救い
アベルとエレナが、祈りを捧げている。
けれど、二人の前で祈りを捧げているライナス様の姿に私の視線は釘付けになった。
いつもは凜々しい印象なのに、ただ美しい。
この間は一瞬だったからわからなかったけれど、彼を取り巻く魔力は金色。
金色の光の中では黒髪が映える。まるで神話の中の光景のようだった。
「――レティシアさま?」
「どうしたの? 祈っているところを見に来たの?」
アベルとエレナがこちらに気がつき視線を向ける。
今日も二人の足は、床の冷たさに真っ赤になっている。
「敷物を持ってきたわ」
「「えっ……でも」」
次の瞬間、室内が金色の光で染め上げられた。
あまりのまばゆさに私は目を瞑る。
しばらくして目を開けると、ライナス様の紫色の瞳に私が映り込んでいた。
「どうしてここに? それに、その敷物はレティシアの部屋にあったものだな?」
「ええ、実は……」
私は図書室での出来事を説明した。
「……魔獣と取引をするなんて、なんて危険なことを」
「でも、実際はなにも……」
差し出したのは知識だけ。
命を取られたわけではないし……。
「余計なことはしないでくれ。これはレーゼ王家の――」
ライナス様の言葉に私は憤慨した。
だって、子どもたちの生活が改善されるのに、部外者の意見を聞かないなんてあまりに狭量ではないか。
「……子どもたちのことは譲れません! それにこれは盟約の内容を確認した上で用意したんです!」
「――わかった、今回は君の意見に従おう」
ライナス様の言葉を聞くや、すぐに私は敷物を敷いた。
「さあ、この上にのってみて」
「「あったかい!」」
アベルとエレナは嬉しそうに笑った。
私にできることは少なくても、この笑顔を守りたいと思った。
「……」
「ライナス様?」
「……感謝する」
ライナス様はそれだけ言うと、階段を上がっていってしまった。
――そういえば、私はこの王国に輿入れするために来たはずだが……。
結婚を申し込んだのに、まだ答えをもらうことができていない。
「ありがとう、レティシアさま!」
「大好き、レティシアさま!」
アベルとエレナが抱きついてきた。
まだ幼い二人は、これから冷たい思いをしなくて済むことが素直に嬉しいのだろう。
――もしかして、ライナス様にすでに嫌われてしまったのだろうか?
だが、私には帰る場所などない。
私のことをいないものとして扱ってきた家族たちの視線が脳裏をよぎる。
戻ったところで、私に居場所などないだろう。
『レティシア、元気ないのか?』
『俺たちがいるぞ、レティシア』
「……あなたたちどこにいたの」
ライゼとリンネはウサギの姿に戻っている。
『ずっといた。レティシアのいるところが俺たちのいる場所』
『それ以外じゃ消えてしまう。だからレティシアそばに置いてくれ』
「……対価は」
ライゼとリンネが対価を求めるのなら、私だって求めても良いはずだ。
『『話し相手になってやる!』』
「……」
アベルとエレナが不思議そうに首をかしげている。
二人にはライゼとリンネは見えていないのだ。
このまま、二人を可愛がりながらひっそりとこの場所に置いてもらおう。
ライナス様は、私のことを受け入れるつもりはないようだが、すぐに追い出すつもりでもないようだ。
私はそんなことを思って、二人とともに階段を上る。
――アベルとエレナが祈りを捧げなければならない事実は変わらない。
でも、今日敷物が増えたように、もう少し環境を変えることはできるはずだ。
そうすれば、少なくとも竜を凍らせた氷が溶けることもないだろう。
だから、できるだけひっそりと、置いてもらうのだ。
私は密かにそう決意しするのだった。




