第十二話 決着
セラフィナの自白から、王宮による再調査が行われるまで、さほど時間はかからなかった。
神殿の"調整"の証拠は、記録保管室に残されていたものだけでも十分すぎるほどだった。セラフィナ自身が、洗いざらい話したことも大きかった。
もっとも、その裁定は──リディアが思っていたものとは、少し違う形で下された。
「此度の件は、大神官セラフィナの独断による、神殿内部の不正である」
公にされた沙汰は、そう締めくくられていた。王家の意向があったことには、一言も触れられていない。
「……これで、よかったのですか」
後日、リディアがそのことをセラフィナに尋ねると、彼女は静かに頷いた。
「これも、私が選んだことです」
「王家を、庇うということですか」
「王家を庇うのではありません。……これ以上、神殿にいる者たちを路頭に迷わせないためです。私一人が全てを被れば、それで済む話です」
迷いのない声だった。
「償いというのは、時に、こういう形も取るものです」
その言葉に、リディアはそれ以上、何も言えなかった。
セラフィナがどんな処分を受けたのか、詳しくは知らされなかった。ただ、彼女が最後に見せた、憑き物が落ちたような微笑みだけが、記憶に残っていた。
そして沙汰の下された日。
謁見の間で、王の名のもとに、エイデン・ヴァンスの反逆罪は正式に取り消された。
「──エイデン・ヴァンスの罪状は、事実無根であったと認める。ヴァンス家の名誉は、ここに回復される」
厳かな宣言が響いた瞬間、傍らに立っていた父ヴィクターが、声を殺して肩を震わせた。
「……エイデン」
母セシリアが、久しぶりに涙を流しているのを、リディアは見た。
三年間、誰にも言えずに抱えてきた重荷が、ようやく下ろされた瞬間だった。
(お兄様……やっと)
隣に立つカインも、静かに目を伏せていた。
謁見の後、控えの間で二人きりになったとき、リディアは、ようやく詰めていた息を吐き出した。
「終わったんですね、これで」
「ああ」
「あなたの処分は……」
記録保管室に無断で立ち入ったことは、本来なら重い罰の対象になる。
「不問に付された。セラフィナ自身が、俺の行動の正当性を証言した」
「そうですか……良かった」
心から安堵する声に、カインが小さく笑った。
その笑顔を見るのは、初めてだった。
「どうしたのですか」
「いや。お前が、俺の心配ばかりしているのが、おかしくて」
「当然でしょう」
むきになって言い返すと、カインは椅子から立ち上がり、リディアの前に膝をついた。
騎士が忠誠を誓う、あの姿勢だった。
「な、なんですか、急に」
「もう一度、初めから言わせてほしい」
金色の瞳が、まっすぐにリディアを見つめる。
「儀式のあの日、俺は、お前の"番"に選ばれたことを、正直恐れていた」
「恐れて、いたんですか」
「憎まれて当然の相手だと、分かっていたからだ。それでも──」
一拍、間を置いて、カインは続けた。
「一緒に過ごすうちに、いつしか、お前を守りたいと思うようになった。それが、罪滅ぼしのためなのか、それとも別の想いなのか、自分でも分からなくなるくらいに」
「今は、分かるんですか」
「分かる」
迷いのない声だった。
「愛している。仕組まれた運命でなく、俺自身の意志で、お前を選びたい」
その言葉に、リディアの目から涙があふれた。
(前世でも、今世でも。こんな風に、まっすぐに想いを告げられたことなんて、一度もなかった)
「私も……」
声が震えて、うまく言葉にならない。
それでも、リディアは彼の手を取り、跪いたままの彼と視線を合わせた。
「私も、あなたを愛しています。仇でも、償いの相手でもなく、ただ一人の、大切な人として」
カインが、これまで見せたことのない、柔らかな表情を浮かべた。
「もう一度、正式にお前に問いたい」
彼は懐から、控えめな意匠の指輪を取り出した。
「神託ではなく、お前自身の意志で……俺の妻になってくれるか」
「──はい」
迷いなく頷いたリディアの指に、指輪がそっと嵌められた。
窓の外では、長い冬を越えたばかりの陽光が、柔らかく差し込んでいた。








