始まりの日②
今日は見ているだけと思っていたので油断していた。
前田さんが私に応えるように促す。
「話して大丈夫ですよ」
「あ、ええっと…。昔はいたんですが今は一人暮らしです」
権藤さんの表情が変わった。
同情か、哀れみが読み取れる。
「それは、どうしてですか?」
「どうしてって、まあ離婚したんです。息子ともそれから疎遠でして」
「そうだったんですか…」
権藤さんは口元に手を当てた後、
再びこちらを見据えて話し始めた。
「実は、僕も似たようなものでね」
「これだけ広い家に一人。なにかありそうだとは思っていました」
彼は微笑する。
「まあ確かに、不自然ですよね」
老後、一人で生活することに疲れたのか。
寂しいという孤独感もあるのだろう。
それが彼を死へと駆り立ている様に見えた。
前田さんが彼に質問する。
「寿命を待つというわけにはいかないのでしょうか?」
最な質問に権藤さんは答えた。
「はい、そうです。もうこの世に未練はありません」
彼の眼には諦めにも似た色が浮かんでいた。
「承知致しました。では次に権藤様のご希望について教えて下さい」
「ご希望?」
「そうです。権藤様は今回、執行員の指名がありませんでした。なのでどんな死を迎えたいかご希望を聞いた上で適切な執行員を派遣させていだたきます」
少し考えた後、彼は直ぐに話し始める。
「そうですね…。まず、痛いのは嫌です。怖いのも…。できますか?」
「はい、もちろん対応可能ですよ」
「……よかった」
痛いのも怖いのも嫌。
だが、死にたい。
私も一人暮らしが長引くとそう思うのだろうか。
いや、奴をこの手で裁くまできっと考えもしないだろう。
前田さんは持っていたパッド型デバイスで
何かを確認した後、権藤さんに確認を始めた。
「今から2日後、夜22時頃はいかがでしょう?」
「明後日か、わかりました。宜しくお願いします」
「承知しました。ではこれより先、どんな都合であってもキャンセルはできません。それに同意していただける場合はこちらの契約書にサインをお願いします」
前田さんは一枚の紙を取り出し、権藤さんに渡した。
「これにサインを書けば、私の寿命は決まるんだね」
「はい」
権藤さんはそれにサインを書き、前田さんに返した。
「ありがとうございます。こちらが控えです」
「はい」
「それでは、失礼いたします」
前田さんはそう言って席を立った。
私は権藤さんに軽く会釈をして家を出た。




