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第30話「半年やる」


 三日後。来た。


 ガウルが朝一番に走ってきた。


「ガウ……! 南から二十人以上……こんな匂い初めてだ……!」


〝全員、村の中央に集まれ 武器は持つな〟


 ガルドが「マジか」って顔したけど、頷いた。


 村の入口に、俺だけ置かれた。金色の宝箱が一つ。



 ◇



 森から白い集団が出てきた。聖騎士団。二十人。


 先頭に二人。


 銀髪の男。白い鎧に銀のマント。


 その横に眼鏡の男。ローブ姿。にこにこしてる。


 セルディスとマリウス。レイスが横についてる。


 聖騎士団が丘の手前で止まった。


 セルディスが村を一瞥して、俺の前まで来た。


「聖騎士団団長、セルディスだ。王国の命で視察に来た」


 やっぱり、こいつらが王国の視察団か。


「ギルド本部から報告が上がっている。進化した魔物が集落を作り、ベイルの街と協定を結んだ……と。その確認に来た」


 パカッ。蓋文字を出す。


〝パカラ村代表のタカラだ 見ていってくれ〟


 セルディスが蓋裏を読んで——一拍置いた。


「……宝箱が代表か」


 マリウスが横から口を出した。


「面白いでしょう? 報告書を読んだとき、僕も目を疑いました」


 セルディスはマリウスを無視して、村の中に歩き出した。



 ◇



 無言で村を見て回ってる。


 レグナの前で足が止まった。胸の紋章。魔王軍の将軍の証。


 セルディスの手が腰に伸びた。


 抜いた。


 見えなかった。抜いた瞬間が認識できなかった。


 気づいたときには——剣先がレグナの首にあった。


 でも、レグナは動かない。蒼い炎もゆらりともしない。


「……殺気がないな。試しているのだろう」


 セルディスの目が細くなった。


「わかるか」


「当然だ、何百年も戦場にいたのだからな」



 セルディスが剣を収めた。


 村を見渡した。もう一度、ゆっくりと。


 ホブゴブリンが武器も持たずに立ってる。ウォーウルフが臨戦態勢なのに動かない。全員が——指示を待ってる。


「統率が取れている。……ただの獣の群れではないな」


 セルディスが俺を見た。


「報告書だけでは判断できん。実力を見せろ」


 俺たちのほうを向いた。


「全員だ、早く来い」



 ◇



 ガルド vs 聖騎士ドレイク。Aランク相当。


〝素手でやれ〟


 俺の蓋文字を見て、ガルドがにやっと笑った。


「わかった、武器はなしでいこう」



 開戦の合図が出されると、早速ドレイクが踏み込んだ。斬り下ろしだ、速い。


 だが、当たらなかった。ガルドが横に跳んだ——んじゃない。半歩だけ体をずらしたんだ。


 剣が頬を掠めた。風圧で皮が切れた。血が一筋。


 その隙に——ガルドの拳がたたき込まれる。


 ドゴンッ!


 鎧の上から、腹に一発。


 ドレイクが三歩下がった。鎧が凹んでる。


「ぐっ……!」


 入った……でも倒れてない。Aランクの聖騎士は、この程度じゃ落ちない。


 ドレイクの目が変わった。本気だ。


 すぐさま三連撃を浴びせる、速くて正確な斬撃。


 一撃目——ガルドが流した。レイスに教わった受け流し。


 二撃目——ガルドが潜り込んだ。剣の下を抜ける。


 三撃目——間に合わなかった。


 腕を斬られた。血が飛んだ。


「ガルドッ!」


 グリンが叫んだ。


 ガルドは止まらなかった。


 斬られた腕で——ドレイクの剣を掴んだ。


 血まみれの手で、刃を握ってる。


「なっ——」


 ドレイクが引こうとした。抜けない。


 ガルドのもう片方の拳が——ドレイクの顎を打ち上げた。


 ガキンッ!


 兜の上からだったけど、衝撃で首が跳ね上がった。


 ドレイクがよろめいた。


 膝がついた。


「……参った」


 ガルドが血まみれの手を開いた。剣を床に落とした。


 カランと鳴った。


 セルディスが見てる。表情は変わらない。



 ◇



「次。宝箱」


 俺かよ。


「マリウス。やれ」


 マリウスが眼鏡を押さえた。


「僕ですか……まあ、いいですけど」


 にこにこしたまま杖を構えた。


 宮廷筆頭魔導士。Aランク上位。


 パカッ。


 やるしかない。


 マリウスが杖を振った。軽く。


 氷の槍が五本、空中に浮かんだ。


 同時に飛んでくる。


 ——二本目と三本目の間に隙間がある。


 ズズッと隙間に滑り込む。一本目と四本目が左右を掠めた。五本目が頭上を抜けた。


 全弾回避。


 そして——掠めた一本目の氷槍を、蓋で掠め取った。



〝収納〟。触れた瞬間に吸い込む。



 蓋裏に表示が走る。



〝収納〟:氷槍(魔法生成物)── 格納完了



 氷の構成が流れ込んでくる。冷気の練り方。槍の形成方法。


 覚えた。


 パカンッ!


 蓋から氷の槍を射出——ただし、一本じゃない。


 収納で学んだ構成を再現して、三本同時に生成して撃った。


 マリウスの目が見開かれた。


「——コピーしただと!?」


 マリウスが杖を振った。氷の壁が現れて三本を弾く。


 でも、俺の攻撃はこれで終わりじゃない。


 氷槍は目くらましだ。


 本命——〝ファイアランス〟。


 蓋の隙間から、赤い光の槍が射出された。中級火魔法。魔導石から学んだやつ。


 氷の壁に——突き刺さった。


 ジュウウウッ!


 氷が蒸発する。壁に穴が開く。


 その穴を通って——蔦が飛んだ。


 トレント戦で獲得した蔦操作。魔力で強化した蔦を射出。


 蔦がマリウスの杖に巻きついた。


「おっと——」


 引っ張る。杖をもぎ取る——つもりだった。


 マリウスが蔦ごと杖を振り上げた。力で引きちぎった。


 さすがにAランク、腕力も規格外か。


 でも——一瞬、杖が使えなかった。その隙に。


 パカンッ!


〝フロストエッジ〟。


 氷の刃が地面を走った。中級氷魔法。さっき氷槍を収納したときに学んだ応用。


 地面が凍りつく。マリウスの足元が一瞬で氷に覆われた。


 足が止まった。


 その上から——


 パカンッッ!


 白い光弾。全力。魔導鉱石の無属性魔力砲。


 氷で足が止まったマリウスに、真正面から叩き込んだ。


 マリウスが杖を突き出した。障壁が展開される。


 光弾が障壁にぶつかった。


 バキバキバキッ!


 障壁にヒビが入った。——割れない。あと一歩。


 でも……マリウスの顔が変わってた。にこにこが消えてる。



「氷槍をコピー、火の槍で壁を抜いて、蔦で杖を封じて、氷で足を止めて、本命の砲撃……全部、収納で獲得したスキルの連携ですか」



 マリウスが氷を踏み砕いて、一歩前に出た。


「四手先まで読んだコンボ。宝箱にやられるとは思いませんでした」


 杖を下ろした。


「合格ですよ。Aランク上位の障壁にヒビを入れる火力と、この戦術眼……あなた、元冒険者でしょう」


 バレたか……まあいい。


〝元Bランクだ〟


「なるほど……道理で読みが深い」


 マリウスの目がきらっと光った。


「元冒険者のミミックということは、魂の転移体ですか……文献では読んだことがありましたが、実物を見るのは初めてだ。死んだ人間の魂が、魔物の体に宿る——確率的には、ほぼゼロのはずですが」


 そのほぼゼロを引いちまったんだよ。


「冒険者の実戦経験と、ミミックのスキル。面白い組み合わせだ……いや、面白いどころじゃない。大賢者が〝鍵〟を仕込んだミミックに、人間の魂が宿った。これは偶然なのか、それとも……」


 マリウスが何か考え込もうとしたけど、セルディスが遮った。


「マリウス、学術談義は後にしろ」


 セルディスが歩いてきた。全部見てた。


「実力は確認した」


 丸太に座った。



 ◇



「半年やる」


 セルディスが言った。


「魔王の魂の問題を解決しろ。できれば王国は、パカラ村を認める。できなければ——全軍が来る。それが王国が魔物の群れを〝村〟と認める必須条件だ」


〝これ以上の譲歩は?〟


「ない。たとえお前たちがAランク相当の魔物だろうと、使えないのなら敵だ。――全力で潰す」


 この目……本気だな。脅しじゃない。


 まあ、王国も一枚岩じゃいかないか。〝魔物の群れを村として認める〟には、それ相応のリスクがあるんだ。魔物のケツモチを、人の国がやってやるんだから、そのくらいの見返りは寄こせと。


 できなければ敵、ただで見逃すほど王国も甘くはない。


 だったら……選択肢は、一つだな。



〝やる。責任をもって、魔王の魂の問題を解決するよ〟


「よろしい」


 セルディスが立ち上がった。


 聖騎士団が去っていく。


 マリウスが振り返って手を振った。「また来ますね」


 来なくていい。



 ◇



 全員が去って、村が静かになった。


 ガルドがアイに腕を治してもらいながら座ってる。


「……あの聖騎士、やべえ強さだった。でも……一発入れられた」


 入れたな。素手で、鎧の上から。


「タカラもすごかったぞ! 何だ、あのコンボは……氷で足止めして火で壁焼いて蔦で絡めて砲撃って、いつの間にそんな戦い方覚えたんだ」


〝全部収納で学んだやつだ 使ったことなかっただけで〟


「もったいねえな……もっと早く使えよ」


 ……返す言葉もない。


 レグナが言った。


「あの銀髪の男、強い。我が全盛のときでも、勝てるかわからぬ」


 全盛のとき——魂が完全だったとき。今のレグナは魂の欠片だけだ。それでもAランク上位。完全体なら——


「だが、おまえの戦い方は面白い。あの連携は、我も思いつかなかった」


 宝箱にしかできない戦い方だからな。


 ガウルがぐったり座ってる。


「ガウ……あの銀髪、匂いだけで怖かった」


 そのとき——ガウルの耳がぴくっと立った。


「……ガウ?」


 鼻をひくひくさせてる。


「……何だこの匂い」


 全員がガウルを見た。


「森の匂いがおかしい。朝と全然違う。魔物の匂いが……荒れてる。理性がない匂いだ」


 レグナの蒼い炎がぶわっと揺れた。


「……この気配。覚えがある」


「何だ」


「【魔王の残響】だ」


 全員に緊張が走ったのが分かった。


「塔の封印が弱まっている。巫女がいなくなり、台座の魔力もタカラが吸い取った。封印が綻んで……魔王の感情が漏れ出している。何百年分の怒りと苦しみが。それを浴びた魔物は——【凶暴化】する」


 ガウルの耳がぴくぴく動いてる。


「ガウ……凶暴化した匂い、どんどん増えてる。北も、東も、ダンジョンの中も……四方八方からだ」


 四方八方。


〝止める方法は?〟


「残響には【核】がある――魔王の感情が凝縮した塊だ。そいつが、残響を撒き散らしている。核を叩かない限り、魔物の凶暴化は止まらん」


 ……核、か。


「核は残響が十分に溜まれば、いずれ形を成す。黒いモヤが集まって、一つの体になる。そうなったら——相当な強さだ。いずれにせよ、凶暴化した魔物たちとの大戦になるだろう」


 レグナは言った。


「早ければ明日――遅くても三日以内」


 全員の顔が引き締まった。


 セルディスが去ったばかりなのに——休む暇もないか。


 ガルドが治療中の腕をぐっと握った。


「……上等だ」


 パカッ。蓋文字を出す。全員に見えるように。


〝パカラ村を守る 全員で〟



 ◇



 夜。リーリアが中に入った。


「タカラ……明日、来るのかな」


〝来る たぶん〟


「……怖い。でも、やれることをやる」


 リーリアの魔力が俺の中に広がる。いつもよりあったかい。


 蓋裏の余白に滲んでた文字が——ほんの少し、濃くなった。


 まだ読めない。でも、もうすぐだ。


 パタン。


 嵐が来る。



 ◇



 【次回】大戦、開幕。森から、ダンジョンから、凶暴化した魔物の大群がパカラ村に押し寄せる。タカラは蓋を開ける。全部のスキルを、全開で。

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