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2-09/魔王様、禁忌に触れちゃう



 ★☆★☆★☆★☆



「おつかれさまです、魔王様。がんばるあなたにズモカッタ、本日のおやつをお持ちいたし――――」


 蝙蝠状態からの参上ではなく、正面の扉から盆を持って入ってきた忠臣の、

 言葉は、途切れ、飲み込まれた。


 何故なら、“それ”を見たからだ。


「御苦労。流石は忠臣、間が良いな。褒めてつかわす」


 語るは威厳、醸し出す覇気。

 道化の主は己の席たる玉座に座り、そして、スマホをいじっている。


「たった今、攻撃を終えたところだ。歴史的瞬間、決定的場面に立ち会えること、至上の光栄とせよ、百妖元帥」


 魔王に相応しき尊大さ、有無を言わせぬ圧力。

 そうしたものを向けられながら、しかし、彼はそれを見上げている。


 スマホの画面と連動した、玉座の間のスクリーン。

 そこに映し出されているのは――



 ――まるで本物にしか見えない、恐怖と絶望に爛れて無数の怪物から逃げる群衆の様を捉えた一枚だった。

 地獄を煮詰め、焼き付けたかのような、鬼気迫る光景だった。



「実に簡単だった。最初から、こうすれば良かったのだ」


 噛み締めるように。

 自身の滑稽さを嘲笑うように、魔王は語る。


「画像編集など笑止。メンドーなのも我慢するのも、魔王にはムリ、キライ、シンドスギ。であれば、答えは実に明確」


 語る前にわかっている。

 ズモカッタが、部屋に入った時から見えている。


「元からあるものを、いじるのではなく。――最初から完成しているものを、ただ撮影すればいい」


 そこに、街角がある。参考にしたのは、最初の合成画像を作った時に色々調べた王都だろう。


 それは、ディオラマだった。

 現実の物体として、厚みを持った、絶大な魔力によって作られた、現実感のある創造物(リアリティフェイク)だった。 


「我が一族の力は混沌の力、破壊も得意とする余だが、生み出すことはその倍容易い。――言ったであろう、ズモカッタ? 余、【魔王】のスキルレベルなら、とっくにカンストしておるとな」


 先程とは違う、確かな矜持と、自信を含んだその言葉。

 スクリーンに映し出されたヴィングラウドのアカウント、アップしたディオラマ画像には、驚くべき数のリマジット(反響)が寄せられている。


 それは、慣れたくもないのに慣れてしまった屈辱のクソリプではなく、精緻精巧、本当に人々が被害にあっているとしか思えない、地獄絵図についての、「これマジ?」と真偽・真贋を尋ねる声。

 今回に限り――無言のまま画像だけを投下したことも、殊更に異常を煽っているようだった。


「ふふ、ふふふふははははは、はーーーーっはははははははははっ! 滑稽、滑稽、滑稽至極ッ! いいぞいいぞ、踊れ踊れ、恐れよ恐れよ怯えて竦め! この世のどこにも本当は在りはしない、故に決して逃げ切れはしない、晴らせぬ不安に惑いて狂え! ……というわけだズモカッタよ、これこそ余の解答である! どうだ、偽の画像を作るより、手軽に、素早く、高品質に――本物の嘘(・・・・)を撮影したぞッ!」


 では惑乱する人類を眺めながら勝利の美酒を味わうとするか――ヴィングラウドはそう言ってくいくいと指を動かす、その手のものを早う持って来いと指図する。


 だめだった。

 それまで、あまりにも凄まじい成長と機転を目の当たりにしてしまったせいで固まったとばかり思っていたズモカッタが――盆を取り落とし、お菓子と紅茶をぶちまけて、四つん這いになった。


「ぅわあああああああわーーーーッ!? 余、余のジャイアントオリハルコンシュークリームーーーーっ!?!?!?!?」

「申ッし訳ございません魔王様ッッッッ!」


 最初。

 それは、おやつを台無しにしてしまったことへの謝罪かと思われた。

 そうではなかった。

 それどころでは、なかった。


「全責任は、この私、百妖元帥ズモカッタにございます! たとえ反省を促す為とはいえ、お傍を離れるべきではなかった! 知っていたはずなのに! 666代魔王ヴィングラウド陛下は、歴代魔王の誰よりも上昇志向を持ち! 難題に対して怯まず! 言われたことをただ守る愚直さでなく、真に魔王に必要な、ありとあらゆる方向から目的達成を狙う稀代の悪知恵を持つと! それはとてつもなく凄まじすぎるが故に、時として、危うい結果を引き起こしてしまう危険性をも孕んでいるということをッ!!!!」


 褒められている。

 褒められているのは、間違いない。

 

 そのはずなのに。

 今の今まで――絶好調の有頂天であった、それなのに。

 ヴィングラウドは、まるで世界の終わりが訪れてしまったようなズモカッタの反応に、寒気を覚える。


「ず、ズモカッタ。どうしたというのだ。ほれ、余は、この通り、今度こそ立派に、」

「――立派過ぎた。あなたは、やるべきことを、的確にやり過ぎた――それこそが問題なのです、魔王様」


 彼女の手の中の、冷や汗に濡れたスマホが、通知の音を吐き出す。

 反射的に確認する。

 そこには、



【@666vin 魔王ヴィングラウド様始めまして。こちらは賢者ギルド、マジッター運営局アカウント管理部のイータと申します。先程ヴィングラウド様が投稿されました不適切画像についてお話がしたく思いますので、至急、DM(ダイレクトマジック)をご確認下さい  七席イータ・ディマインシー】



 緊張感、ピークに達する。

 これまで受けてきた数々のクソリプ、それらを纏めたものよりもなお大きいダメージ、得体の知れぬ焦りが身を包み、ヴィングラウドは成す術もないまま、縋るように視線を動かす。


 四つん這いで、床を叩いた、ズモカッタを見る。


「……【過度に過激な画像、他の利用者の不安や誤解を不適切に煽る、幻術による虚構のもの(ジョーク)であると判別の困難な画像の投稿を禁ずる】。貴女が堂々とやってしまったのは――触れたのは、この世の禁忌。マジッター規約違反です、666代魔王ヴィングラウド陛下」


 背筋が凍える。

 理解が追いつく。

 ヴィングラウドは呆然とスマホを見下ろし、投稿された画像、今更削除したところで何の意味もない拡散数を眺め、


「私たちは、運営に目を付けられた。アカウント凍結措置(BAN)を喰らいます」

「たすけてーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!」


 心底からの悲鳴と共に、全力の土下座が繰り出された。



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