第7話 調査隊結成
非常事態宣言、第一級。ルメア王国始まって以来の危機の時、それは宣言される。なぜ今回の事案が該当したのか。それは、人智を超えた存在と対峙する可能性があるからだ。相手が何者かは全くわかっていない。大迷宮の仕業か、伝説上の存在である魔王か、それ以外か。
自分の家、自分の部屋。慣れた場所だが、「【最重要国家機密 第一級非常事態】」書類に示されたその文字が空気を重くしている。
情報の伝達とは早いもので、すでに最重要国家機密に認定されたようだ。
明日、ギルド長、パーティーメンバーと共に登城し、詳しい事情を説明する予定だ。大迷宮の攻略は調査隊が結成されてからとなる。ギルドと王国の保有する最高戦力を調査隊として派遣するらしい。何かあった際に並大抵のメンバーでは対応できないと判断された。
表向きの調査隊の目的は第96層の資源探索と安定化だ。資源回収班の護衛のためと言えば、最高戦力がついていってもそこまでおかしくはない。実際、魔道具のエネルギー源となる魔導石の鉱脈らしきものも発見したので、不審に思われることはないはずだ。
静寂が部屋を支配している中、かすかなノックの音が響いた。
扉を開けると、ホノカが立っている。
「今日…………隣、いい?」
いつもの元気がない。部屋に招き入れる。
一緒にベットに座ると、袖を掴まれた。
しばらくすると、少しだけ震えた声で話しかけられた。
「……………………ねえ……、もしさ…………何かあっても」
「……私のこと、忘れたりしないよね?」
「…………ちゃんと、いるよね」
「あぁ、忘れないし、いなくならない。…………ホノカは俺が守るよ。」
こんなに弱気のホノカを見るのは初めてだ。
この日、ホノカは寝るまで手を離さなかった。
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王城内、近衛騎士団本部・第三戦略会議本部。
謁見が終わり通されたこの部屋は、全体に軍用結界が何重にも張られており、会議机の中央部には王家の紋章が堂々と彫り込まれている。かなりの格の部屋なのであろう。
出席している面々も圧倒的だ。
重鎧のまま座っている近衛騎士団長レオン・アンドレアス、静かに周囲を観察している宮廷魔導士長マイア・セロフィア、ギルド所属で浮遊する盾を使うことで知られる魔法盾士アイギス・フォスティア、回復魔法に長けた支援術師イリナ・ソフィア。
「これより、第96層調査隊の第一回会議を行う。私は近衛騎士団長、レオン・アンドレアスだ。この調査隊は勇者パーティーとギルド、王国から派遣された五人で行う。本作戦は国王陛下の下、大迷宮第96層の異常事態の解明を————」
五人? 四人しかいない気がする。もう一人はどこだ? …………よく見たら壁際に一人佇んでいるようだ。あれは、王国諜報部のダリオス・メントゥムか。
「我々は現在唯一第96層に到達している勇者パーティーと共に、一週間後より調査を行う。この現象は今までに一切確認されたことがない。また、これまでに記録・記憶の改竄が行われた可能性が高い。のちに王立研究所が作成した干渉を防ぐ魔道具を配布するが、効果があるかは一切分からない。最悪の場合、記憶が完全に失われる可能性もあると研究所は考えている。相応の覚悟を持って臨んでほしい——。…………覚悟ができたら、誓約書にサインを願う」
王族の紋章が入った誓約書が手渡された。これにサインをしたら、後戻りはできない。この異常事態を解決する義務が発生する。
怖い。これにサインをしたら、怪物と対峙しなければならない。
人智を超えた、存在と。
誓約書から目を逸らそうとしたのだろうか。顔を上げると、ホノカと視線が交わった。
—————お互いに、頷く。
ペン先が、紙の上を滑る。
誓約書に、サインをした。




