14話 話し合い
ルドヴィクお兄様から、パトリシア嬢と元婚約者のシャルル卿が、淫らな関係にあったと聞き。
私はクレマンもパトリシア嬢と浮気をして、淫らな関係を築いているのではないかと疑心暗鬼になり。
どうしても真実を知りたいという衝動に突き動かされた。
(どうしても、確かめたい! 私という婚約者がいるのに。クレマンがパトリシア嬢と淫らな関係だったら……私は絶対に、クレマンを許さないわ!)
──でも。
いくら私が真実を知りたくても、探るための良い方法など考えつくはずもなく。結局、私はクレマン本人にたずねることしか思い浮かばなかった。
そこでネリーに付き添ってもらい、私はクレマンを学園の食堂へ呼び出した。
「ミレイユ……体調が悪いと聞いたけれど。もう大丈夫なのか?」
「大丈夫よ」
クレマンは約束の時間に一人で食堂へ現われ。私の向かい側の席に腰をおろす。
(今はまだ元気だわ。私の話を聞いたネリーや、他のお友だちが励ましてくれたから。私を心配する人たちのために、元気にならずにはいられないもの)
でも……これからするクレマンとの話し次第で、また体調を崩してしまうかも知れない。
「ミレイユは話をしたいと言っていたけれど、ここは人の目が多いから。もっと、どこか落ち着く場所へ移動しないか?」
学園の食堂だから、他の学園生たちがたくさんいて、確かに視線が気になるけど。
「ええ、そうね……」
「あっ、ミレイユ! パトリシア嬢が来るわ!」
隣に座るネリーが驚きの声をあげ。私はクレマンの背後をじっと見つめた。
「もう、捜してしまったわよ、クレマン! 私に秘密で来るなんてひどいわ! 一緒に昼食をとりたかったのにぃ!」
パトリシア嬢は当然のようにクレマンの隣の席に座る。クレマンは渋い顔でパトリシア嬢を睨んだ。
「パトリシア! 僕はミレイユと話がしたくて来たんだ」
「クレマンは私を仲間外れにする気なの? そんな意地悪はやめてちょうだい」
「パトリシア……これは僕とミレイユの話し合いなんだよ。君には関係ないだろう? だから席を外してくれよ」
「それならどうして、ミレイユさんは一人ではないの?」
パトリシア嬢はキッ! ……と私の隣に座る、ネリーを睨んだ。
「あなたに言われたくないわ」
ネリーは冷ややかに言い返し、ジロリとパトリシア嬢を睨み返す。
「……」
(ああ。やっぱり来たわね、パトリシア嬢。私がクレマンを呼び出せば、必ずパトリシア嬢がついてくると思ったわ。だから私もネリーに来てもらったのよ。私一人だと、動揺してしまうから)
私の周囲にはネリーだけでなく。さりげなく他の友人たちも集まって、私を見守ってくれている。
「パトリシア……お願いだから、僕の言うことを聞いてくれよ!」
イライラとしたクレマンは、パトリシア嬢を追い返そうとするが。パトリシア嬢は強引に押し通せば、クレマンは最後には折れると思っているらしく、引こうとしない。
「嫌よ! クレマンは優しいから、私がいないとミレイユさんの言いなりになってしまうのが、心配なの!」
隣からクレマンの腕をつかみ、パトリシア嬢はグイッとクレマンの腕に豊満な胸を押し付ける。
私の隣でパトリシア嬢のはしたない姿を見て、ネリーがハッ… と息をのんだ。
「……っ」
(ああ、嫌だ! まただわ。本当にもう、我慢の限界)
鏡で見なくても、私の頬がピクッ! ピクッ! と怒りで痙攣するのが分かった。
「放してくれ、パトリシア!」
「嫌よ、クレマン!」
「いいかげん悪ふざけは、止めるんだ!」
「ミレイユさんになんか、あなたを奪わせないわ!」
「パトリシア!」
腕にしがみつくパトリシア嬢にクレマンはひそひそ声で怒鳴り。自分の手をひき抜こうとするが、パトリシア嬢はガッチリつかんで、クレマンの腕を放そうとしない。
「嫌よ!」
「……っく!」
クレマンとパトリシア嬢のそんな醜いやり取りを、目の前で見せられた私は……頭の中で、ブチッ!! と理性の糸が切れる音を聞いた気がした。
ガガッ! と大きな椅子の音を立てて私は立った。周囲にいた人たちはギョッとして、いっせいに私たちを注視する。
私はなるべくたくさんの人の耳に届くように、大きな声でパトリシア嬢に話しかけた。
「かわいそうにパトリシア嬢──っ! 元婚約者のシャルル卿に弄ばれたから、深く傷ついているのね──っ!!」
私はカッ! とパトリシア嬢を睨みつけて、食堂中に聞こえる声量で叫んだ。
「なんてかわいそうな、パトリシア嬢―――ッ!! 純潔を捧げたのに。シャルル卿にあなたが婚約破棄されて、捨てられるなんてぇ! どれだけ辛かったか。……ああ、そんなに泣かないでぇ―――っ!!!!!」
パトリシア嬢側から婚約破棄をしたのが正しいけれど。
……そこは劇的に聞こえるよう、私はとっさの判断で、パトリシア嬢が婚約破棄をされた側にチェンジした。




