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毒親を考えるー万能感とは何か12−16/16

 12

 信頼できる大人に応援してもらいながら、段々と万能感の幻想を手放して現実に着地していく子供がいる一方、こんなふうにして、大人になるまで万能感にしがみついていなければいけなかった人がいる。

 後者は前者にはおそらく全く想像も感覚もできない別世界を生きていると言ってもいいんじゃないだろうか。


 前者から見ると万能感を持った後者は、何を考えてるかわかんなくてこわいとか、なんでも自分の思い通りになると思っている幼稚な奴とか、人を上から押さえつけてコントロールしようとする嫌なやつとか、自分自分ばっかで思いやりがなく人を尊重できないナルシスト、こんなにキレ散らかすなんてどれほど甘やかされて育ったんだろう! などと不思議に思ってそっと離れ相手にせず、密かにあいつとは付き合えないと吐き出すしかないかもしれない。

 理解不能だと。

 けれどその育ちへの評価は間違いで、実はこのように辛い思いをして外側を強引に適応させて内側では世界に背を向けざるを得なかった人たちがほとんどだ。


 さらに後者の人々は「自分もひどい育ちだったが万能感など克服している」つまり「毒親連鎖なんてしていない」と言い張る人たちにも「現実を見なきゃ。幼稚。大人じゃないね(人間性批判)」などとジャッジを下されてしまう。

 しかし前述したように「思い込み」は当人には気付くことができにくい。

「私は理想の良い母親」を目指して歩んでいるのだと信じて子供に「偽りの自己」の仮面を貼り付けさせてしまう親のように、自分は万能感など克服していると信じている人は自分の「思い込み」「万能感」に気がつかないで、自分は人をジャッジできると思っている。親切心でね。

 ジャッジして現実に直面させれば目が覚めて万能感を手放し「大人」になるはずだと思っているからだ。

「万能感を手放すこと=現実は自分にはとても手に負えないどうすることもできないものだと絶望を感じながら、血まみれになってでも受け入れなきゃとダメっ! って鞭打つこと」を再現させる。

 自分がそうして克服したのだと思っているからだ。

 しかし万能感の克服とはそんな方法では実現しない。

 真実万能感を克服している人にはとてもできることではないのだ。

 不感症になっているのでなければこんな「思いやり」のない苛烈なことを人に求めることはとてもできない。

 彼らは目の前の相手に自分自身を「投影」そして自らの親を「転移」しているのだろう。

 そして自らが自らの親に投げ込まれ「内面化」した像を相手の中に投げ込むのだ。

 「あなたのために」「こんなにしてあげてるのに」と思うままにならない相手を憎みながら、愛だといって。


 ※「ジャッジメント」価値評価し、審判を下すこと。良し悪しと判断すること。「べき思考」などの思い込みを持っている人は常々自分に対しても厳しくジャッジメントをしている。ジャッジメントを手放せるかどうかが万能感を手放す鍵なのかもしれないなあと思っている。そしてそれも完全にということはありえないのは「万能感」とはどういうものかを考えれば自明だね。

 ※「投影」「防衛機制」の一つ。自分の中の認め難いものを相手の性質として映し出す。

 ※「転移」相手の中に別の相手を重ね合わせて見ること

 ※「内面化」「内在化」他者の考えを自分の心に取り込んで自分のものにしてしまう。例えば「お前は思いやりがない人間だ」と言われたことを「何言ってんだ?」とはね返せず、「私は思いやりがないんだ」と自分の内面に由来するものと思い込んでしまうという感じ。

 非現実的な理想を抱き及ばないことにともがく母親が、そんな自分像を受け入れられないので子供の中に投げ込む(投影)。子供はそれによって自分がダメなのだと感じる(内面化)。



 13

 思い出してほしい。

 通常幼児期に子供はどのようにして万能感を手放すのか。

 自分は大丈夫と「自己効力感」を持つことで固く閉じた目を開き、現実を見つめる「勇気」を持つのだ。

 見つめることでようやく行きつ戻りつしながら超スローステップで着地を目指すことができる。

 まず信頼すべき最初の人にさえ見捨てられ支えてもらえなかった自分……と感じてきたのならなおさら「自分にはちゃんと能力があるし、丁寧に扱われるべき大切な存在だと感じられるようになる」ことは難しい。

 つまり目を開く勇気を持つまでがめちゃくちゃ大変ってことだ。

 根底にあるのが不信と恐怖なのだから目をこじ開けるようなことをしてはいけない。

 自らの現実を見つめる勇気がないことを嘲笑ってはいけない。


 つまりそもそも毒親……万能感を持つ人が「私って毒親なのでは?」と気がつくのがいかに難しいかということだ。

 それができたら本当におめでとう!だ。

 残念ながら毒親にわかってもらおうとしがみつく人のほとんどが、傷つけられ失望するに至る。

 見つめさせることで却って万能感にしがみつかせてしまうからだ。

 子供の思いをしれば、現実を見ればわかってくれるんじゃないかというアプローチが、より一層目を固く閉じさせる。

 親にしてみればこの上なく労力を費やし愛情を注いできたはずなのだ。

 それは「理想の親」という万能感を維持するための努力だったのだけれど。

 気づきもせずに、あんなに自分を犠牲にしてあらゆるものを与えてきたのにと大いに傷つく。

 そしていつもの習慣の通り感情を爆発させて子供に押し付ける。

 感情を感じなくて済むように。

 失望した子供は幸いにもある程度の力と健康さを獲得できていれば、親をこいつはダメだとまるっと人格ごとみんなジャッジし、心の底で見放すことができる。

 大いに憎み、立ち去る。一切の期待を切って。当然の帰結だね。とても悲しいけれど、それが一番健全に近い。

 でもそれで終わりじゃない。

 このままではこの子供も先程の後者のような、人をジャッジして回る大人の姿をした「万能感の子供」になるだけだ。

 私はあんな親になんかならない、と強く思えば思うほど理想を固く思い描いて……。

 一所懸命に子供は知らず毒親になる。





 14

 幼い頃万能感の世界をおいてひとまずの現実世界に着地した人はその過程を辿っているが、幼く当たり前すぎてどうやったのかを覚えていない。

 けれど正しさをかさに呆れた、ダメだ、甘えるななどとせき立てて、「思いやり」のないチャレンジを強いられてきたのではなかったことくらいはきっと感覚的に理解している。

 彼らが経験して来たのは、ちょうど母親が自分自身を思いやり労ることで、良い母と言う「万能感の幻想」を遠ざけ、子供の心を見つめることができるようになるのと似たような方法なのだ。

 彼らも時に理想を抱いて「万能感」に飲み込まれることもあるかもしれないけれど、それでももうあの幼児の頃に抱いていた命の危機を感じているような苛烈な感情を抱くことはもうない。

 つまり現実を見ることで目を覚ますことが容易くできるということだ。

 万能感の世界から一度も外へ出たことがない連中の抱えている感情の強烈さとは全く違う。

 ここまで感覚が違うとわかっていなければ、お互いを理解することはなかなかに難しいだろう。


 ※「思いやり」相手の望み、気持ちを汲みとり気遣うこと





 15

 また、適切な時期に「万能感」を手放すことができた子供が自分の欲求に対し怒りまくって自分を守ることを許されてきたのと反対に、「偽りの自己」を生きることになってしまった「万能感」を手放せなかった子供は、怒りを出すたびに抑えつけるよう求められ、抑圧し高まり爆発し……と言う経験を何度もして来た。

 大切に扱われなかったから彼らは自分の感情を大切に思えない。

無視してしまう。

 怒ることをはじめ強烈な感情を感じること自体を恥じる。

 爆発した経験があれば感情の揺れを恐怖するようにもなるだろう。

 恐怖を感じないために感じたくない感情を否認する。

 不感症になるんだ。

 つまりまず自分の感情を把握できなくなるし、人に攻撃されても自分を守るために怒りを持って抵抗することができなくなるということだ。

 抵抗できずに相手に投げ込まれるがままの自己像を素直に取り入れ内面化してしまう。






 16

 今回は「毒親を考えるー万能感とは何か」について書いてきた。

 人は生まれながらに持っていた万能感をどのようにして手放し現実に着地するのか。

 子供からママ側に視点を写し、自身の感情をケアすることを知らなかった母親に起きていたことはどんなことだったか。

 そして最初の最初の段階で万能感ではなく自分自身を手放すことになった子供について、自分なりに理解したことを整理した。

 捉え方の誤りもきっとたくさんあるだろうと思う。


 私が小説を書く時にこうじゃない……と感じて行き詰まることになるのは家族を描くとき。

 彼らの心に起きていることはどんなことだったのか、何が見えていたのか。

 私の想像力は拙く、そして感覚は私自身を離れない。

 飛躍するには想像力ではなく、まず理解そのものが足りなかったのだと思い、一旦たどり着いたところまでを文字としてまとめておくことにした。



 次は「万能感と自己愛の関係」について理解したことをまとめておきたいと思います。

またいずれ

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