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「え?アレックスはよくやってくれてますよ」
イザベラさんが切り出したのは、アレックスの不満足について。
でもアレックスはいつもファイブをまとめて、私のやりたいことにも付き合ってくれるしきっちり仕事してくれるし、真面目で何も不足がない。
「では何故アレックスを伴侶にお選びにならないのです」
イザベラさんがこちらをガン見してくる。
挨拶の時、睨まれてるみたいって思ったけどもしかして本当に睨まれてたな。
「アレックスは幼少から聖女様の騎士となるため並々ならぬ鍛練を重ね、すべて結果を出してきました。彼の血の滲むような努力を私は知っています。加えて端正な顔立ち、鍛えられた体躯、誠実な人柄。何が不満なのです」
イザベラさんは私の手を取った。
「アレックスが素晴らしい人物ということは、この短い期間で聖女様も十分おわかりと存じます。結婚後の生活も、私のできる範囲で聖女様のご希望に沿いましょう」
「温室でもプールでも猫でも兎でも、欲しいものは全てご用意致します。アレックスをお選びください」
イザベラさんの手に力がこもる。
「彼の努力が裏切られるところを私は見たくないの」
イザベラさんは最後にか細い声で言った。
胸がきゅうっとなる。
そうか、あなたアレックスのことが本当に好きなんだね。
イザベラさんの手をぎゅっと握った。
「アレックスは聖女の騎士として素晴らしい働きをしてくれています。頼りにしていますし、期待に答えてくれます」
でもごめんね、アレックスと結婚はないよ。
「アレックスは素晴らしい騎士です。けれど、結婚を考えることはできません」
だからあなたがアレックスを幸せにしてあげてください。とは言えないけど。気持ちはそう。
実は誰とも結婚したくないってのはここで言うとまずいかな。
私が結婚と出産から逃げたいという話はあんまり広めたくない。
うーん、でもファイブの誰かに期待をもたせるのは良くないし、リアムやイザベラさんのように正面から来られるとつい本当のことを言いたくなってしまう。正直者だから。
困ったな。
「今はとにかく祈りの儀式を滞りなく済ますことが大切です。魔物被害がたくさん出ているので。それが収まるまで、その後のことは考えられません」
こんな感じでいいかな。納得してもらえるかな。
イザベラさんははっとした顔で俯いた。
「聖女様のお心に思い至らず勝手を申しまして、大変申し訳ありません。無礼をお許しください」
恐縮されてしまった。
「大丈夫です。イザベラさんがアレックスを思うあまりのことだとわかっています。明後日には出発ですから、今のうちに沢山アレックスとお話してきてください」
イザベラさんはお礼を言ってアレックスの所へ向かった。
皆ペアになって庭園を散策している。
いい雰囲気の邪魔はしたくないけど、女の子達に次会えるかもわからないし、一言ずつでもご挨拶しておこうかな。
後はガゼボにお茶とお菓子をお願いしよう。
今日の侍女カーラさんにとびきりのお菓子をお願いして、まずはさっき硬くなっていたポーリーンさん、パーシヴァル組の所へ行くことにした。