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2-10/魔王様、後悔しない



「そっ、ちっ、違うんです違うんです違うんです誤解なんですッ! そんなつもりじゃないんですそういうことじゃないんです知らなかっただけなんですぅぅぅぅぅぅっ!」


 何も違わないし誤解ではないしそういうことである。百パーセント間違いなく、人類を脅かす為の所業である。


 何かと勘違いされがちであるが、マジッターとは、元来、たのしく使うもの。

 人のコミュニケーションを助けるもの、世の中を良くするもの、ケンカのためのものではないもの。


 とはいえ完全に管理するのも無理があり、多少の“やんちゃ”は各々の解決に任せて見過ごされようと、度を越えた“やりすぎ”には制裁が下される。

 他人に迷惑をかけ続けるアカウントは、通報を受け、正当性を吟味され、十分に【値する】と判断されれば――


「貴女にとっては歯痒く、物足りず、茶番めいて映ったかもしれません。ですが魔王様、これまで行ってきた発信は、あれはぎりぎりのラインだった」

「あ、あ、」


「真に迫り過ぎては、それこそ【ジョークだと受け取る者が出ない、万人が全員疑う余地もなく絶望を感じてしまう破滅予告の投稿】では、マジッター運営が標榜する【言論・発言は自由であり、王都基準の法に準じ、世を不当に乱さぬ限り利用者の権利に委ねる】域を超えてしまう危険がある」

「ああ、あああああ、」


「そうなれば、我等の計画が根底から破綻してしまう。この場に在り続ける為には――爪を隠さねばならなかったのです」

「あ゛ーーーーーーーーーッ!」


 例えるならこうだ。

 競い合いの中、皆が守るルールに『やってられない』と文句をつけ、ズルして楽して成功しようとショートカットのチートを行い、挙句、自業自得のドツボに嵌った。


 こんなの、誰も同情などしてくれない。不当というなら魔王の側で、理由もまったくくだらなくて、かける言葉があるとすれば、ただ一言だけ『ご愁傷様』。教訓を得るなら【ルールを守ってたのしく征服!】――次があるとすればだが。


 プチ炎上にBAN騒動――こんなことをしでかしてしまった以上、新しいアカウントを作ったとしても運営に睨まれ、おそらくもうマジッタ―上で【魔王ヴィングラウド】は名乗れない。

 人間界征服の野望は潰える。

 努力を嫌がり安易に走った、己のズルが原因で。


「魔王様」


 呼ばれる声に、顔を上げた。

 座り込んだズモカッタと、目が合った。


「あなたを止められなかった、忠告の及ばなかった責任を取り、このズモカッタ、処刑を志願致します。だが、その前にひとつだけ、お聞かせ願いたい」

「――――」

「落ち込んでおられますか。後悔して、おいでですか」

「まさか」


 それは。

 それだけは、どうあろうと、思わない。


「【最悪の中でこそ最高に笑え】。これは初代から続くならわし、魔王の原則だ。しかし、その意味は何かについては、代々の魔王の解釈に委ねられる」

「――ええ」

「【最悪の中でこそ最高に笑え】。最後の最後まで不敵の笑みを見せつけることで、対する敵を恐怖させる為と取った魔王もいた。【最悪の中でこそ最高に笑え】。自身の負の感情すら楽しむ邪悪となるのだ、と目指した魔王もいた。そして余は、こう思う」


 にっ、と。

 魔王は、笑った。


 明らかに強がりで、ぴくぴくと震えて、まったく楽しそうではなく。

 それでも、この、絶体絶命の中で。

 彼女はしぶとく、笑って見せた。


「【最悪の中でこそ最高に笑え】。落ち込む暇、後悔するだけの余裕があるなら、虚勢であろうと演技であろうと元気よく形振り構わず、やるべきことの為に出来ることを考え考え考え抜いて挑み続けろ――という、意味なのだとな。どんな本にも書いてはいないが、そういうふうに信じておるよ」


 そうだ。

 666代魔王、ヴィングラウドは、諦めない。

 自分たちを見下ろすかのようなスクリーンの表示、絶対的な宣告を頭上に戦意を絶やさず、今この場面からでも、どうにか出来る手を探す。


「力ではない。知恵でもない。ただ、不屈であらんとすること。それがヴィングラウドの理想とする、魔王の絶対条件だ。くはは、そうとも、諦めさえしなければ――征服は、何度、途切れたとしても、終わらない」


 彼女は暗に告げている。

 賢者による封印大魔法(アカBAN)を喰らおうと、別の手段、方法を模索して、新しく作戦を始めると。自分はこの程度で、終わりはしないと。


 ――しかし。

 それでも、やはり、こう思ってしまう。


「……無念よな。つらいことも、腹の立つことも、数えきれないほどあったけど。余、マジッターのこと、なんだか最近、とっても大好きだったのに――」

「であれば」


 指を、差す。

 彼が。

 百代の魔王に仕えし、四天王の中の四天王――

 ――666代魔王の忠臣、百妖元帥ズモカッタが。


 彼女の背後を。

 彼女の、今、見ていない、スクリーンを、示した。


「魔族らしく、悪らしく。間違ったことをしても反省せず――素知らぬ顔で横柄に、すっとぼけると致しましょうか」


 言葉と、指につられ、ヴィングラウドがそちらを見る。

 そこには、先程の、運営からのアカBANを匂わせる呼び出しの発言と、


 そんな運営に対する、一件のリプ。

 それこそは、八方塞がりなこの状況に風穴を開ける、起死回生の援護射撃――



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