最終話:空からの「親交者」
目の前で激しく攻めてくるのはアーデルハイトの装騎アインザムリッターZ。
そして周囲では大母型によって操られた「侵攻者」達との戦いが繰り広げられている。
その中には友軍だった「侵攻者」達も混じり、どうにも戦いづらい状態だ。
「何か手はないのか――!?」
オレが今使えるものは何がある?
装騎スパルロヴの装備とヴィーチェユニットの装備、そして――ソウツィットシステムか。
「ツェラ無しでも使えるのか……?」
元々ツェラの同乗無しで使うつもりだったとは言え、それでもツェラが母艦から支援してくれるはずだった。
完全に一人で試すというのは――未知数だ。
けれど、「侵攻者」達に呼びかけるならこれしかないか!
オレは意を決する。
「ソウツィットシステム起動っ!!」
ヴィーチェユニットが展開し、「侵攻者」達と感応するその機能が発動した。
「ぐっ……!」
頭を締め付けるような感覚。
これはあの大母型が放っているある種の拘束力か。
でも、負けてはいられない。
オレは呼びかける!
「アーデルハイト! 聞こえるか!?」
装騎アインザムリッターZが怯んだ。
聞こえてはいる。
確かにオレの声は届いた。
けど――
「ダメか……大母型の拘束を解けるほどじゃ……っ」
一瞬くらいならまだしも、完全には難しい。
不意に背後から気配を感じる。
巨人型、近衛型――他の「侵攻者」が襲いかかってきた。
左肩の装甲を抉られたが致命傷は避け、反撃する。
やっぱ、敵を撃破せずに無力化するのは――骨が折れる。
そしてその隙を狙った装騎アインザムリッターZの一撃!
いいところを狙ってくるぜ!
左腕のヤークトイェーガー装甲を犠牲に何とか逸らす。
「厄介な!」
だが一度隙を見せればどんどんそこを突いてくる。
数的にもキリがない。
まだ相手を容赦なく倒せるのなら楽なんだけど。
「そういうことは考えるなシュヴィトジット・ヴラベツ……」
まずは戦いに集中を。
ここを乗り切れ、大母型さえ倒せれば終わらせることができるんだ。
集中しろ。
集中しろシュヴィトジット・ヴラベツ!
光が灯る。
装騎スパルロヴに光が。
それは限界突破した時の光ともまた違う。
どこか優しく、暖かい黄金の輝き。
「勝った!」
誰がそう言ったのか。
ばあちゃんか。
まさかまだ変な機能がスパルロヴに搭載されてるってのか!?
黄金の光が装騎スパルロヴを、ヴィーチェユニットを包み込み、そしてソウツィットシステムを利用して伝播した。
「この、光は――?」
アーデルハイトの呟きが聞こえる。
その声はどこか穏やかだ。
周囲の「侵攻者」達も動きを止めた。
「安心してる場合じゃないですよベチュカ! まだ力の余波が漏れ出してるだけ。ちゃんと意思に出してその力を使用しないと」
「いや、意味わかんねーよ! こんな機能、スパルロヴに?」
「対異界堕神用の特殊機能、アムリタシステムです!」
そして、その機能はこう唱えることで発動する。
その言葉はサブディスプレイに提供されていた。
今もっとも適切な必殺技を提供するスパルロヴの機能か。
ここで反抗する理由もない。
信じるぜばあちゃん、この力がこの状況を打開できると。
「アムリタ・サンサーラ!!」
光が放たれる。
それは浄化の光、癒しの光、そして装騎スパルロヴを生まれ変わらせる聖なる力。
そしてそれはスパルロヴだけではない。
ソウツィットシステムの助けもあり、広がる。
その、力が……。
「ツェラ!」
「生き返った。すっきり」
「ヴラベツ、これは……」
「アーデルハイト、大丈夫か?」
「ああ」
気付けば他の「侵攻者」達も動きを止め、正気を取り戻したようだった。
さすがに鳥型のような端末型には無効らしいがそれは最初から変わらない。
だがこれで、反撃の手立てはできた。
後は異界航行艦で技呪術霊子砲を!
『それが……「侵攻者」の奇襲で損害が。技呪術霊子砲は……」
撃てない!?
友軍「侵攻者」を操っての最初の攻撃。
大母型は的確に異界航行艦の主砲を狙ったっていうのか。
『間違いないでしょう。パッセル、モワノー、シュペルリンク、ヴェレーブ……全艦主砲機能に損傷が……』
リブシェの告げる現実。
技呪術霊子砲がアテにできないのなら火力が、足りない!
「あきらめるな」
グルルの声が聞こえた。
口調がいつもと違うからこのタイミングで言いたかっただけだろ!
とは思うが、本当に手がなければこんな冗談は言わない。
「手があるんだな!」
「今迎えに来ちゃいますよー!」
「迎えに?」
首を傾げる間もなく、それは姿を見せた。
『敵を倒す火力がないなら、火力になってあげますわよ!』
巨大な岩石。
移動要塞。
アデレード艦だ!
「ベチュカ、アーデルハイト! さっさと乗るジャン!」
乗るというか、収容されるというかだな。
とりあえず、スパルロヴ・ヴィーチェと装騎アインザムリッターZはアデレード艦と合流。
「作戦は?」
『いつも通りですわ!』
「諒解!」
そしてすぐに駆け出す。
目標は大母型の懐だ。
『作戦内容は送ったはずですわね? 手が空いてるモノは援護しなさい!』
『雀蜂型を射出。道を作りマス』
「フチェラも支援に回す。攻撃は防ぐ」
「その通りです! わたしの結界魔術とグっちゃんの技呪術、アテにしちゃっていいですよー」
「おう、あてにしてるぜ!」
なんて言ってる間に衝撃。
大母型の操る「侵攻者」達に、大母型自身の迎撃。
それらをかわし、防ぎ、距離を詰める。
『行きマス。雀蜂型、加速。ぶつけマス』
まず手始めの雀蜂型による特攻。
それは大母型の表面を叩きつけダメージを与えた。
『グルル、ブースト頼みますわ!」
「ブルスト……」
陣を組んだフチェラがその技呪術を行使する。
それは超加速を行うブルストの技呪術。
それで加速をつけ、そしてついに、激しすぎる衝撃!
全速加速での体当たり攻撃だ。
『さぁ、お行きなさいムスチテルキ隊!』
「ああ、ムスチテルキ隊!DO BOJE!!」
そして、強襲!!
「全力で叩け! 大母型を!!」
「ベチュカ、大母型が以前にも現れた異界堕神と同じタイプならコアがあるはずです。それを破壊しなさい!」
「諒解ばあちゃん! スパルロヴ、解析頼む!」
《確認。ここから正面、全力突破推奨》
「言われなくとも! グルル!!」
「ヘヴンス・イグドムント……」
まず仕掛けたのは装騎ククルクン。
虚空に描いた技呪術陣から放たれる強力な閃光。
それが一直線に大母型の身体を焼き尽くす。
「次はわたしにお任せくださーい! 興華結界・栄天瑠!」
装士イーメイレンが華式直刀を周囲にばら撒いた。
それは攻撃用の結界魔術ではない。
周囲にアズルが満ちる。
力が満ちる。
支援用の結界魔術――それも、ちょっと特殊な――
「ではではカっちゃん、頼んじゃいますよー!」
「り! アクアマリンドライブ!!」
装騎イフリータにアズルの強烈な光が灯る。
それは機甲装騎に搭載されたアクアマリンシステムの光。
本来であれば周囲の霊力を吸収し、装騎にアズルを上乗せする機能だが宇宙空間では使用できなかった。
だが、ナっちゃんの魔力が満ちたこの結界の中だと、擬似的にその使用が可能となるのだ。
そしてアクアマリンシステムの発動した装騎の性能は――天井知らずだ。
「ドラコビイツェ――」
装騎イフリータが両手の鎌剣ドラコビイツェを構える。
「ヂヴァドロ!!」
そしてワイヤーを伸ばし、牙を剥くアズルのステージを作り上げた。
二振りのドラコビイツェは大きく伸び、鋭い牙を大母型へと向ける。
それは鎌首をもたげた二頭の龍。
龍殺しという名でありながら龍をイメージさせるのはどうなんだとか言ってはいけない。
その二首は大母型を取り囲み、齧り付いた。
鉱物のような身体に牙を食い込ませ、そして噛み砕く。
大母型が悲鳴を上げたような気すらした。
だがそれは気のせいとも言い切れない。
無数の鉱石、そして「侵攻者」がオレたちに襲いかかってきたからだ。
『みんな、頼みますわよ!』
アデレードが声を上げる。
その攻撃からオレたちを守ったのは他の「侵攻者」たち。
巨人型、駆逐型といった友軍たちも力を決して援護してくれる。
「ヴラベツ、私が先に行く。続け、そして――決着をつけろ」
装騎アインザムリッターZがツヴァイヘンダーを手に加速を付けた。
アズルをその刃に纏い、纏い、纏い――巨大な光の刃を作り上げる。
それは身の丈を余りにも超えた一振り。
「ゲセリッヒ・テムプライゼン」
そしてその一撃が、大母型に楔を打ち込む。
これが決着に至る最後の楔。
光を飲み込むようなドス黒いナニかがアーデルハイトの刃を侵食していく。
おそらくはアレが――コア。
「これで、決まりだ」
そこにオレは飛び込む。
装騎スパルロヴが飛び込む。
両使短剣イージークに光を灯した。
アクアマリンシステム起動、オーズドライブ起動、アムリタシステム起動、その全て、オレのありったけを両使短剣イージークに注ぎ込む。
「ヴラベツィー――」
そしてイメージする。
強力な一撃、それこそ世界を切り裂けるような一撃。
「スパロー――」
そしてイメージする。
この戦いが終わった後の、その世界を!
新たな世界の始まりを告げる。
この刃で。
「コスモゴニエ!!!」
そして光は満ちていった。
あなたは本当に手を取り合えると思うの?
人間と、あなた達が「侵攻者」と呼んでいる彼女らが。
声が聞こえる。
光の中で声が聞こえる。
「当然だろ。だから信じて、戦ってきたんだ」
そのようだね。
でも本来は混じり合うことのできない存在だよ。
わたしとこの世界と同じように。
「誰がそう決めた? オレは諦めない。ツェラとも、アデレードやアリツェとも仲間になれたんだ。他の「侵攻者」とだって友達になってやるさ」
ふふ、そうだね。
あなたの信じた道、あなたの貫く道、それがこの世界に何をもたらすのか試してみるといいよ。
そして、伝えて。
あなたたちの子や孫、子孫達に。
いずれ"本当の私"があなた達に会いにいくと。
その時が真の、試練の時。
大母型は倒れた。
最後に、ソウツィットシステムを通してオレに言葉を語りかけ、消滅した。
オレにはその言葉が、オレ達への、人類への激励のように思えた。
彼女の言う通り、「侵攻者」との戦いは終わっていないのだろう。
十年先か、百年先か、あるいは千年以上先か――それは分からないけれどまた戦いが起きるはずだ。
その時までこの戦いを語り継いでいこう。
オレ達と、その子孫達と、そしてこの空からやってきた"親交者"たちと共に。
「ヴラベツ、わたし達はいっしょにやっていけると思う?」
「当然だろ。オレ達が先陣を開くんだ。人類と親交者達の世界のな」
「うん。ヴラベツ……」
「ん?」
「あなたに出会えて、よかった」
「オレもだ。ずっと一緒に居よう、ツェラ」
「うん」
ステラソフィア・インハリテッド 完
新作品予告。
ネジェスト「ふふ、どうやらついにわたくしたちの出番のようね」
ネスミスル「いやー、長かった! ついに日の目を見る時が!」
プシェジター「やって来た。やっと来――ふげっ!?」
2人「「プシェちゃん!?」」
???「「「そこまでだ!」」」
ツィーチュカ「真っ直ぐな慈愛の戦士、ツィーチュカ!」
ミスレシュカ「冷静な知性の戦士、ミスレシュカ」
ベジェトルカ「躍動の力の戦士、ベジェトルカッ」
3人「「「我らハイビスカス少女隊!!!」」」
ネジェスト「来ましたわねハイビスカス少女隊!」
ネスミスル「不意打ちとか卑怯だぞ!」
ツィーチュカ「勝てばよかろうなのだぁ! 行くよみんな! 突撃!」
ツィーチュカ「ハイビスカス正義パンチ!」
ミスレシュカ「ハイビスカス正義キック!」
ベジェトルカ「パンチはわーの方が得意なのに大パンチ!」
新連載!
特効ヒロイン ハイビスカス少女隊。
ツィーチュカ「大好きなオキナワのために!」
ネジェスト「そ、そのこころどぉ……」
ミスレシュカ「変な使命感に駆られるな」
4月5日日曜日21時より隔週にて連載開始!




