盟約
盟約について書かれた本は、禁書庫にあった。
だが、千年も前の記録は口伝をまとめた物が中心で、推測が含まれているのかいくつかの本を読んでも結論が一致しない。
「聞いたほうが早いぞ、レティシア」
「レティシア、三年くらいどうということはないだろう?」
「――あなたたち何年に生きるの?」
「「え、そうだな。一万年くらいか? もう少し生きるかな――」」
たぶん、魔獣と人間では時間の感覚が違うのだろう。
一万年あるのなら、三年くらいは対価に捧げても良いのかもしれないが。
「――私は、どんなに長くてもあと八十年くらいしか生きないのよ」
「「えっ……」」
「あいつ、と呼んでいる初代国王陛下は教えてくれなかったの?」
「「……教えてくれなかった。と、いうことはあいつはもういないのか?」」
「いないでしょうね。千年も経っているのなら」
「――2番目に来た子も、3番目も4番目も」
「5番目も6番目も7番目も――もしかして、49番目のレーゼの王位継承者ももういないのか?」
オーランド王国とレーゼ王国は、ほぼ同時に建国され大陸でも長きにわたり続いている。
だが、私の父は第三十三代オーランド国王だ。
レーゼ国王は五十代目。つまり、代替わりが激しい……。
それは恐らく長きにわたり魔獣と戦い続けているが故だろう。
「……いないわ」
「……じゃあ、途中から俺たちが見えなくなった50番目と、まだ見えない51番目の二人組も」
「すぐにいなくなるのか」
魔獣が人を理解するなどあるのだろうか。
だが、少なくともライゼとリンネは理解しようとしているようだ。
唐突に、ライゼとリンネが、本棚の本と本の隙間に揃って手を突っ込んだ。
奥から掴み出されたのは、古びた本だ。
「「レーゼの気配がする」」
「ありがとう……対価は」
「「今の人間についての知識、対価として成立する」」
二人はすっかりしょげかえってしまった。
こうしてみると、まだ十歳くらいの少年が現実を知って肩を落としているように見えて胸が痛まないでもないが……。
「……盟約。漢字だわ」
本の中に書かれていたのは、この大陸でたぶん私しか読めないであろう文字――日本語だった。
【盟約1】ドラゴンを凍らせる氷を維持するため、乙は魔力を提供し、甲は維持のため力を貸すこと。
「契約書――」
【盟約2】対価が足りない分は、裸足で祈るで良いか。
「急に適当になったわね……」
初代国王陛下は、アバウトな性格だったのかもしれない。
だが、アベルとエレナが素足で祈りを捧げなければならないのは、対価の釣り合いを取るためであったことにようやく行き当たる。
【補足】素足で祈るからと言って、環境を整えてはいけないなんて約束はしていない。
「……自室に戻るわ」
盟約とは、本当になんなのか。
契約と言うには緩く、抜け道はまるでトンチのよう。補足で抜け道を作れるのなら、子孫にちゃんと伝えておけば良いのに。
だが、禁書庫に残されている資料自体がすでにかなり形を変えているようだった。
千年の間に、失われてしまった知識があるのも当然なのかもしれない。
部屋につく。
私は、床に敷かれた毛皮の敷物を手にして、祈りの間へと向かうのだった。




