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第四の魔術師 〜魔術を拒む異端者〜  作者: 第四
第一章:第一節 『平穏な――学院?』
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第三十一話 ガサツな予言者


瞬間、少女の一声に空気が凍った。周りの反応から、この場の誰もが彼女の言葉が初耳であると悟った。ただ――異質さだけが、鼓膜にこびり付いていた。


鼻頭に落ちた細いフレームの眼鏡を、右手でスチャ――と直した白衣の少女。その仕草の裏では、山積みの本を支える左腕の重労働が始まっていた。袖まくりをしていることで見えた細い腕からは、彼女が武闘派ではなく、圧倒的な穏健派寄りであることが伺えた。


彼女の白衣には、普段の研究場面が容易に想像できる程にインク汚れや染みが目立っている。そのポケットにはメモ帳やペンが詰まっているらしく、端から見ても分かるくらいパンパンに膨れ上がっていた。


「えぇ…と、あなた誰ですか?」


「え?あ、あぁぁぁぁぁ!!」


調子っぱずれな声を上げた彼女は、絶妙なバランスで保っていた本を雪崩の如く崩してしまった。


三々五々に散らばった本は、『魔法理論』や『スキル体系化』など、理論っぽいジャンルが殆どだった。

その中には――白金色の装丁そうていが施され、表紙中央に『円環の天陽紋章』が描かれた、金属製の留め具付きの『天環聖典』と書かれた本が寝ていた。その本のページ端には、赤金色の魔力光が走っている。


あらま…やっちまったぜ。


「うぅ…折角綺麗に積んだのに」


煩雑な手入れの外ハネウルフカットの黒髪が、涙目の彼女に一層影を与えた。肌色に黒が落ちた顔からは、白衣少女の落胆ぶりが見て取れた。


…悪いことしちゃったな。


「大丈夫ですか?立てますか?…て、あなた――」


金髪青年が手を差し伸べ、彼女の顔立ちを見た後、息を呑む。彼の瞠目からは、懐かしさを知覚できた。


リオン君が驚いてるのレアだな。


「ん?おぉ!! リオン君じゃないか! 久し振りだなぁ!!」


ガシッ――と強く彼の手を握った彼女は、活気盛んに体勢を立て直した。彼女の両手は、その勢いのまま青年の金髪を子犬を撫でるときのようにワシワシと荒ぶった。

そんな白衣少女に対し、金髪青年は流れに身を任せていた。


リオン君と知り合いだったのか。

こういう学者気質な人にも顔が知れてるとは…ほんと、人脈広いんだなぁ…


「えぇ。思えば、“あっち”に行ってからは全然会っていませんでしたね」


子犬扱いし、暫くした後に落ち着いた白衣少女。ようやく静かになった彼女に向けて、にこやかな表情で紳士に対応する彼からは、格の違いを見せつけられてしまった。


“あっち”…どこだろう。今、リオン君が住んでいるところであることは読み取れるが。


「ほんとだよ〜君が居なくなった後、僕は一人寂しく、寮での研究の毎日だったんだから」


側を離れた青年に制裁を加えるが如く、腰を容赦なく叩き上げている少女。その場面には、彼女なりの怒りと侘しさが現れていた。


『寮』という単語を聞き、噴水公園から蒼穹図書館までの、木々の生い茂る遊歩道での会話を思い返す――


そう言えば、このアストラ街に『学生寮がある』って話してくれてた気がする。

それに、リオン君…前は寮に住んでいたのか。


「すみません。あそこには、どうしても気になる場所があったもので」


右手を胸に当て、左手を腰に回す――例の『執事ステップ』がこの場に広がった。その拍子に、陽光に照らされた黒の光沢靴が艶やかに光った。

どうやらこの所作は彼の癖らしく、謝罪のときに発動されがちなようだ。


「ふぅ〜ん。ま、良いけど。こうしてまたリオン君に会えたことだし!」


ふわっと靡いた白衣が宙に浮き、重力の意志に抗う少女は、金髪青年の肩に右腕を回したところで力を緩める。そのままストン――と落ちた白衣は、西風の独特な空気を取り込んでいた。


リオン君が僕の肩によく腕を乗せるのって、もしかしてこの人の影響なのかな?


「それでさ、『あの件』考えてくれた?」


「はい。勿論」


腕で青年を抱き寄せ、うざ絡みをする彼女は、左人差し指で木漏れ日を指していた。


彼は嫌がる様子もなく、少し憂いを帯びた顔で返答していた。


あの件?二人の間に、約束事でもあったのかな。


「じゃあ一緒に――」


「すみません。まだ決めかねているので」


腕の拘束から逃れた彼は、白衣少女の提案を冷徹に断った。


しかし――青年の回答は想定済みだったのか、納得感のある顔で、はにかんで見せた彼女。

そこには、寂しがり屋特有の苦労が見え隠れしていた。


「そっかぁ…リオン君が居たら、絶対楽しいと思ったんだけどなぁ」


頭をポリポリと掻く彼女は、観念寸前の声色で寂寥せきりょうを吐露していた。


「…そりゃあ俺だって考えましたよ。今やあの部は、ロジア先輩と後数人の少数精鋭。俺が入れば廃部にはならずに済むかもって。けど――」


白衣少女の言葉に目を伏せ、拳を固めながら無念を噛み締める青年には、思わず思いの丈をぶつける情景を当てはめてしまった。


…この人の部活って、廃部寸前だったんだな。


「自分の気持ちに嘘をついて、情けをかけるなんて――そんなの『施し』でしかない」


金髪青年の悔しさ溢れる面差しには、黒青髪と対等でありたいと願った…かつての僕の姿を重ねてしまう。


セレニアと同じ土俵に立てる日は来るのかなぁ…


「ロジア先輩があの部活を大切にしているのは分かってます。だからこそ、あの『文化的な遊び』に思い入れの薄い僕が入るのは失礼に当たる。…僭越至極な行為だ」


「…そうだな。その通りだ」


白衣少女の気持ちに応えられない青年の断腸の思いには、『真に人の嫌がる行動』を嫌う、彼なりの倫理観が滲んでいた。


『文化的な遊び』…特殊な文化の遊びやゲームを取り入れてる感じか?


「…仕方ない。身を引くとしようか。しつこい女は嫌われるからな」


黒髪をファサッ――と靡かせた彼女は、寂しさで潰れそうな顔をぐっと堪え、そのまま立ち去ろうとした。


「…?俺はそうは思いませんけど」


しかしながら――彼の天然垂らしの言葉が、勇気の一歩を踏み出した白衣少女の足を激烈に減速させた。


ほんと、罪深い男だよ…リオン君は。おっかないったらありゃしない。


「こぉら。そういうところ。まったく…リオン君は罪な奴だよ」


白衣少女は、女性の気持ちを鑑みない不躾な青年の発言を咎めるように、赤く染め上がるまで彼の耳を引っ張った。


「イデデデデデデデ――ちょっと、痛いですって!」


「うれぃ!どうだ、どうだ!少しは僕の気持ちが分かったか!」


ガッハッハ――と笑う少女の顔の皺には、僅かに哀愁が漂っていた。


喫茶店の黒髪店員――ミレイさんとリオン君の、肘で突き合う戯れを思い出した。

ミレイさんとも、似たようなやり取りをしていた気がするな…


「はい、はい!分かりましたよ!…もう」


鬱陶しさを表面化させた彼は、やれやれ…という感情を、溜息に全面的に表していた。


セリアさんがリオン君に抱く、『苦労の気持ち』と少し似てるかも…


「さぁってと、可愛い後輩ちゃんとの再会も果たしたことだし――」


肘辺りまで折り畳まれた袖を、二の腕が見えるところまで捲りあげた彼女。やる気満々なその様子からは、今から実験でも始めそうな雰囲気を醸成していた。


「君――いや、君たちの素性を探らせてもらおうか」


僕の後ろに佇む三人の影を一瞥した彼女は、僕――セレニア――ヴァルド――アルディウスさんの順に、指差しを介して『選別の瞳』を輝かせていた。


…何をするつもりだ?


「僕たちを調べたところで、別に何もないと思いますけど」


「…いや?それはどうかな。犯人はいつだってそう言うからね」


今の僕の言辞は彼女にとって不埒な発言らしく、鋭く細まった瞳孔に一層訝しみが瞬いていた。


「犯人って…僕たちは何の罪も犯してませんよ」


推理小説ぶりに耳にした言葉に少し興奮を覚えながらも、自身に降りかかると思ってもいない言葉のナイフが向けられた事実に、鼓動の安寧は阻まれた。


本当に何もしてないのに…


「…傲慢だな」


「どういう意味かしら」


白衣少女の敵意剥き出しの言葉遣いの数々に我慢ならなくなった黒青髪の少女は、怒気を孕んだ声音を喉奥に響かせた。


正直に答えてるだけなのに、『傲慢』と言われてしまった…なぜだ。


「そこまでして僕という『正義』から逃れようとするのか…って聞いているの――“私”は」


僅かに溢れていた親しみやすさは何処へやら…今の彼女からは、僕らを軽蔑し『悪』と見なそうという意志だけが感じられた。


一人称が『僕』から『私』に変わった…意図的か?


「目の前であんな現象見せておいて、『僕たちは無関係です』『無実です』って戯言吐かれても、全然説得力ないよ」


「本当に俺たちは何もしてな――」


赤髪少年の悲痛な震え声が、白衣少女の様相を少しでも溶かさんと――


「白々しい」


――することはなかった。


白衣から出現した微細な針が『隔たり』の隙間を縫い、位相を滑った。直接接触していないはずなのに――微細針が僕の喉仏の寸前まで接近した。


「ちょっと、先輩やり過ぎですって!」


金髪青年が白衣越しに彼女の細い肩を掴み、この場から引き剥がそうとする。


え、何これ。針…だよな?

返答を間違えたら、殺されちゃう感じか…?


「リオン君は黙っていてくれたまえ。私は今――この青年と話しているんだ」


青年の精一杯の諭し声が彼女に響くことはなく、細い細い――鋭敏な先端が喉の粘膜に届きそうな程近づいてきた。


「『空間位相断層』――この用語に聞き覚えは?」


「ありませ――」


「聞き覚えは?」


僕の言葉を是と認めない白衣少女は、僕が『彼女なりの真実』を吐くまでこの拷問まがいの所業を続けるつもりらしかった。


拷問って法律の中でも『絶対』の文言が使われてる、めちゃ罪深いことだった気がするんだけど…

って、そうか。ここアストラ街か。領土のうちの西部に当たるわけだ。

このロジア先輩らしき人物の言動も、罪に問われることも公に晒されることもないんだろうな。

…考えれば考える程、理不尽なクソ憲法じゃないか。


「…だから、ありませんって」


「演技が達者なタイプか?…いいさ。私は何度だって聞くぞ」


顔色一つ変えない白衣少女は、僕が何を答えようとも『拷問』を終えようとしなかった。


セレニア・セリアさん・リオン君の評価では、僕は結構表情豊かなタイプだと聞いた。故に、こういう『詰められる場面』では、全く演技は上手くないはずだが…


意外と機能してるのか?それとも――この『隔たり』に関して、後ろめたいことがないからか…


「なんせこの現象が観測されたのは、今から十――」


「辞めてくれ」


後ろから赤髪男性の呆れ声が、空気に乗せられ届いてきた。


「あなた…は」


「《セレスティア中央魔術学院》――『魔術学徒』三年、アルディウス=ヴァルクレイだ」


右手に持つメロンパン紙袋を左手に移した赤髪男性は、左胸辺りの胸ポケットに刺繍された『学徒紋章』に触れていた。


『学徒』――高等生の進学先である、学院の『大学生』に当たる在学身分だ。中でも『魔術学徒』は魔術を専攻する学徒のことを指す。

…この学生自認状態の『アルディウス=ヴァルクレイ』の年齢感が、段々と分かってきたな。


「何を訳の分からないことを仰っているのですか?」


男性の自己紹介に、『理解不能』の面持ちを返した彼女。白衣少女は、想像の中のイメージと乖離している『アルディウス=ヴァルクレイ』に、ショックを受けている…と取れる顔をしていた。


この人は『アルディウス公爵』を知ってるのかな?


「ん?あ…もしかして学院を知らない奴だったか。悪い、悪い」


「…知らないわけがないでしょう。馬鹿にするのも大概にして下さい」


白衣の下に潜む学院制服を視覚に収めているはずの赤髪男性は、『ヴァルクレイ家の人間を知らない愚か者もいるのかぁ…』という顔で、皮肉を込めていた。


アルディウスさんも、皮肉屋的な部分があるのか…もしかして、貴族って大人になる前は全員こんな感じなのかな?


僕の中の、尊敬できる『貴族像』が崩れ去る音がした。


「あぁっと、ロジア先輩。これには複雑な事情がありましてね」


「事情?」


「ゴニョ、ゴニョ、ゴニョ――」


金髪青年が白衣少女の耳元に口を近づけ、右手で婀娜あだっぽく隠しながら吐息を当てた。


「え、何それ!その話詳しく!」


喉頭の寸前にまで接近していた鋭敏針が取り払われ、キラキラな表情で金髪青年の話に興味を持った彼女。


よかった…これで一安心。


「しー!静かに!いつどこに人の目があるか分かりませんから。このことは、他言無用でお願いします」


睫毛の長さがありありと分かるほど目をぎゅっと瞑った彼は、白衣少女の暴走を必死に止めようと手を焼いていた。


「えぇ〜!面白そうだったのに…だって――」


「その話って、めっちゃ非科学的じゃない?ワクワクしてきちゃった!」


おもちゃを買ってもらえた子供のようにウッキウキで飛び跳ねる彼女は、風に当てられた白衣に一層皺を付けていた。


『科学』…この世界の小説で、頻繁に耳にする単語だ。それに、僕の中の『フィクション観』に当てはまる言葉でもある。


ま、お母さんも使ってた言葉だから、『科学』にはある程度親しみあるけどね。他の『ロボット』とか『AI』とかに比べて、現実味あるし。

というか、僕のボキャブラリーは殆どお母さん由来だ。子は親の真似をすると言うし、当然のことだろうけど。


「ほんと…相変わらず意味不明な言葉を使いますよね、ロジア先輩って」


「そうかな?伝わると思ったんだけどな」


金髪青年の、白衣少女の語彙に慣れ親しんだ声色に、違和感が募った。


リオン君が知らない…ということは、『和食』という言葉と同様、『科学』もこの世界の常識ではないのかもしれない。

…この人は――


「――なんでその言葉を」


「…?このシチュエーションに一番適してると思ったから、使っただけだけど?」


「いや…そういう意味じゃなくて」


中々切り出せない僕を怪訝そうに見つめる彼女は、生き急ぎの姿勢をちらつかせ、今にもこの場から立ち去りそうだった。


「はっきりしないなぁ〜。僕、曖昧な質問には答えたくない主義なの。だから、もう行くね」


「ま、待っ――」


「あ、そう言えばこのことを伝え忘れてたね」


不意に足を止めた白衣少女は、僕に教えを諭そうという眼差しを見せてきた。


なんだろう…僕に言いたいことがあるのかな?


「君が『そっち側』からこの『隔たり』を超えることはない――『今のまま』ならね」


地面に散る本たちを拾い集めながら、彼女は僕に意味深な発語を吐露した。


『今のまま』…いつかは超えられるのか?この『隔たり』を。


「ど、どういうことですか?」


「いずれ分かると思うよ〜それじゃあまた〜」


本を集め終わり、無慈悲にも真実を秘匿したまま帰り去った少女を追いかけようと、全力疾走を決行した。


今ならまだ間に合うは――


「あ、ちょ――」


――ずだったんだけどな…


『隔たり』に鼻を直撃させてしまった。


「うぎゃぁぉぃぇぁぁぁぁぁ!!」


地面に倒れ伏せた。


僕を見下ろす赤髪コンビの黄色の瞳に、赤くに腫れ上がった鼻を抑える銀髪青年が映っていた。


「ぷぅ〜クスクス」


「…んだよ」


下目遣いのコンビに、口元を手で隠す黒青髪の少女の嘲る声が加わった。


やべぇ…『皮肉屋セレニア』の前で、隙を見せてしまった。


「だって…間抜けにも程がありますもの。笑うなっていう方が無理がありますわ」


「ご、ごめんゼイル兄ちゃん。俺…もう」


赤髪少年が僕の滑稽な行動を受け、プルプルと震えている。


「アハハハハハハハ――!!」


堰を切ったように堪え声が爆発した少年は、地面にのたうち回り、足をバタバタさせながら腹を抱え出した。


ヴァルドまで…


「ゼイル兄ちゃんがあの壁に気付かないまま、突っ込んで――そんで、そんで――」


ヴァルドは頭の中で僕の失態を反芻しているらしく、自ら言葉で思い返しては、思い出し笑いしている。


…恥ずかし。


「…」


「どうしました、アルディウスさん?」


「あんな服装、見たことないと思って」


白衣少女が去って行った場所を精悍な顔で見据えていた赤髪男性に、立ち上がって様子を伺ってみた。


あんな服装…白衣のことかな?


「え?ほんとですか?だって――白衣ですよ?理科の実験とかで教師がよく着てる、あれです」


「りか?女の名前か?」


『理科』を『りか』という女性の名前と捉えた男性の言葉に、思わず吹き出してしまった。


いやぁ…面白い解釈するなぁ笑


「そんなわけないでしょう笑」


ボケをかましてきた赤髪男性に、『う〜い』というダル絡みのノリで、優しく肩を押した。


「理科というのは学校で習う教科のことで、小説なんかでもよく見るやつです」


「そうなのか…俺、小説とかあんま読まないからな」


「…?小説で見たことは無くても、学校で一度くらい『理科』という授業を受けてるでしょう?」


発言に引っかかった僕をよそに、赤髪男性に妙に納得のいった顔をされた。


アルディウスさんの言葉を聞く限り、理科に関しては『小説で見たことがない』=『知らない単語』だと取れるけど…


「いや…?少なくとも、学院では一回もそんな授業は受けたことがないな」


互いに発言の意図がズレてきていることに気づいた僕らは、神妙な面持ちで考え込んだ。


んん?話が噛み合わないぞ?


「お前の学校では習っていたのか?」


「はい…初等生の頃に」


初等生時代の、白銀髪の担任の姿を思い浮かべた。


確か、あの頃の担任に『理科』を教わったんだよな。


「そうか。ま、学校ごとに指導内容が違うのかも――」


「あり得ませんわ」


赤髪男性の言葉尻を遮り、話に割り込んだ黒青髪の少女。彼女の発音には、確固たる確信があるようだった。


「四領土で基礎的な授業内容は統一されているはずなのよ。それなのに、ゼイルさんの学校だけ特別だというのは…甚だおかしな話かしら」


僕とアルディウスさんの間に立ち、僕ら二人の顔を交互に見ながら話を進める彼女。自信溢れる様子からは、とても…セレニアが間違ったことを言っているとは思えなかった。


けど――

四領土で統一?そんなわけないじゃん。なら、僕は何を習ってたんだって話になってくる。


「誰に教わっていたのですの?」


「お母さん…だね」


白銀髪の担任――母を懐かしんだ。

僕に手取り足取り、腰取り教えてくれた母の姿を想像する。

あ、別に卑猥な指導ではないぞ。僕のお母さんが、丁寧に教えてくれてたってだけだからな。勘違いするなよ。


「なるほど。お母様が当時の担当教師…」


ふむふむ…と空気を嗜んだ少女は、息を整え制服の襟を正した。


「では、僭越ながら申し上げますわ」


黒青髪の少女は、ゴッホンと喉の調子を正常に働かせ、僕に告げる言葉の準備をし始めた。


今度は何を言い出すんだろう。


すぅぅぅ――はぁぁぁ――と酸素を取り込み、セレニアの発言への心の準備を着手する。


さぁ〜て。これだけやればどんな狂気じみた内容が飛んでこようとも――




「『理科』なんて教科は現実に存在しませんの。

魔術教育の最高峰である――《セレスティア中央魔術学院》が教科として取り扱っていない時点で、自明の理ですけれどもね」




――人生で味わったことがないと言っても過言ではない、痰の絡みが僕を襲った。



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