↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
26/27

26話 日記

「とりあえず、依頼は終わりだ。

俺は帰るぞ。」

修二は話を切り上げ電話を切ろうとした瞬間、時守は続ける。


「待ってくれ。せっかくだ。

一緒に調査してみないか?」


「お前とするわけないだろう。それに今回のことが終わったら調査結果を聞けばいい。

それで今回のことは終わりだ。」


「そうかい?ここまで来ておいて、君が切り上げるとは思えないのだがね。

それと今回の件が片付いたら、報酬として君の知らないことを一つ教えてあげようじゃないか。」


その言葉を聞いた瞬間、思わず電話を切ろうとしていた指が止まる。時守の提案はすごく魅力的だったが今は一緒に調査をしている由美子さんを巻き込むわけにはいかない。


……けど、こいつの言葉が本当だとしたら、姉を目覚めさせることにつながるかもしれない。そう考えていると時守は言葉を続ける。


「君の考えていることはなんとなくわかるよ。由美子さんには帰ってもらえばいい。それなら心配はないだろう。」


確かにそういうことなら断る理由はあまりない。強いて言えばこいつと一緒にやることが癪に障るくらいだ。それに目を瞑れば、今回の件は受けない理由はなかった。


「その提案を受けるよ。場所は近藤不動産の部屋だ。あとは大体わかるだろう。

俺は一度切って由美子さんに連絡するぞ。」


「了解した。なら僕は君の方へ向かうとしよう。」

修二は電話を切り、そのまま由美子へと電話を掛ける。


「もしもし修二くん、私の方はもうすぐ終わるよ。そっちの進捗はどんなかんじ?」


「目的の物件が見つかったので、切り上げてもらって大丈夫です。」


「わかった。私は先に事務所で資料作ってるね。

修二くんはどれくらいで帰って来れそう?」


「すみません、俺は調査をしてから帰るので、由美子さんは仕事が終わったら、先に帰ってもらって大丈夫です。」

修二は少し上を見上げて、由美子へ伝える。これで彼女は帰ってくれるだろうか。多分ダメな気がする。けど、嘘をついて帰ってもらうのは違う気がした。


「えっそうなの?なら私も行くよ。」

予想していた返答だったが、うまく断る方法がすぐには思いつかない。


「由美子さん、少し調べて帰るだけなので、わざわざこちらまで来るほどの事ではないですよ。」

こう伝えても彼女はきっと来るというだろう。修二は左手で頭を掻く。


「それでも行くよ。人がいた方が良い時もあるだろうし、それに私助手だし。」


「わかりました。では、先に中に入って調べますので、着いたら連絡ください。」

修二は電話をそっと切る。こうなると1人でさっさと調べて、終わらせることにした。あいつに頼むのは癪だが、一緒の調査はまた後日してもらえないかお願いしよう。


修二は影のいるドアの前に立ち、再び部屋に足を踏み入れた。

室内は相変わらず埃臭さの中にどこか甘い匂いがした。

「こんなことならマスクを持ってくればよかったな。」

部屋の異臭に思わず言葉が漏れる。だが、由美子が来る前にある程度終わらせなければ彼女の安全が保証できない。


修二は影のいる襖を開ける。影はいまだに微動だにしない。

影から目を離さないように手探りで照明のスイッチを押した。

「あれ?」

反応がない……というより、この部屋だけ照明らしきものが見当たらなかった。リビングから差し込む光を頼りに床や壁、天井に目をやる。


「照明がない?」

部屋の端には和風の吊り下げ式の照明が置いてあった。修二はポケットに入れていたライトを取り出し、天井を照らした。


「そういうことか……」

天井には無理矢理切られたであろう断線したコードが垂れており、床に置いてある照明から何が起きたのか想像してしまう。

こんなことをするまでに至ったのかがわからない。修二は好奇心に誘われるまま部屋のものを漁る。


本棚に机やタンスの中を確認したが異常な点は見受けられなかった。


「これはなんだ?」

修二は机と壁の隙間にピンク色のノートらしきものを見つけた。

視界の端で影が見えるなか、なんとか取ろうと隙間に不自由な左手を伸ばした。修二は少しずつ指でノートを手繰り寄せる。

「取れた。」

これは日記か?人の趣味を覗き見るようであまり良い気はしないが、このような惨状になってしまった経緯がわかるなら見てみる価値はある。


「何かあったのかい?」

日記を開こうとした瞬間、背後から声が聞こえ、咄嗟に振り返った。

そこには時守が部屋の出入り口を塞ぐように立っていた。


「……なんだ、お前かよ。びっくりさせるなよ。

ちょうどいい。この中身を見れば何かわかるかもしれない。」

修二は再び日記を開こうと表紙に手をかけた瞬間、時守が肩を掴む。


「それを見るなら、外で観ようか。

こんな暗いところで見る必要はないさ。」


「お前に急になに言って…」

修二は静かに左横にいる影を見上げた。調査に夢中になるあまり、危険なことをやろうとしていたかもしれない。


「あぁ、そうだな。一旦出よう。」

修二と時守は部屋を後にし、ドアの外の通路へ移動した。外は夕暮れ時になっていた。夕日の差し込む廊下で時守が修二に諭すように口を開く。


--廊下


「君は夢中になって部屋の中を捜索していたが、あの中で日記を見るなんて僕でもしないよ。」


「そうかよ。ご忠告どうも。」

確かに危険だったかもしれないが、原因究明するなら多少の危険は必要になる。それに由美子さんが来る前にいち早く済ませたかった。

それに、注意ならこいつに言われる筋合いはない。


「まぁいい。君はこういう話は知らないかい?

幽霊は知れば知るほど、こちらに寄って来るという話を。」

時守が修二に確かめるように問いかける。それはまるで教師が生徒に教えるような口調だった。


「まぁ聞いたことは……ある。」

だが、それはあくまで伝承や噂話レベルの類いのはずだ。それにいったいどんな関係があるのか……

修二は左手の人差し指を唇に当て、考え込む。そんな修二を他所に時守は話を続ける。


「前にも話したと思うが、影は認知をされて初めて影響を及ぼす。

知った状態で近づけば、それだけ現象の理解に近づくが、危険も伴うということだ。

だからこういうものを読むのならある程度距離を取るべきなんだよ。」


時守は修二の持つ日記を指差し、警告する。

今まで何度か危険な目にも遭ったのだろう。その経験から俺に教えてあげたかったのかもしれない。


「そういうことか。けど、何故急にこんなことを教えてくれるんだ?」

修二は当然の疑問を口にする。なにせ今まではのらりくらりとかわし続けていた男が親切に忠告と説明まで行ったのだ。疑問に思うのも当然だろう。


「一緒に調査すると言ったんだ。情報の共有は必要なことだろう。わかったら日記の中身を見ようじゃないか。」

時守は少し呆れたように日記を指差した。こいつの言うこともわからなくもないが、その態度がやはり癪に障るし、色々言ってやりたいこともあるが、今は原因を調べる方が先だろう。


修二は時守に言われるがまま日記の表紙に手をかけ、ページをめくる。中身は普通の書き出しのようだった。

『今日から大学生!田舎から市内へ引っ越してきたけど友達できるかな……

頑張ろう。』

一見新生活に不安と期待を秘めたような文だった。これからどうなるんだ?修二は引き続きページをめくる。


『友達が三人も出来た。とりあえずぼっち大学生は回避できたみたい。ひとまず安心。』

短いが安心してることが伝わる文章だ。けど、時守の話を聞いた感じからして、この子達と何かあったのだろうか。修二は引き続きページをめくっていったが、普通の日記という印象だ。


『テニスサークルの先輩から声をかけられちゃった。すごくかっこいいなぁ。私もテニスサークルに入りたいな。』


『サークルに入ってからというもの、みんなに避けられてる気がする。最近みんなの私を見る目がおかしい気がする。

どうやら私の悪口が大学内で淫売や売女などの噂が流れてるみたいだけど、そんなの知らない……』

日記の様子が少し変わる。彼女に何が起きたのだろうか。


『最近変な人たちに声をかけられるし、背後に人の気配がする。私の家までつけてきてるみたい。

私が何をしたっていうの。

なんで、そんなことをするの。』

長い間、彼女は悩み続けたようだった。それにしても噂一つで花の大学生活がここまで変貌してしまうのだろうか。

それにこんな酷い噂話の出所はどこからだったのだろう。


『もう嫌だ。なんで私ばかりこんな目に……おかしいよ……なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、

もういいや。』

ここで記述は途切れていた。ページをめくる手が止まっていた。日記の内容に固まっていると時守が修二へ話しかける。


「酷い内容だったね。原因も見えてきたようだし、君はどう思う?」

こいつの言うとおり原因はわかった。部屋の荒れた惨状も掃除する暇が無くなってしまうほど追い詰められ続けた結果、自殺してしまったのだろう。そう思いながら修二は日記をそっと閉じた。


「そうだな。こんなのあまりに……」

修二は無意識に日記の持つ手に力が入る。救いがない。助けを求める余裕もなかった。自分のことで精一杯で、どうすればいいのかもわからなくなって……少し自分と重ねる部分がある。


廊下の奥から階段を登る音が聞こえてきた。少しずつこちらに近づく音へ目をやる。

「修二くん、お待たせ。」

由美子だった。彼女は資料の入った鞄を肩にかけ、修二へ少し手を振りながら2人の側まで来る。


由美子が来たのを確認すると時守は口を開く。

「みんな揃ったようだね。では本題に移ろうか。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。