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第53話:古き世からの「到来者」

「各艦にも通達を。目標は大母型ティプ・ヴェルカーマトカ!」

ゲッコー艦長の号令で周囲から異界航行艦が集結する。

『全砲門解放! 同時砲撃を敢行します。周囲の装騎隊、同盟軍は注意を!』

シュプルギーティス、パッセル、モワノー、シュペルリンク、ヴェレーブ――五隻の異界航行艦による同時砲撃。

それを周囲に浮遊した巨大な宝石が受け止める。

そして、反撃。

大母型の中核から走った光がその体の中を反射した。

増幅された閃光がオレ達の目を焼く。

「大丈夫か!?」

思わず声をあげてしまうが、どうやら平気らしい。

フチェラや雀蜂型ティプ・ヴォサが身を挺したお陰もあり、シュプルギーティスは健在。

他の異界航行艦も同じだ。

だがそこに大母型は近衛型ティプ・ストラーシュを先頭とした「侵攻者」の群れをけしかけてきた。

「ムスチテルキ隊、迎撃だ」

アーデルハイトの声が響く。

「リブシェちゃん、各異界航行艦に通達をお願いします。技呪術霊子砲による同時砲撃準備です!」

『諒解しました!』

「聞いたな? では装騎隊は母艦の援護に」

オレはふぅと一息、気合を入れる。

「行くぜ!!」

『私たちも援護させていただきますわ!!』

そして戦いは続く。

閃光、衝撃、爆発。

アデレードの要塞に、オレ達の味方になってくれた「侵攻者」達の援護もあり戦いは順調に進んでいた。

順調だと思っていた。

『各艦、技呪術霊子砲の充填完了。装騎隊及び友軍部隊は射線の確保を』

強烈な五つの霊子反応がその一撃の到来を予感させる。

ディスプレイに投影される形でその射線が表示された。

全員退避は――

「無事離脱ゥ!」

「問題ない」

「ではでは、やっちゃってください!」

「完了したか」

「おうっ」

『技呪術霊子砲――発射!!!』

瞬間、激しい五つの閃光が大母型「侵攻者」に向けて放たれる。

それぞれの閃光が絡み合い、増幅され、その威力が高まっていった。

その全てを一身に受ければ「侵攻者」どころかそこに輝く赤い星でさえただでは済まないはずだ。

眩い輝き。

目がくらむ。

衝撃波で周囲の「侵攻者」も纏めて葬り去っていった。

安全圏にいるはずなのに、必死で踏ん張らないと耐えられないような衝撃。

その筈なのに――

『大母型の反応健在――!?』

周囲に漂う光輝く破片。

それは確かに大母型を打ち砕いた。

だがダメージが甚大とは――言いづらい。

外殻は砕いた。

だが、あくまでそれは"外殻"。

あの巨大なダイヤモンドのような身体は長い年月によって蓄えたあくまで身を守るための防壁。

しかしそれを破壊されたからと言ってその脅威が揺らぐわけではない。

――――――――ッ!!!!!

それは音が伝わらないはずの宇宙空間を確かに伝った音のような何か。

人の魂を震わせるような、もっと生物の根底に根差した何かを震え上がらせるような何か。

そしてそれに揺さぶられるのは人間だけじゃない。

「ぐっ、何だ――これはッ」

「アーデルハイト!」

装騎アインザムリッターZが頭を抱える。

それだけじゃない、一部のフチェラと、そして雀蜂型にも影響が見えた。

そうか、大母型は「侵攻者」の原点に近い存在。

となれば、母型や乙女型を上回る「侵攻者」の統率――いや、洗脳能力を持つ。

「ツェラ、無事か!?」

オレは背後を振り返った。

ツェラも頭を抑えて、必死に大母型からの干渉に抗っている。

「ヴ、ラベツ……ヴィーチェの操縦系統を、ロック、して」

ツェラの必死の懇願。

その意図はすぐにわかった。

「わかった。コッチは――任せろ!」

ヴィーチェユニットのコントロールを全て装騎スパルロヴに。

万が一ツェラが大母型の指揮系統に入った時のことも考えて操縦席を完全にロックする。

「スパルロヴ、補助は頼んだぜ」

《諒解》

「アーデルハイト、アデレード、アリツェ、平気か!?」

「平気――とは言い難い、が」

『そう、ですわね、せめて、邪魔にならないようには、します、わ!』

『デスガ、長くは――』

つまりもたもたはしてられない。

ここから狙うべきなのは短期決戦。

そうしなければ今までオレ達のしてきたことが無駄になり得る。

なんとしてもアデレード達が大母型の支配下に入る前にヤツを倒す!

とは言え――

「ばあちゃん、さっきみたいに異界航行艦での斉射いけるか!?」

「指示はすでに出しています。が、充填完了までの時間がネックになりますね」

「ってことは最低限、それまでの時間を稼ぐべきか」

「りりり! つまり、やることはさっきまでと変わらないってコトっしょ!」

やることは変わらない。

――とも限らない。

さっきと違って味方「侵攻者」の多くが行動不能ないし能力低下に見舞われている。

アーデルハイトも能力を発揮しきれないだろうし、アデレードによる雀蜂型の支援もだ。

オレ達ができることといえば――

「グルル、ナっちゃん、デカいやつ頼めるか!?」

「アイツにですかー!?」

「でしょ」

さすがに厳しいことを言っているのはわかっている。

周囲の結晶体をはぎ取れたとは言え、まだあまりにも巨大なその身体。

「フチェラで結界構築の支援、お願いしますよー!」

「むぅ、数、足りない」

「雀蜂型――は使えなさそうですねぇ」

「ばあちゃん、他艦から何基か回してもらえないか!?」

「それは可能だと思いますけど――」

それでもきっと、火力は足りない。

だがやらないといけない。

やりきらないといけない。

「結界構築完了……魔力、補助する」

「ありがとです! んでは、技呪術結界ぃ!」

「ブルズオト」

武黎不揚宇斗ブレイズアウトですよ!」

「そう変わりない」

「変わりますよー!」

「言ってる場合か!」

二人の技能を合わせた超広範囲の殲滅結界技呪術。

それは確かに強力で、向かってくる「侵攻者」を一網打尽にした。

そのまま大母型にまで到達し、身体を焼き払う。

「やっちゃいました!?」

「やれない」

グルルの冷静な判断通り、そして大方の予想通りあれだけ大規模な魔術でも効果は見えない。

「やっぱ火力が足りなさすぎるっしょ!! 技呪術霊子砲マダなん!?」

『あと少し――充填完了! 各艦に連絡――射出タイミングを同期――技呪術霊子砲、キャッ!?」

「なんだ!?」

異界航行艦シュプルギーティスからの損害報告。

それだけじゃない。

パッセル、モワノー、シュペルリンク、ヴェレーブも同じように襲撃を受けた。

どこから?

誰から?

言うまでもない。

『すま、ない――です、わ……これ、以上!』

味方「侵攻者」からの攻撃!

更にはアデレードが操る雀蜂型の攻撃。

となると――

「アーデルハイト!」

「――ッ!!!!」

必死に耐えるような苦痛の声が通信から漏れてくる。

それと同時に、超高速で接近してくる一騎の機甲装騎。

識別コードは味方、装騎アインザムリッターZ。

だがその刃は――オレに向かって閃いた。

「アーデルハイト!」

「ぐっ、抑えが、効かないッ。ヴラベツ、私を、私を倒せ!」

両使短剣イージークで片手剣シュヴェルトを受け止める。

アーデルハイトをどうするかもあるが、それ以外の「侵攻者」への対処も考えないといけない。

「ネーシャとナっちゃんはシュプルギーティスの援護に! グルルはアデレードの様子を頼む。要塞まで敵に回ると厄介だ!」

「り! コッチは任せるっしょ!」

「かしこまりましたかしこー!」

「アデレードは抑える。ヴラベツ、アーデルハイト、頼んだ」

「頼まれた! ばあちゃん、艦長、可能な限り友軍「侵攻者」の無力化を!」

「へぇ、司令官に指示を出すつもりですかー」

「元々同じことやるつもりだったでしょう」

「そうなんですけどね。孫の期待、応えて見せますよ」

可能な限り、味方についてくれた「侵攻者」に被害は出したくない。

とは言え、オレ達の実力では無力化できるほどの力量差はない。

けれどばあちゃんとゲッコー艦長ならば――。

「うおっ!?」

激しい衝撃で思考が一瞬止まる。

そうだ。

最低限のやることはやった。

後はみんなに任せて、オレはオレのできることをやるだけだ。

一先ずは、

「アーデルハイト、すまねえ。とりあえずブッ叩かせてもらうぜ!」

「ああ……来い、ヴラベツ……っ!」

両使短剣イージークと片手剣シュヴェルトがぶつかり合う。

その剣筋はさすがアーデルハイト。

身体に技術が染みついているのだろうか。

動きは――圧倒的!

だが、それでもオレも強くなった。

そしてアーデルハイトとも何度も何度も戦っている。

騎士型「侵攻者」としてその素性を知らなかったころからも何度もだ。

「ヴラベツィー・ジェザチュカ!」

一撃を閃かせるが、盾シルトで容易に防がれる。

その隙を狙ったように装騎アインザムリッターZが片手剣シュヴェルトを振り払った。

「さすがに、良いところを突いてくるッ」

それにその一撃はいつもと微妙に違っている。

アーデルハイトなら突いてくるだろうラインとは別のところを狙ってきていた。

これは大母型からの指令?

いや、違う。

それはきっと――

「アーデルハイト! "気にするな"!!」

「ッ!!」

必死に抑えている。

必死に手加減をしようとしているんだ。

だが――気にするなアーデルハイト。

「全力の方がよくわかっている!」

「! 承知した」

動きにキレが、速度が増していく。

そう、オレのよく知るアーデルハイトの動きにだ。

それでいてアーデルハイトなら容易にできる咄嗟な状況に応じた判断ができていない。

この状態だと応用ができないんだ。

騎士型の時もそうだった。

だからアーデルハイトに体の力を抜いてもらったんだ。

とは言え――

「一歩間違えれば――コッチが、負けるぜ……」

ヴィーチェユニットを装備しているから今までの装騎スパルロヴとはまた重量のバランスも変わってくる。

だからと言ってツェラが乗っている以上切り離すこともできない。

「さて、どーすっかな。こりゃ」

周囲を確認。

「侵攻者」が十数体集まってきている。

鳥型みたいな「侵攻者」ならまだしも、巨人型や近衛型といった外骨格型を相手にするのは面倒だ。

それが友軍「侵攻者」だったらなおさら。

だが運の悪いことに――

「友軍が数体混じってる。チッ、手を出しづれえぜ」

そして目の前には装騎アインザムリッターZの容赦ない攻撃にさらされている。

何か、突破できないのか?

何か――――この状況を突破する手立ては!


挿絵(By みてみん)

「ドゥ、ずっと待っててくれたんだな」

「……」

「そうか。ヴラベツ達と仲良くやれたんだな。よかった」

「……」

「コチュカ――アネシュカのネコか。彼女とも友達に? よかったな」

「……」

「……「侵攻者」とは亀と会話できるものなのか? 不思議なものだ……」


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