3-05/魔王様、もとい綺羅星の如く人間界に現れた魔王系新人ゲーム実況ManaTuberヴィングラウドちゃん様
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【@666vin 生き飽いた長寿種族に贈る命の無駄遣い 出させてよエルフの森】
【@666vin クセにならなさそうでなりそうでやっぱりどうあがいてもならない奇跡のバランス イノシシに生まれた男】
【@666vin おじかんかえして よろしくセミ亜人】
【@666vin たった今王都で新しい罪人への罰則が検討され始めたらしいな どこかの城壁警備兵】
「魔王様」
「…………」
「陛下、我が主」
「…………」
「綺羅星の如く人間界に現れた魔王系新人ゲーム実況ManaTuberヴィングラウドちゃん様」
「ころして」
しなせて、と玉座に逆向きで座り、背凭れに顔を押し付けて『うぁぶぶぶぶぶぶおぶぶぶぶぶぶ』と奇怪な音を立てる魔王がそこにいた。
「まあ、何というかですね。何事にも通過儀礼が存在し、これもまた、魔王様が一回り大きく成長する為の痛みなのではないでしょうか。そーれ、脱皮、脱皮、脱皮、脱皮っ」
「おぉおおおあもう手拍子やめ手拍子やめぇえぇえっ!」
ぐるん、と振り向き直った魔王は、はぶふ、はぶふ、と荒れた息をどうにか整え、立ち直りかけ、
『やぁ~どぅも、え、みなさま、はじめまして~。余、ぁっ、違った違った、わたしその、え、今回からゲーム実況動画を始めます、び、ヴィ、ヴィングラウド、と、もうしますぅ~(↑)。あのね、こういうのあんまやったことなくて、ちょっ、今結構、緊張とかしてるんですけれども、はい、皆様をね、その、楽しませて、楽しんでいただいて、長期的な展望、長い目で見れば最終的には絶望していただくよう、がんばってぇ、ぁは、いきたいと思いますんでぇ、あ、その、余、わたし普段は魔王とかやってるんですが、今はそういうの忘れて、みなさまも束の間の安息を享受してくださったらなぁ~って』
「ゥォラーーーーーーーーーーーーーーッッッッシャ!!!!」
魔力ブーストで爆発的な推進力を得ると同時に、ズモカッタからスマホを奪い取ると、即座に動画の一時停止ボタンを押した。
「ぅぉいズモッ、ッンモカッタぁっ! 何故押した!!!! 何故押した!!!! どうして再生した!!!! どうしてだ! ンハァーーーーーーーーーーーンッッッッ!?」
羞恥と憤怒と闇の炎の魔力が7:2:1で混ざったテンションで吠えるヴィングラウド(666代魔王)。
「申し訳ございません。最初はこれ、再生した瞬間“うわっ瘴気すっごいな”と思う部分もあったんですけど、どうやら無意識に身体が求めていて。ヴィングラウドちゃん様の冒頭グダり挨拶という快楽を」
「あんな! 魔族にだってな! やっていいこととやっちゃいけないことってやっぱあるからね!? そこに触れられたら戦争だろうがって部分はドラゴンだけのものじゃなくて、今の余にとってはそれがこの動画なんだからね!?!?!?!?」
そのとき、ピコン、と鳴るスマホ。この音こそはマジッターからの通知であり、『ヒィッ』と悲鳴が出ながらもヴィングラウドは反射的に見てしまったのだが、
【@666vin ああ、いや、逆にさ、アリだと思うよこういうのも。この初々しさの新鮮味、応援したくなるかんじ 勇者アレン@はちみつください】
「ハァイ応援ありがとうでもイッッッマそういういたわりとか友愛が一番傷つくやつなんじゃって!!!! ホントこの勇者どんだけ魔王の倒し方心得とるのォオオオオォオオオアァァアアアアーーー!!!!」
胸に光の剣を突き付けられた時の魔王よりダイナミックな反応を示すヴィングラウド。
高速回転しながら宙を舞い、しかる後にうつ伏せに床に倒れ、カーペットで丸まろうとする。世界のあらゆる痛み、残酷から逃れようとする、さながらサナギのように。
「……しかし、解せませんね」
そんな様子を見ながらも、動じずに分析する百妖元帥。落ち着き味ある。
「魔王様、ここまででしたでしょうか?」
「あれ? 今、余、刺されてる? 弱ったところ、封印されかけてない?」
一応違う。
いえ無論煽りとかではなくて、とズモカッタは前置いて、
「これは純粋な疑問なのですが。私としては、ヴィングラウド陛下は人前で話すのが苦手であるとか、演技力と語彙が消滅しているだとか、そういった問題は皆無であったと記録していまして」
何せ、基本熱しやすく冷めやすい、ブームの移り変わりが激しいマジッター界隈で、一過性かつとっくにほとんど消えた灯とはいえ、一時期は結構な評判にもなったのだ。
【銀幕の幻惑】作戦のムービーと、その主演を務めた、彼女の演技は。
あれこそ、魔界中に届けた演説、666代魔王襲名の儀に勝るとも劣らぬ、それはそれは堂々とした、見事な姿だったではないか。
「勝手知ったる魔界・魔族相手のみならず、人類に向けてだって、きちんとやれていたではありませんか。それがどうして、あのような惨劇を招いてしまったのでしょうか」
「余のデビュー作に黒歴史タグつけるのやめて?」
泣くよ? とカーペットの中から声がするが、既にもうほぼほぼ泣いているトーンであった。
「だ、だ、だって、さぁ……」
ひょこ、とカーペットの包みの中から、頭だけが出てくる。
視線はもじもじ、幾度か踏み止まり迷い躊躇いを繰り返し、最終的にはどうにかズモカッタの首辺りを見て、
「……………………わからん、のじゃもん。人間からの、好かれ方、なんて」
羞恥に頬を染めながら、告白した。




