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「おはようございます。昨日は屋敷にお戻りにならなかった様ですが、拗ねていらっしゃったんですか?」
マティアスが学院で一夜を過ごし、学院にある研究室を出た所でメイドに言われた言葉がこれ。
因みに彼女の名前はリーシャ。
肩口で揃えた黒髪のショートカットにメイド服、勿論頭の上にはブリム。しかもヘッドドレスでは無く、室内帽としてのブリム。メイド服も装飾は最低限であり、丈もロング。彼女のプロとしての意識を感じさせる「仕事着」としてのメイド服だ。そこにアンダーリムの黒い無骨なメガネ、実に良い。…失礼。話を戻そう。
「ひどくね!? 主人が徹夜…はしてないけど、研究してて朝帰りしてるのを、拗ねたってひどくね!?…あ。朝食と弁当ありがとう。」
マティアスはリーシャの物言いに反論しようとするも、リーシャが朝食と弁当のバスケットを手渡すと、黙ってしまう。完全に手のひらの上で遊ばれている。それで良いのか、マティアス。
「それで、何を研究してらっしゃったんですか?」
マティアスが朝食を食べ終わるとリーシャが訊ねる。
マティアスは待ってましたとばかりに、
「ふふーん、今私は攻撃に使える結界魔術を開発している最中なのだよリーシャ君っ!」
ドヤ顔でこちらを見ている主人を見たリーシャは、自らの過ちに気づいた。昨日の最後の言葉。アレがこの主人をやる気にさせてしまったのだ。やり過ぎた…そう思ったが時すでに遅し、この主人を止める事はもう出来ない。リーシャは長年の付き合いからそう感じていた。
「どうせなら僕専用の魔術にしようと思っていてね…」
途中からリーシャは聞いていなかった。
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「アイツ絶対途中から話を聞いてなかった…」
「アイツって君のところの大きい方のメイドかい?」
「あぁそうだ、リーシャの方だ。アイツいつか絶対泣かす。」
「ははは、ホドホドにね。」
昼休み、弁当を友人である、ハルトと共に食べながら、談笑をしているマティアス。このハルト、マティアスと同じくA級生徒で、付加魔術を専攻している。
ここでこの学院の制度について説明しよう。
生徒階級というものが、A級からC級までの3階級あり、魔術適性や専攻魔術の特異性や強力性により、階級を決定する。
この学院では、必修科目は無く、自らの専攻する魔術の強化、開発、etc……を行い、授業とする。専攻魔術によっては、専攻する教師による授業もあるが、一部である。
そんな三年間をこの学院で過ごし、部活動や交友関係から、研究機関に就職したり、冒険者になったりする。
そんな中、マティアスは専攻魔術の特異性とその適性の高さ。ハルトは専攻魔術の強力性、魔術適性の豊富さからA級生徒に選ばれている。
二人は今二年生、一年生の頃からの仲であり、度々魔術についてや世間話をしている。
「そう言えばマティアスは魔術論文発表会、さっき言ってた魔術の理論を提出するのかい?」
「へ?」
「だから、魔術論文発表会。出るんだろう? 参加申請出してたじゃないか。後二ヶ月でなんとかなりそうなのかい?」
マティアスは冷や汗を滝のように流した、これはまさか…
「忘れてたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
攻撃性結界魔術の完成締切が卒業から二ヶ月後に迫ったようである。マティアスは締切に間に合うのだろうか。
「ははは、論文提出出来ないと退学になるらしいけど頑張ってね。マティアス。」
そこに友人からの絶望的な言葉。
「嘘だろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
マティアスの絶叫が校舎中に響き渡った。