ルンルン、湖に行く
里山に暮らす夫婦の物語。
人里離れた山の麓にひっそりと佇む藁ぶき屋根の古い家。
そこには仲のいい夫婦が暮らしていた。アヒルのルンルンとカッパのパッパだ。
二人(2匹?)とも自分を人間だと思っている。
つつましやかでありふれた日常は、奇想天外な出来事に彩られていた。
ルンルンは、子ダヌキと別れてから少し元気がなくなった様子だ。
いつもは朝早く近所の川に遊びに行くのだが、今日は家に閉じこもったっきり外ばかり眺めている。
「どうしたんだい? ルンルン。元気がなさそうじゃないか」
「ううん。なんでもない」
小さくため息をつくルンルン。
パッパは少し考えあぐねていたが、急にいいことを思いつたようにルンルンに話しかけた。
「よしっ! 今日は湖の方まで行ってみよう。ルンルン、連れて行ってあげるよ」
湖は近所の川を5kmほど下ったところにある。パッパはいつも行っているのだが、ルンルンはほとんど行ったことがない。
下流へ行くぶんは楽なのだが帰りがきつくなる。川の流れはさほど速くはないが、やはり距離が長くなると足ヒレだけで泳ぐルンルンにとっては大変だ。なのでルンルンはいつも近くの川で遊んでいた。
「ほんとうっ!? やったー!」
「なんだ? そんなに行きたかったのか? 早く言ってくれたらよかったのに」
早速、パッパとルンルンは湖に行く支度をした。
支度と言っても何のことはない。ルンルンはつばの広い帽子をかぶり、小さなポーチを首からぶら下げた。いつものお出かけスタイルだ。
パッパは腰にビクをひっかけた。獲った魚を入れるためだ。湖にはたくさんの魚がいる。
家の外に出たパッパとルンルン。家の前の川沿いに二人で整列し、右手を挙げて「レッツゴーっ!」と叫んでザブンと川に飛び込んだ。
バシャッ!! ザブーン!!! 大きな水音を立てて二人は一気に流れ下る。
「ぷあっ!!」
先に水面から顔を出したのはルンルンだった。続いてパッパが顔を出す。
ルンルンはそのまま川に浮かんだまま泳いでいる。二人はそれからしばらく川を下って行った。
「あぁ気持ちいいねぇ、ルンルン。ずいぶん下流まで来た。ここの水は冷たいね」
「うん! わたし、こんなところ初めて来たよ」
「ここは綺麗だから人気スポットだよ。ほら、見てごらん」
パッパが指さす方を見ると、岸辺には色とりどりの花々が咲き乱れていた。
「うわぁ……きれい。」
「花を見ながら泳ごうか? スマホ持ってくれば良かったね。そうしたら色々調べられたのに」
「水に濡れたら大変だよ」
そりゃそうだと納得し、しばらく二人は川の流れに乗り気持ちよく泳いでいた。時折魚が目の前を通り過ぎる。
岸辺に咲く花を眺めながらルンルンは泳ぎ続けた。そしていつの間にか随分と流されていたようだ。
「あれ? パッパどこ?」
周りを見渡しても誰もいない。急に不安になったルンルンは慌てて岸に向かって泳ぐ。しかしパッパの姿はない。
「パッパー!」
「おーい。こっち」
ルンルンは、声のする方を見た。
パッパが水面から顔を出している。その後ろに大きな湖が広がっていた。
岸辺の花に気を取られていて気がつかなかったが、もう湖についていたのだ。
のんびりとした気持ちで読んで頂ければ幸いです。
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