始まりの日
「はじめまして、今日はよろしくお願いします」
現場付近の待ち合わせ場所に着くと、
黒いスーツを来た青年が立っていた。
「こちらこそです。是永さんは今日が初めてですよね?」
「はい、そうです」
私は55歳で刑事を引退した後、
尚もルーベルを追い続けるためにマダサブの窓口に再就職した。
「わかりました。今回は私がやりますので見て覚えてください」
「はい、ありがとうございます」
それから今回の利用者のお宅へと伺った。
家のチャイムを鳴らす。
インターホンから男性の老いた声がする。
「はい、どなたでしょうか?」
「こんにちは、マーダーサブスクリプションの窓口担当です」
「ああ、マダサブの。今から開けます」
玄関の扉が開くと禿げた頭皮から
白髪がやや生やした男性が出て来た。
「ささ、どうぞこちらへ」
「はい、お邪魔します」
私達は彼の家へ入った。
豪勢な家だ。
部屋の数はいくつあるのか数えきれない。
案内されたリビングに入ると、更に圧倒された。
大人が走り回っても問題ない十分な広さ。
天井にはシャンデリアが3つ。
「すみません、自己紹介をさせていただいても?」
「ああ、そうですよね」
スーツの男が名刺を取り出す。
「改めましてマーダーサブスクリプションの前田です。こちらは…」
「是永と申します」
私も前田さんに合わせる様に頭を下げた。
「どうも、権藤です。えーっと、こちらへお掛けください」
「どうもありがとうございます」
私達はソファーに腰かけるよう促された。
座るとずっしりと腰が沈む。
しかも上等な毛皮で出来ている。
一体何百万円するのだろうか…。
その後、権藤さんはコーヒーを持ってきてくれた。
そしてテーブルを挟んで彼も座った。
「わざわざすみません」
「いえいえ、来客なんて珍しいですからね」
「ありがとうございます。いただきます」
前田さんはコーヒーを一口飲むと
会話を切り出した。
「それで、今回のご用件ですが…」
「はい、最終確認ですよね?」
前田さんが説明するまでもなく、
権藤さんは理解している様だった。
「そうです。一度執行員が派遣されると途中キャンセルは不可です」
「はい、わかっております」
不思議なもんだ。
今から殺される契約をするというのに何のためらいも感じない。
「それでは先ず、今回の依頼の経緯について伺っても宜しいでしょうか?」
「え?それも話すんですか?」
「はい、これは人生最後の選択です。途中で後悔されることが無いように必ずお話を伺うようになっています」
「ああ、そうだったんですね…」
権藤さんは話すのを躊躇っているように見えた。
暫く沈黙が流れる。
深く目を閉じ、ゆっくりと開くと彼は私に目を合わせた。
「是永さん、あなた家族はいますか?」
「え?」




