第33話「ズズズが、速い」
大戦の翌日。
蓋を開けた。
パカッ——
熱い。
箱全体が熱い。中から、何かが押し上がろうとしてる。
なんだ……これ。
リーリアが中から出てきた。
「タカラ……? なんか、中がすごく熱かった。いつもとあったかさの種類が違うの」
俺もそう思う。あったかいんじゃなくて、熱い。
蓋裏を見た。
取説が——ばちばちしてる。文字が点滅してる。
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警告:収納内の魔力が不安定です
原因:魔王の残響(核)の
魔力が外殻に干渉しています
現在の状態:
外殻変質 ── 進行中
魔力経路 ── 再構築中
収納空間 ── 拡張中
* この変化は不可逆です
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外殻変質。魔力経路再構築。収納空間拡張。
不可逆。
「タカラ、大丈夫……?」
リーリアが心配そうに蓋を覗き込んでる。
大丈夫——かどうかわからない。
でも痛くはない。熱いだけだ。
ガルドが走ってきた。
「タカラ! おまえ、光ってるぞ!」
え?
「箱が光ってる! 金色じゃなくて——もっと意味のある、深い色だ!」
◇
みんなが集まってきた。
ガルド、ガウル、レグナ、サガ、グリン、チョン。
グラドルが丘の横から見下ろしてる。
全員が俺を囲んでる。
箱が——光ってる。深い金色。琥珀みたいな色。
熱い。どんどん熱くなる。
蓋裏の表示がまた変わった。
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外殻変質 ── 90%
魔力経路 ── 再構築完了
収納空間 ── 拡張完了
進化条件を判定中……
☑ 収納容量の限界到達(残響核の格納)
☑ 封印術式の解放(複数回の実績)
☑ 封印動力源との深層同調(達成)
全条件達成
進化を実行します
ミミック → グレーターミミック
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「実行します」じゃなくて「実行しますか?」じゃないのか。
聞いてくれないのか、今回。勝手にやるのか。
——まあいい。拒否する理由なんてない。
来い!
◇
箱が——変わり始めた。
サイズが大きくなってる。五十センチだったのが七十センチくらいに。
表面の装飾が変わった。ただの金色じゃない。深い琥珀色に、金の紋様が浮かんでる。
装飾が豪華になった。角の金具が太くなって、蓋の縁に細かい彫刻が走ってる。
そして蓋——蓋の質感が変わった。開閉がめちゃくちゃ滑らかになってる。前はちょっとぎこちなかったのに、今はするする動く。
パカッ。
うわ、気持ちいい。今までで一番気持ちいいパカパカだ。
パカパカパカパカッ!
全力パカパカ。
「……進化してまでパカパカするのか、おまえ」
ガルドが呆れてる。するに決まってるだろ。
蓋裏に——取説の全面更新が来た。
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〝進化〟──▶ ミミック → グレーターミミック
外殻強度 ── 大幅上昇
収納容量 ── 大幅拡大
移動方式 ── 大幅上昇
擬態精度 ── 上昇(蓋の非表示が可能に)
新規スキル取得:
〝査定〟── 対象の能力値を数値化する
* グレーターミミックは
ミミックの上位種です。
おめでとうございます。
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おめでとうございます。
取説が祝ってきた。
おまえ、感情あったのか?
まあ——ありがとう。
新スキル〝査定〟。対象の能力値を数値化する。冒険者時代の査定癖がスキルになった。
そして——〝擬態精度上昇、蓋の非表示が可能に〟。
蓋が消せる。
あの蓋つきの石で恥をかいた日から、ずっと待ってた。
人間に化けても背中に蓋が残って、革鎧で隠してた。
もう隠さなくていい。
完璧な擬態ができる。
そして——〝移動速度、大幅上昇〟。
……大幅?
試してみるか。
ズズズ。
あれ。
ズズズズズズズズッッッ!!!
速い。
速い速い速い!
箱が——地面を滑走してる。ズズズの音が全然違う。重くて太いズズズ。摩擦が違うのか、地面を削りながら走ってる。
「はっや!?」
チョンが叫んだ。もう遠い。丘の下まで一瞬で着いた。
旋回してみる。
ギュインッ!
曲がれた。ドリフトみたいに砂煙を上げながら直角に曲がった。
丘を一周して戻ってきた。三秒くらいで。
「……おまえ今、何で走ってるんだ?」
ガルドが目を丸くしてる。
ズズズだけど。
「ズズズで、そんなに速くなるのかよ……」
なったらしい。
ガウルが横に並んで走ってみた。
「ガウ。……ちょっと速くなったな。でもまだ俺のほうが速い」
ウォーウルフには勝てないか。でもズズズの頃を思えば——天と地の差だ。
もうガルドに抱えてもらわなくていい。自分で追いつける。
「でもさ、タカラ」
ガルドがちょっと笑ってる。
「見た目は前と全然変わんないのに、めちゃくちゃ速いの、なんかシュールで面白いな」
面白くないよ。かっこいいだろ。
「いや、面白い。宝箱がすごい速さで滑ってくるの、怖いよ普通に」
……まあ、冒険者が見たら腰抜かすだろうな。
◇
〝査定〟も試してみた。ガルドに意識を向ける。
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〝査定〟
対象:ホブゴブリン〈ガルド〉
総合戦力:Aランク下位
筋力:A 敏捷:B 耐久:A
魔力:D 知力:B 指揮:A
特記:素手戦闘に特化
集団指揮能力が高い
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おお……数値で見える!
ガルドの指揮がAランク。納得だ。こいつの一番の武器は拳じゃなくて、指揮力だ。
レグナにも向けてみる。
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〝査定〟
対象:死霊将軍〈レグナ〉
総合戦力:Aランク上位
筋力:A 敏捷:B 耐久:S
魔力:A 知力:A 軍略:S
特記:魂が不完全(推定30%)
完全体の場合 → 推定Sランク以上
蒼炎は残響浄化に有効
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魂が三十パーセント。七割が塔に封じられてる。
それでAランク上位。完全体ならSランク以上。
……やっぱり、四将軍は四将軍だな。
ガウルにも。
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〝査定〟
対象:ウォーウルフ〈ガウル〉
総合戦力:Aランク下位
筋力:B 敏捷:S 耐久:C
魔力:D 知力:B 嗅覚:S
特記:索敵能力が突出
嗅覚による情報収集はAランク以上
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敏捷と嗅覚がS。化け物だなこいつ。
楽しくなってきた。冒険者時代の査定癖が完全に復活してる。
……自分も見れるのか?
自分に意識を向けてみる。
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〝査定〟
対象:グレーターミミック〈タカラ〉
総合戦力:Aランク中位
筋力:B 敏捷:B 耐久:S
魔力:A 知力:A 戦術:S
保有スキル:
収納、擬態、蓋文字、解封、査定
特記:多数の戦闘技能を収納済み
技能の組み合わせによる戦術が本領
現在、魔王の残響(核)を格納中
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Aランク中位。
前はBランク相当だったのが、一気に跳ね上がった。
耐久Sはアダマンタイトのおかげだろう。戦術Sは……冒険者の経験と収納スキルの合わせ技か。
そして——〝魔王の残響(核)を格納中〟。
これがまだ中にいる。浄化しないと。
でも今日くらいは、喜んでいいだろ。
だって……ズズズが、速いんだ。
◇
夕方。
グラドルが丘の横から声をかけてきた。
「宝箱。でかくなったようだな」
ズズズッと寄っていった。グラドルの根元に。
「……速くなったな。前よりだいぶ」
〝中身は同じだ ズズズだし〟
「ズズズのまま速くなるとは、器用なものだ」
器用っていうか、宝箱だからな。
走り方のバリエーションがない。
ズズズしかないんだ。
「昨日は世話になった」
〝こっちこそ おまえが来なかったら負けてた〟
「……我が動いたのは、おまえたちのためだけではない」
ん?
「あの黒い靄——我の森を荒らしておった。我の子らを凶暴化させた。あれは——我にとっても敵だった」
自分の森を守るために動いた。
それでいい。そっちのほうがグラドルらしい。
「だが……」
グラドルの幹の表面が、ほんの少し色づいた。紅葉? いや、照れてるのか、木が。
「……悪くなかったぞ。動くのは」
パカッ。
でしょう?
◇
夜。
リーリアが蓋を開けて——
「わ、大きくなったから入りやすくなった!」
ああ、そうか。蓋も大きくなって入りやすくなったのか。
それはよかった。
「ありがとう。……おやすみ、タカラ」
すぽん。
アイがぷるん(おやすみ)。
パタン。
中に、リーリアとアイと、魔王の残響の核がいる。
核はまだ静かにしてる。浄化は——これからだ。
でも、今日は寝よう。
明日から、半年の勝負が始まる。
魔王の魂を完全に浄化する方法を見つけて、実行する。
半年以内に。
……でも今日くらいは。
ズズズ。
一滑りだけして、止まった。
速い。ズズズが速い。嬉しい。
パタン。
おやすみ。
◇
【次回】進化したタカラの実力を試す。擬態で人間に化けてみたら——蓋が消えた。完璧な人間の姿。もう革鎧で隠さなくていい。それと、レイスから手紙が届いた。〝大賢者の記録に、重要なものが見つかった。すぐに来てくれ〟。




