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死亡フラグは既に立っている  作者: 刹那END
1章 「始まり」
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12.5話 「龍王の企み」

 龍王。

 それは現魔界を統制している魔王であり、龍類の王でもある。

 魔王の役目は魔界にいる三種類の生物の共存を目的とし、平和と安寧を築いていくこと。それがたとえ、独裁だったとしても。

 龍王の前の魔王は獣王だった。

 前魔王は独裁的で、力で全てを支配した。

 圧倒的な力での支配であった為、前魔王に従わないものなどおらず、今の魔界と比べると、平和と安寧を築けていた。

 だが、それも長くは続かなかった。

 前魔王は一人の人間の手によって殺されてしまったのだ。

 死体は見つからず、その後、前魔王の青き瞳を見た者は誰一人としていない。





「でっけえ城! 俺の住んでるとこなんかミジンコ並みの大きさなのによぉ! 贅沢ったらありゃしねえ。あーあ。俺が魔王になってりゃ今頃、これよりでっけえ城作って! 若い可愛い子たくさん連れてきたのになあ!」


 わざと周りに聞こえるような大きな声で叫ぶ。

 大きな城を見上げながら入るその姿に何の威厳も感じられない。

 その原因はサンダルに上下が黒のジャージを着ているからに他ならないだろう。

 そんな身なりをしている男は現魔界における霊王だった。

 つまりは、桜彩音の実の父親である。

 一人で城に入って奥へと進んでいくと、すぐに客間があり、この城に来るときはいつも、その部屋に向かう。

 扉を開けると、もう面子は既に揃っていた。

 現在魔王の座に就いている龍王。加えて、獣類の長である獣王がそこにいた。

 真っ黒な皮膚に満遍なく張り付いた鱗。爬虫類を思わせるような瞳の細い眼。

 十メートルほどはある巨体の龍王は、その巨体を支えるに相応しい大きな座に腰を下ろしている。

 獣王は人の身体に頭は羊。悪魔のバフォメットを思わせるような形相をしている。

 背中には黒い翼が付いている獣王は最後に現れた霊王を睨み付けながら口を開く。


「遅すぎる。殺すぞ」

「いやあ、ごめんごめん」


 軽く謝りを入れた霊王が自分の席に着くと、三種類の王による会話が始まった。


「卵が盗まれたことを知っているか?」

「らしいな。魔界中を探し回ってるんだっけ? 俺は色々と協力してるはずだぞー。幽霊にも精霊にも呼びかけて、探してもらってる。今日呼んだのはあれか? 獣王にも協力させたいのか? なら、俺この場にいらなくね?」


 目の前の机に足を乗せる霊王を尚も獣王は睨みつける。

 獣王は霊王の軽々しい話し方とそのくどさを嫌っているが、霊王はその事を知らない。


「黙れ霊王。そういう話ならば、私は協力しない」

「いいや。我はそんな話をするつもりはない。何故なら、卵が盗まれ、持ち運びだされた場所は既に特定しているからだ」


 獣王と霊王に緊張が走る。

 もし自分の種族が龍王の卵を盗んだとなれば、龍王はその種族を滅ぼしかねない。

 その種族も黙って滅ぼされるわけはないので、戦争に発展する可能性もある。


「どうやら我が卵は人間の手に渡ったらしい」

「……人間を滅ぼす気か?」


 尋ねかけたのは勿論、霊王だった。

 龍王や獣王にとって人間は邪魔な存在でしかない。

 滅びようと知ったことではない。

 だが、龍王は人間の力を認めている。

 現に霊王の座に就いているのは元人間なのだから。


「人間の手に渡った卵について少し話そう」


 龍王は霊王の尋ねかけを鼻で笑い、語ろうとする。

 しかしその時、その場にいた全員が凄まじいほど強力な魔力を感じ、霊王は思わず席を立ち上がってしまう。


「この魔力……! なんで……!?」

「ほう? これはお前が人間であった頃に倒したはずの魔王の魔力では? 霊王?」


 獣王が呟くのと同時に霊王は龍王に視線を向けて、説明を求める。


「何か知ってるのか、龍王!?」

「前魔王は魔界と人間界を繋げた。結果、人間の手によって殺され、その人間から勇者が始まった。我が卵も勇者によって盗まれた。勇者は滅ぼさねばならん存在だ」

「確かに勇者は魔界を荒らす存在だ。だけど、前魔王によって魔界と人間界が繋がってしまった以上、それは仕方ない。共存していくしかない!」


 霊王の言葉は龍王の耳には届かない。

 だが、今はそれよりも、今も感じている強力な魔力の方が気になっていた。


「その話はまた後だ! とりあえず俺はこの強力な魔力を感じる場所に行くからな!」

「待て、霊王」


 客間から出て行こうとするジャージ姿のおっさんを引き止める黒き龍。


「我はお前ら人間の力を認めている。それを欲し、創り上げたのが人間の手に渡った卵だ。人間と龍の血が交じり合った、我が息子。もうすぐ羽化する頃合か?」


 龍王のその言葉に後ろを振り返る霊王。

 彼の頭の中で何かが繋がった。


「魔王の血を人間に交ぜたのか?」


 龍王は答えず、霊王は痺れを切らして客間を出た。

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