9話 パトリシアの気持ち3
クレマンと私の険悪なやり取りを見ていたパトリシア嬢は、今より状況をもっと悪化させようとしているのが、丸見えのタイミングで話に割って入って来た。
「クレマン! 優しいあなたに、ミレイユさんのような薄情な人は相応しくないわ!」
「パトリシア……⁉」
自分にしがみつくパトリシア嬢を、クレマンは眉をひそめて見下ろした。
うんざりとした気分で、私はハァ──ッ……と、ため息をついた。
「……本当にあきれた人たちね」
(二人っきりでもないのに、抱き合ったりして。それも婚約者でもない人たちが! もう見ていたくないわ)
私はこれ以上、この二人といるのが苦痛になり、今すぐにでも帰りたかった。
そんな私の気持ちなど、パトリシア嬢が気にするはずもなく。
クレマンに媚びた甘い声で、私を悪者にするための言葉をつらつらと並べた。
「だってクレマン、そうでしょう? さっきからミレイユさんは、ずっとあなたを責めてばかりだもの。婚約者なのにあなたのことを愛してないのよ!」
うっすらと嘲笑を浮かべ、どことなく勝ちほこった態度のパトリシア嬢に、私も負けずに軽蔑する心を隠さず睨み返した。
「……フンッ」
(パトリシア嬢の言う通り、クレマンは私に相応しくない人かもしれないわ。……だって今は、クレマンが本当に私のことを好きなのか、わからなくなってきたから)
パトリシア嬢から視線をクレマンに移した。
「……パトリシア!」
しがみついて来るパトリシア嬢の両肩を掴み、意外にもクレマンは自分の身体から引き離した。
ぽろぽろと大粒の涙をこぼしながら、パトリシア嬢は訴える。
「私の方がずっとクレマンを愛しているわ! だって子供の頃からずっと好きだったから!」
「だからそれは、パトリシア…っ! 今ここでする話ではないだろう?」
クレマンは動揺し慌ててパトリシア嬢の口を手のひらで塞いだ。
私は思わずハッと息をのむ。
「……どういうことなの⁉」
(なぜクレマンはパトリシア嬢に好きだと告白されて、驚きもしないの? 『ここでする話ではない』ですって?)
これまでクレマンはパトリシア嬢の気持ちを知らずに誘惑され。まんまと術中にはまっているのだと思っていた。
──でも、最初からパトリシア嬢の気持ちを知っていたのなら、話が違ってくる。
(クレマンはパトリシア嬢の気持ちを知っていて……婚約者の私よりも、パトリシア嬢を優先しているの?)
それはつまり……
「クレマンもパトリシア嬢を……愛しているの?」
「待ってくれ! 違う、ミレイユ! 僕たちはけして疚しい関係ではないから!」
「もう、やめて。クレマン! ……今は何も聞きたくないわ!」
(顔も見たくない!)
私は滲みだす涙をこらえて、顔をそむけた。
「待ってくれ、ミレイユ!」
「クレマンと別れて下さいミレイユさん! 愛しあう私たちを引き裂こうとしているのは、あなたの方です!」
「パ……パトリシア!」
私に婚約解消を迫るパトリシア嬢の言葉を、慌てたクレマンは遮ろうとする。
そんな二人の姿を見るうちに。
私の目にはクレマンよりも、パトリシア嬢の方が真実を語っているように見えた。
「……好きにすれば良いわ!」
私はクレマンの顔を二度と見ること無く、その場を走り去った。




