邁進
最近忙しいので、文字数が少なくなるかもしれません。毎日投稿を心掛けるので読んでくれると嬉しいです。
私達はインフェリア領へと続く荒野を歩いていた。
「この危機的状況、ハデスは知らないの?」
私は前を歩くネブラに問いかけた。
「知らないと思うぞ」
ネブラは振り返らずに答える。
「あいつは天啓によって冥界に縛られている。自らの意思で魔界や人間界に干渉することはできない」
淡々とした声だったが、その言葉にはわずかな苛立ちが混じっていた。
やがてネブラが足を止めた。
「着いたぞ」
その先には、一人の女の姿をした悪魔が立っていた。その悪魔はどこか気だるげな雰囲気を纏っていた。こちらに気づくと、悪魔は口元に笑みを浮かべた。
「ネブラじゃん。元気してた?」
軽い調子の声だった。
「お前か……」
ネブラは露骨に嫌そうな顔をし、溜息をついた。
「知り合いなの?」
モラが小声で尋ねる。
「昔のな」
ネブラはそれ以上語ろうとしなかった。悪魔は私達を順番に眺め、納得したように頷いた。
「それで、闘技イベントに参加ってことでいい?」
「あぁ」
ネブラが短く答える。
悪魔は今度は私とモラを興味深そうに見た。
「へぇ……人間なんて珍しい。ここの参加者は魔ばかりだけど、大丈夫そう?」
「あぁ、問題ない」
ネブラが即答する。
「何でネブラが答えるの……」
モラが不服そうに頬を膨らませた。
悪魔はくすりと笑った。
「まぁいいわ。開催は三日後。忘れないでね」
そう言うと、悪魔は一歩近づき、自然な動作でネブラの肩に腕を回した。
「ねぇ、この後二人で良いことしない?」
「黙れ」
ネブラは即座にその腕を払いのけた。その目は冷たく、明確な拒絶を示していた。悪魔は一瞬だけ驚いた顔をしたが、すぐに肩をすくめた。
「相変わらずつれないなぁ」
「……用は済んだな」
ネブラはそれ以上相手を見ようともしなかった。
「えっと……じゃあ、また三日後に」
空気を和らげるように、モラが間に入って言った。
「えぇ、楽しみにしてるわ」
悪魔は笑みを浮かべたまま、手をひらひらと振った。
「行くぞ」
ネブラは背を向け、そのまま歩き出した。私達は顔を見合わせた後、慌ててその後を追う。
しばらく歩いたところで、モラが口を開いた。
「……二人って、なんかあったの?」
ネブラの背に向けて、探るように問いかける。
ネブラはすぐには答えなかった。ただ、前を向いたまま、低く言った。
「あいつは、魔に色仕掛けをして命を奪う」
その声には、わずかな嫌悪が混じっていた。
「我が言えたことではないが、あいつは卑劣で悪辣な悪魔だ。」
モラが小さく息を呑むのが分かった。
「……三日間は、宿に泊まるとしよう」
ネブラはそれだけ言うと、地面を蹴った。身体が浮き上がり、そのまま空へと飛び上がる。
「ちょ、待ってよ!」
モラが慌てて続く。私も、空へと飛び上がった。紅に染まる空の中を、ネブラの背を追って進む。その背中は、ただ前だけを見据えていた。
三日後――インフェリア領の闘技場で、私達は更なる力を求めて戦うことになる。




