表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Frange ruinam   作者: S
神様編
15/40

異質

旧糾縄集落跡に辿り着くと、私はモラを集落から少し離れた木の下に寝かせた。


胸の奥がざわつく。ここは――安全な場所ではない。


「ダイモーンって、そんな簡単に出てくるの?」


「この御札を剥がせば、嫌でも出てくる」


ネブラは笑いながら、建物の天井に貼られた御札を指差した。


「あはは……そういえば前、やったな」


苦笑した、その瞬間、遠くで轟音が響いた。


「剥がすぞ」


御札が引き剥がされた瞬間、建物全体が軋む。

天井から土埃が落ち、柱が悲鳴のような音を立てた。


外へ出ると――そこにはダイモーンが立っていた。


「陰陽師の血と、人界の悪魔か」


その声は低く、重い。言葉が続く前に、背後から凄まじい圧力が迫る。


「伏せろ」


ネブラの声と同時に、光の奔流が頭上を掠めた。モイラの攻撃だ。地面が抉れ、土煙が舞う。


「邪魔だ」


ダイモーンの声がする。次の瞬間、放たれた光は彼の目前で弾け、霧散した。地面から滲み出た黒い影が、モイラの足元を絡め取る。


「神として脆弱だな」


影が跳ね上がり、モイラを岩壁へ叩きつけた。


「消えてもらうぞ」


ダイモーンが手をかざす。その瞬間――


「あ゛あ゛あ゛……まだ、殺したりねぇよ!」


モイラが叫び、次の瞬間、崩れ落ちた。彼女の胸元から淡い光がゆっくりと引き抜かれ、空中で霧のようにほどけ、跡形もなく消えた。


「……どういうこと?」


私が呟くと、ネブラが目を細め言った。


「「魂が、運命神のものではなかった」」


ダイモーンが近づき、口を開けた。


「そうだ。貴様ら、魂の性質は知っているな」


「肉体に宿り、意識と生命を司る……非物質のエネルギーでしょ」


「それだけではない。能力も魔力も、魂に刻まれている」


ダイモーンの瞳がこちらを見つめる。


「かつて運命神と仕合った時、未来を読まれ、決着がつかなかった。あれが本物なら――貴様らはとっくに死んでいたぞ」


「……スパティアが、違う魂を入れたってこと?」


「そうだろうな」


ネブラは小さく息を吐いた。私達は、倒れたモイラへ歩み寄った。モイラはぐったりと横たわっている。あれほど激しく戦っていたのに、今は人形のようだった。


「肉体は生きているが、魂が抜けている」


胸が締めつけられる。


「戻るの?」


「さぁな。スパティアが持っているなら奪還できるが、消滅していれば、二度と目を覚ますことはない」


冷たい現実。助かったはずなのに、何も解決していない。


「とりあえず助かった。感謝する」


ネブラはそう言ってダイモーンを見た。


「俺は今からでも貴様らを抹殺したいがな」


殺気がダイモーンから放たれる。


「殺る気か?」


ネブラが淡々と返した。


「……まぁいい。あいつが消えれば、神の均衡は崩れるからな。だが、剥がした御札の責任は取ってもらう」


「責任?」


「凶悪な神の討伐だ。協力しろ」


「なぜ我々が」


ネブラは冷静に返す。私は一歩前に出た。


「……封印を解いたのは私達だよ。協力します」


「おい」


ネブラが低く制する。


「三人いれば楽勝だろう」


ダイモーンがそう言い、笑った。


二人を安全な場所まで運び終えた、その瞬間だった。建物に貼られていた御札が、まるで役目を終えたかのように、音もなく一斉に消えた。


その瞬間、再び重圧が落ちた。地面に亀裂が走る。その裂け目から、ゆっくりと“それ”は現れた。


黒く捻じれた二本の角が、額から突き出している。肌は灰色、筋肉は異様に隆起し、瞳は赤く濁っていた。その姿は――鬼に酷似している。


「……久しぶりだな。今度こそ殺してやるダイモーン」


低く唸る声。その視線は、真っ直ぐダイモーンに向けられていた。


ダイモーンの表情が、わずかに変わる。


「残念だが、貴様はここで終わりだ鬼神」


鬼神は地を蹴り、衝撃波で瓦礫が吹き飛ぶ。ダイモーンが受け止めるが、地面が抉れるほど押し込まれる。


「ネブラ!」


「分かっている」


ネブラは後方へ跳び、空中でハルバードを顕現させた。長柄の武器に黒い霧が刃を包む。振り下ろされた一撃が、鬼神の肩を裂き、血が吹き出す。鬼神が唸り、ネブラへ拳を振るう。だがその動きが、一瞬だけ鈍る。


「今!」


私は地面を蹴った。ネブラが作った一瞬の隙、そこへ、魔力を拳に込めて叩き込む。手応えは岩を殴ったかのように硬く、腕に痺れが走る。だが、私の衝撃で鬼神の姿勢が大きく崩れた。その一瞬。


「死ね」


ダイモーンが低く呟いた瞬間、地面から這い出た影は蛇のようにうねり、鬼神を取り囲んだ。影は一斉に跳ね上がり、鬼神の身体を後方へ吹き飛ばした。


崩れ落ちる瓦礫。だが、瓦礫の中から笑い声が響く。


「舐めるなよ」


鬼神はゆらりと立ち上がる。胸や肩が抉れているはずなのに、再生していく。


「時間をかけると、再生されるな」


ネブラが低く言った。鬼神の瞳がこちらへ向く。


「全員まとめて殺してやるよ」


その瞬間、衝撃波が放たれ、私とネブラが吹き飛ばされ、地面に打ち付けられた。ダイモーンだけが、その場に踏みとどまっていた。


「もう終わりだ」


そうダイモーンが言うと、鬼神が影に包まれ、その影が圧縮していく。鬼神は絶叫とともに崩れ、形を保てなくなり消えた。


「……終わったか」


ネブラが息を吐いた。周囲を見渡すと、ダイモーンはすでに祠の奥に消えていた。


「……これからどうする?」


「我は運命神を運ぶ。お前はモラを担げ。一度我の城に戻るとしよう」


そう言うとネブラは飛んで行った。私はモラを抱え、遅れまいと空へ飛び上がった。


「やっぱりあの程度の魂だと簡単に倒されちゃうな。まぁ、収穫はあったかな」


スパティアはそう呟くと、指先で空間を裂き、そのまま立ち去った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ