!?」
驚いた表情のまま、サクスムが後退する。距離が近い。これ以上、好きにさせない。彼が次の岩を出そうとした、その瞬間。私は踏み込んだ。
身体強化で一気に加速する。――間に合う。拳が、サクスムの腹部にめり込んだ。
「が……っ!」
鈍い音がホールに響いた。
彼の体が浮き、背後の壁に叩きつけられる。石の壁にヒビが走り、サクスムは崩れ落ちた。
数秒の沈黙。
《勝者――ルイーナ》
淡々としたアナウンスと、拍手が響いた。
私は息を整え、拳を下ろした。
メインホールに戻り、休憩していると、サクスムがこちらに近づいてきた。
「えっと‥大丈夫ですか?」
気まずそうに話す私に、サクスムはにっこりと笑った。
「いやー、強かったね。正直、幼く見えるから舐めてたよ」
そう言いながら、横の椅子に腰を下ろした。
「サクスムさんは、なぜここに?」
サクスムは少し間を置いて答えた。
「俺は悪魔と契約しててね。こう見えて60歳くらいになるんだ」
本当に老いないんだ、と私は思った。
「悪魔との契約って言っても、信じてもらえないんだよね。でもある日、契約した悪魔に『魔界』という場所があることを教えられてさ。興味本位で来てみたってわけ。他の参加者も大体そんな理由だろうね」
少し悲しげな声で、沈黙を破るようにサクスムは話を続けた。
「俺が31歳くらいのとき、母さんが病気になったんだ。母子家庭だったから、本当に迷惑かけててさ。母さんは日に日にやつれていって、助かる見込みはないって医者にも言われた。そんな時、悪魔が俺の前に現れたんだ」
「悪魔は病気を治すことができるのか…?」
思わず問いかける私に、サクスムは苦笑した。
「俺は母の病気をなくしてほしいと頼んだ。悪魔は言ったんだ――『お前の母の病を終わらせてやろう。ただし代償として、お前の大切なものを頂く』――ってね。もちろん契約したさ。でも結局、母は死んだ。しかも、かなり痛々しい姿で」
「それって、悪魔が……」
言葉を濁す私に、サクスムはうなずいた。
「そうだ。悪魔の存在は外国に一体いるとは知っていたけど、誰も本気にはしてなくて、事故扱いになったんだ。あとで問い詰めたら、悪魔は笑ってこう言ったんだ――『病気は終わっただろう』って。悪魔は、どこまでも悪魔なんだなって思ったよ。きっと代償は、母だったんだろうな」
私は何も言えず、ただ沈黙するしかなかった。そのとき、二回戦目の開始を告げるアナウンスがメインホールに響いた。
サクスムはゆっくりと腰を上げ、私に言った。
「まぁ、悪魔は信用するなよ。ルイーナさんが何歳かは知らないが、若い奴は元気でいてほしいからな」
そう言い残すと、サクスムは静かにメインホールを去っていった。
《二回戦目の1ブロックの参加者は、第一ホールへお越しください》
アナウンスを聞き、私は小さく息を整え、ホールへ向かった。
ホールに行くと女性が一人いた。20代くらいに見える女性――確か名前はフランマ。彼女は何も言わなかった。
感情の読めない真顔。ただ、その周囲に漂う炎だけが、静かに揺れている。
合図と同時に、床が焼けた。一歩踏み出した瞬間、熱が押し寄せる。炎が壁のように立ち上がり、進路を塞ぐ。
拳を振るう。触れた瞬間、熱が腕を焼いた。
――熱い。
魔力を身に纏わせているはずなのに、圧が違う。次の瞬間、炎を纏った拳が正面から叩きつけられた。
衝撃で弾き飛ばされ、床を転がる。彼女は追わず、こちらを見ている。
立ち上がろうとして、気づいた。炎が、上から流れてくる。――地上は、相手の領域。
私は床を蹴った。身体が浮かぶ。彼女の視線が、初めて動いた。わずかに、眉が寄る。
フランマは無言のまま腕を振った。炎が、槍のように打ち上げられる。身体をひねり、かわす。空中では、こちらのほうが自由だ。私はさらに高度を取った。
フランマの足元で、炎が荒れる。だが彼女は動かない。ただ、真っ直ぐこちらを見上げている。
一点集中。拳に魔力を集め、落下を選ぶ。視界いっぱいに、真顔の彼女が映る。
次の瞬間、拳がフランマの胸元を撃ち抜いた。
鈍い音。炎が一気に霧散し、彼女の体が床に叩きつけられる。
《勝者――ルイーナ》
淡々としたアナウンスと、拍手が響いた。
私は着地し、息を吐いた。
メインホールには、彼女が壁に寄りかかっていた。視線に気付いたのか彼女はこちらを見た。
「……何か用?」
彼女は不快そうに言った。
「いえ、大丈夫かなと思って」
彼女は視線をこちらに向けず、無言だった。
さっきのサクスムさんの話を思い出し、気になり恐る恐る尋ねる。
「フランマさんは、どうしてここに来たんですか?」
彼女は、何も答えなかった。
答えたくないことを無理に聞くべきじゃない。
そう思い、その場を去ろうとしたとき――
「不老になってから、苦しくてね」
彼女は口を開いた。
「自殺しようとしてたら、悪魔に言われたの。
魔界で死ねば、って」
淡々とした声だった。
「でも、それも癪だから。魔力を増やして、魔をたくさん殺そうかなって」
彼女は少し間を置いて、続ける。
「人じゃないから、罪悪感とかないし。それで逆に、殺されてもいいしね」
少しだけ、悲しそうに。
「……死にたいんですか?」
「幸せがない人生に、何の意味があるの」
彼女は下を向いたまま言った。
「幸せは、見つけるものですよ」
自分でも驚くほど、言葉がすっと出てきた。
「どんなことがフランマさんにあったのかは分かりません。でも……自分を認めてあげることが、幸せに繋がることもあります」
彼女は、ゆっくりとこちらを見た。
「私、友達がいたことなくて」
だから、と続ける。
「よかったら……私たち、友達になりませんか」
彼女は、何か言いたそうな顔をした。
「……なるわけないでしょ」
そう言って、立ち去ろうとする。だが、途中で足を止めた。
「娘のことを思い出したわ……」
小さく、呟くように言う。
「あなたは、幸せでいてね」
彼女は振り返り、そう言って微かに笑うと、メインホールを去っていった。
彼女は、何を思っていたのだろう。
そんなことを考えていると、アナウンスが流れた。
《三回戦目の1ブロックの参加者は、第一ホールへお越しください》
私は小さく息を整え、ホールへ向かった。
ホールに行くと男性が一人いた。20代くらいに見える男性――確か名前はイネプト。
「よろしくお願いします」
そう言うと彼は軽く会釈をした。
合図と同時に、彼は一気に高度を取った。迷いがない。不安定さもなく、純粋な魔力操作だけで空を蹴っている。
私も追おうとした、瞬間――
「……っ」
空中に、光の塊が生まれた。中くらいの大きさの魔力が、歪んだ軌道でこちらへ飛んでくる。
避けきれない。胸元に直撃し、衝撃が内側まで響いた。魔力そのものを、圧縮して叩きつけてきたのだ。
距離を取るように、彼はさらに上昇する。淡く発光する魔力が、彼の周囲を漂っている。
(……魔力放出)
訓練中のネブラの言葉が脳裏をよぎる。魔力をそのままぶつける攻撃。魔力消費が激しいため、能力がない者がよく使う技。
目の前の男は、基礎能力を極限まで磨いている。
再び、魔力が飛んでくる。避ける。間隔が短い。
(……このままじゃ、近づけない)
身体強化で防御に回すのは、ますます魔力を消費してしまう。飛行で逃げ続ければ、主導権は完全に向こうだ。
イネプトは、天井にまで飛び上がる。そこから見下ろす視線は、どこか無機質だった。
「……来ないんですか」
声が、上から落ちてくる。
私は深く息を吸った。魔力を脚に集中させる。
身体を強化する。床を蹴った。一気に、上へ。
同時に、飛行に魔力を回す。
だが――追いつけない。
イネプトは、魔力操作だけで高度を維持しながら、こちらに向けて魔力を撃ち続ける。肩を掠め、腕に衝撃が走る。
……重い、能力も使っていない。基礎能力だけで、ここまで……
次の瞬間、真正面から魔力が迫った。避けきれない。私は、拳を握った。拳に魔力を集束させ、真正面から叩き込む。衝突。空気が弾け、衝撃が腕を貫く。
「……!」
魔力が霧散した。イネプトの目が、わずかに見開かれる。
その隙を見逃さず、一気に距離を縮める。魔力を撃ち続けてくるが、拳で弾き、肩で受け、前に進む。私は拳を引く。
「……っ!」
空中で、踏み込む。拳が、イネプトの腹部に突き刺さった。衝撃が、魔力ごと貫通する。彼の体がくの字に折れ、制御を失って落下していく。
私はすぐに後を追い、飛行に魔力を集中させ、急降下する。落下するイネプトに追いつき、背後から掴んだ。身体強化で衝撃を受け止める。
そのまま、床へと降り立つ。イネプトは大きく息をしながら、私を見上げた。
《勝者――ルイーナ》
淡々とアナウンスと拍手が響く。
メインホールに戻り、休憩していると、イネプトがこちらに近づいてきた。
「対戦、ありがとうございました」
彼は深々とお辞儀をした。
「イネプトさんは、なぜここに?」
「暇だったからです」
彼は淡々と答えた。
「イネプトさんも、悪魔と契約しているのですか?」
「そうです」
彼はそれだけ言うと、沈黙が流れた。
「なぜ契約したか知りたいんですよね。いいですよ、特別に教えてあげます」
彼はそう言うと、遠くの椅子に腰を下ろした。
「僕は今、70歳くらいです。
25歳の時、大災害に見舞われました。多くの人が亡くなり、僕は孤独になったんです」
「そのとき、悪魔が現れました。
魔力を与える代わりに、友達になってほしいと言われたんです。
そこから僕は悪魔と友達になりました。
そして今でも、時々魔界に遊びに行っています」
話を終えると、彼は腰を上げた。
そして早足でメインホールを去っていく。
友好的な悪魔もいるんだ、と私はしばらくその背中を見送った。
少しだけ、心が温かくなる気がした。
しばらく休憩していると、アナウンスが流れた。
《決勝戦の参加者は、第一ホールへお越しください》
私は深く息を吸い、ホールに向かった。




