第十九話 争奪
「もう!」
モラは頬を膨らませながらそう言った。
「……いつまで不貞腐れている」
ネブラはそう言うと溜息をついた。
私は、ふとこの三日間のことを思い出した。
「正面から戦えば、お前は必ず負ける」
ネブラはモラに迷いなく言った。
「上手く立ち回れ。それが、火力で劣るお前にできる戦い方だ」
ネブラは三日間、同じことを言い続けた。モラがどんな顔をしても、言葉を変えることはなかった。
だから今も、モラは拗ねているのだ。
話しながら歩いていると、闘技場前に辿り着いた。女の悪魔がこちらを手招きしている。
「おっ、来た!」
悪魔はニコニコと笑った。
「今回、参加者少なめなんだよね。個人戦で、四回戦しかないけど頑張ってね」
そう言うと悪魔は向こうへ走っていった。
「個人戦ってことは、私達が勝ち残ったら……」
「戦うことになるな」
ネブラは淡々と言う。
「確か、ニ位まで魔力がもらえるんだっけ」
モラがそう言うと、ネブラは頷いた。
「じゃあまたな、ルイーナ」
そう言い、ネブラは笑った。
「私もいるから!」
モラがそう言ったが、ネブラはすでに歩き出していた。しばらくして、モラも闘技場へ向かった。
《一回戦目の6ブロックの参加者は、闘技場にお入りください》
アナウンスを聞き、私は小さく息を整え、闘技場へと入った。そこには、狐が一匹いた。
「野生の狐がいる……」
思わず呟くと、狐はこちらを睨んだ。
「失礼ね。私は高貴な妖狐よ」
狐の体が揺らぎ、次の瞬間、女の姿へと変わる。
「こっちの姿の方が、人間には馴染み深いかしら」
合図と同時に――妖狐は消えた。視界から完全に消失する。消えた?いや、違う。いる。
次の瞬間、背後から魔力が放たれた。咄嗟に拳を当て、魔力を弾く。
――硬い。衝撃が腕を軋ませる。このまま受ければ、折れる。私は力の向きを逸らし、横へ受け流した。
見えないまま、魔力だけが放たれる。避けることはできる。
だが――このままでは、攻撃できない。
違う。存在は消えていない。気配はある。
魔力が再び放たれた瞬間、私は踏み込んだ。
「――ここでしょ」
空間を、拳で殴ると、手応えがした。何もなかったはずの場所から、妖狐が弾き飛ばされ、地面に倒れた。
《勝者――ルイーナ》
淡々とアナウンスと拍手が響いた。
妖狐はよろよろと立ち上がり、こちらを見る。
「あんたなかなかやるわね。強いじゃない」
そう言って、妖狐は笑った。
闘技場を出ると、モラが地面に座っていた。
「その様子だと勝ったの?」
モラの問いに、私は頷く。
「モラも?」
「勝ったよ!」
モラはそう言って、嬉しそうにガッツポーズをした。
「でも、やっぱり見えづらいな」
モラはそう言うと、闘技場の中にいる魔を見つめた。
確か、モラは魔力が少ない。そのせいで、魔が半透明にしか見えないのだった。しばらく話した後、モラは立ち上がり、闘技場へ向かった。
《二回戦目の3ブロックの参加者は、闘技場にお入りください》
アナウンスを聞き、私は小さく息を整え、闘技場へと入った。
そこには、青白い肌に鋭い牙を持つ男が立っていた。――吸血鬼。
「我の相手は人間か」
吸血鬼は、口元を歪めて笑った。
合図と同時に、吸血鬼が踏み込む。速い。
反射で拳を受け止める。そのまま引き寄せて体当たりを叩き込んだ。
吸血鬼の体がわずかに揺れる。だが、すぐに体勢を立て直した。
次の瞬間――私は吹き飛ばされた。背中から地面に叩きつけられる。衝撃が全身に伝わった。
痛い。やはり、俊敏性が明らかに違う。
――だが、見える。まだ追える。
次の瞬間、吸血鬼の姿が消えた。――来る。
必ず仕留められる距離まで近づいてくる。なら――そこを狙う。吸血鬼が再び踏み込む。私は避けず、逆に一歩前へ出た。
「なっ――」
吸血鬼の目が見開かれる。その瞬間、私は胸元を掴んだ。逃がさない。吸血鬼は振りほどこうとする。だが、遅い。
「終わりです」
全身の力を乗せ、拳を叩き込む。鈍い衝撃。
吸血鬼の体が浮き、そのまま地面に叩きつけられた。
《勝者――ルイーナ》
アナウンスと拍手が闘技場に響いた。
吸血鬼はふらつきながら立ち上がり、私を睨んだ。
「本来であれば……我が勝っていたぞ」
舌打ちする。
「運が良かったな」
そう言い残し、吸血鬼は去っていった。
《三回戦目の2ブロックの参加者は、闘技場にお入りください》
アナウンスを聞き、私は小さく息を整え、再び闘技場へと入った。




