1話 約束
私の婚約者のオルドリッジ子爵家の長男クレマンは、一歳年下の従妹パトリシア嬢と仲が良い。
時にはクレマンの婚約者の私……ミレイユ・ファーロウとした約束を『ごめんよミレイユ。パトリシアが体調が悪いらしくて、家まで送ってやりたいんだ』
──などと言って、直前になってから、あっさりキャンセルするほどだ。
そのくせクレマンは婚約者の私がお茶に誘っても『パトリシアが僕に相談があるらしくて。すまないミレイユ、明日は都合が悪いんだ』と従妹の都合を優先し、私の誘いを無情にも断わったりする。
結婚前から婚約者に嫉妬深くて束縛したがる、利己的な性格だと思われたくなくて。『パトリシア嬢に会うのは止めて!私を優先して!』とは言えず。
最近はイライラとクレマンへの不満を溜めこみながら過していた。
学園の食堂で二人分の席を確保して婚約者を待っていると。一番仲の良い友人のネリーが慌ててやって来て、ヒソヒソと私の耳元で囁いた。
「ミレイユ……あなたの婚約者のクレマン様が従妹のパトリシア嬢と一緒に、裏庭の奥へ歩いて行く姿を少し前に窓から見たけれど」
「……え、クレマンが?」
「ええ。そろそろ来る頃かと思っていたのに。一向に彼が現れる気配が無いから……」
昼食時で学園生たちが集まり、ザワザワと混みあっている食堂で。私は食事をとらずに婚約者を一人で待ち続けていたから、友人のネリーは心配そうに教えてくれた。
私は王都で流行している髪型にしたくて、少し前に肩までの長さでカットした鶯色(緑がかった茶色)の髪に、気分を落ちつけようと指先で触れた。
鮮やかな青い瞳は、たぶん不安で揺れているだろう。
「……もう、またなの?」
(クレマンと昼食を一緒にとる約束をしていたのに。また彼は従妹のパトリシアを優先したの?)
『ミレイユ、たまには昼食を一緒にとらないか?』
『ええ、良いわよクレマン』
『良かった! 君と話したいことがあるんだ』
『わかったわ』
普段は友人たちと昼食をとるけれど。今日はクレマンが先に誘ってくれたから、待っていたのに。
クレマンは私を待たせておいて、何の断りもないままだ。
……そして私はまた、婚約者に約束を破られたことを、友人のネリーの話で知った。
「それでね……向こうにみんながいるから、ミレイユも一緒にどうかしら? クレマン様が遅れて来ても、あそこならすぐにわかるでしょう?」
ネリーが背後を振り向き、いつも一緒にいる友人たちに手を振る。友人たちもニコニコと微笑み、ネリーと私に手を振り返した。
「そうね、ありがとう。そうさせてもらうわ!」
(……ねぇ、クレマン。あなたは婚約者の私に、仲良しの友だちの前でまた恥をかかせたのよ。私をどれだけ惨めな気分にさせれば、気が済むの? そんなに従妹のパトリシアが好きなら、私ではなくて彼女と婚約すれば良かったのよ!)
心の中で思いっきり毒づいた。
私とクレマンは貴族にしては珍しく、先に恋愛感情が芽生えたから婚約したというのに。これでは悪質な詐欺に遭った気分だ。
ハァ―――ッ……と大きな落胆のため息をつくと。一人ぼっちで居心地の悪かった席を立ち、ネリーと一緒に友人たちがいるテーブルへと向かった。
このお話を開いて下さりありがとうございます。このお話の初稿は2027年に他サイト様で投稿した物ですが。切って、移動して貼ったり。エピソードを足したり削ったりと。細々と嵐のような加筆修正をしながら、なろう様に投稿する予定です。
おかげでどれだけ見直しても、誤字脱字が恐ろしいほど多いです。すみません、ご容赦を!
良い暇つぶしになれば幸いです(・´з`・)




