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24/24

24話 依頼

「やぁ修二くん、ちょっといいかな?」


「何をしにきた?」

修二は鋭い目つきで時守に言った。これ以上近づかせないという意思が、その視線には込められていた。

しかしそんなものはないかのように、時守は口を開く。


「……まぁいい。今回は依頼をしたくて来たんだ。

そんな顔せずに中に入れてくれないかい?」


依頼?

こいつの考えていることがわからないが、わざわざ俺を頼るくらいだ。厄介ごとに違いない。

「断る。話すなら此処で話せ」


「わかったよ。

納得出来れば中に入れてくれるかな。立ちっぱなしで疲れたから座りたいんだよ。」

時守は仕方ないといった様子で少し肩を落とした。


「あの……修二くん」

由美子が心配そうにそっと修二の肩に手を伸ばした瞬間、修二が口を開いた。


「由美子さん、先に中に入っててください。

俺はこいつと話してから戻ります。」


「わかった。

中でコーヒー入れて待ってるね。」

由美子は2人の横を静かに通り抜け、事務所のドアを開けて、部屋へ入って行った。


「僕は彼女に聞かれても構わないんだが。」


「いい、気にするな。」

この話を聞くと彼女はきっと着いてきてしまう。もし悠真みたいにまた起きたら……

それでも時守を追い返すほどの勇気はなかった。こいつは必ず姉に繋がる何かを知っている。それを知るまでは逃すわけにはいかない。


「そうかい。大体1週間ほど前のことだ。」


——1週間前


時守の事務所。

薄暗く、どこか古びたタイル調の床。壁一面の本棚には様々なジャンルの本が並び、部屋の中心にはテーブルを囲むようにソファが並べられていた。


「これもダメかぁ。

なら次を試そうか。」


コンコン


時守が独り言を呟いていると、木製のドアの向こうに来客が来ていた。

どうやって見つけたのか、人通りの少ない場所に事務所を構え、営業をしているが、時折の客が後を絶たない。


「どうぞ〜」


「うわ、本当に居た。

あの話まじだったのかよ」

茶髪のロング、顔は比較的整っており、少し濃いめな化粧が印象的だった。

大学生くらいだろうか。彼女のなんとも言えない落ち着きのなさがそう思わせたのだろう。


「依頼だろう?まさかこんな所わざわざ来る程物好きではないだろう君も。」


「ネットのレビュー通り、態度悪っ。」

彼女は時守の話を他所にソファへ腰を下ろした。

どうやら虫の居所が悪いらしいが、時守には関係ないことだ。


「周りの評判はどうでも良いし、仕事をしっかりとすれば、文句は言われないしね。

ところで要件は?」


「まぁいいや、私の友達が2人家に引きこもってさ、変な夢見たらしいから調べて、出来れば解決して。」


「こっちは探偵だよ。

そんなオカルトじみた事の調査なんて。」

時守の言葉を遮るように、彼女はスマホの画面を突き出した。そこには時守が経営する探偵事務所のレビューが載っていた。

『態度は悪いが仕事はしっかりやってくれる。』

『オカルト案件でも手を貸してくれる。』


「ほぉ、そんなこと信用してわざわざこんなところまで来たのかい?物好きだねぇ。」


「あんた本当にムカつく!

けどいいわ。やるのかやらないのか早く答えなさいよ!」

彼女は時守に詰め寄り、今にも殴りかかってきそうな怒気を孕んだ声で言った。

だが、少しも時守は怯まなかった。むしろ彼女をじっと観察する。

怒っている。焦っているのは本当のことだろう。その焦りは友人を心配するものとは違う。そう感じた。そして、この手の人間は何か隠していることが多い。


「わかった。依頼を引き受けよう。

それで君のお友達2人はどんな夢を見たのかな?」


「はぁ?そんなの関係ある?」


「あるとも。物事には必ず原因とそれに至る過程がある。

その夢が原因とするなら夢の内容を把握しておくことは当たり前のことだよ。」


彼女は少し落ち着きを見せ、再び腰を下ろし、少し肩を落とした。

すると彼女はゆっくりと口を開いた。

「そう、死んだ佐奈江の夢を見るらしいのよ。

それ以上のことは知らないわ。」


「死んだ?……死因は?」


「そんなこと聞く必要ある?自殺だよ自殺。

理由はわからない。しばらく会わない間に死んでたのよ。」

彼女は少し目を逸らして言った。それを時守は見逃さなかった。

そして尋問するかのように彼女へ問い詰める。


「自殺?それにしばらく会わなかったってどれくらい?なんで友達なのに合わなかったんだ?」


「べ、別にいいでしょ!

それに金は渡すんだ!余計なこと聞いてくるな。これ連絡先。何かわかったら教えて。」

彼女はポーチの中からメモ帳を取り出し、叩きつけるようにテーブルに連絡先を置いて、部屋を後にした。


「最近の子は困ったものだね。

まぁ調べてみようか。」


それから3日ほどかけて、依頼人の身辺調査を行い、彼女の友人宅にも訪れた。


ピンポーン!


時守が部屋のチャイムを鳴らす。少し待っているとドアが開き、出てきたのは依頼人の友人だった。身辺調査で聞いていた印象とは違っていた。

濃いめの化粧に長めの茶髪と聞いていたが、しばらく寝れていないのか、目の下には大きい隈ができており、化粧も何一つ出来ていない。


「おやすみのところのすみません。

佐奈江さんの調査をしておりまして、幾つか話を伺いたい。」

時守はコートの胸元にある名刺を差し出して、友人に問いかけた。


「ひっ、も、もう話すことはありません。

帰ってください。」

佐奈江という名前を出した瞬間、彼女の顔が強張った。

依頼人の友人は酷く怯えていた。人の名前を出しただけでこんなに怯える必要はないだろう。

様子がおかしい。聞く必要が尚更出てきた。時守は彼女の言葉を無視して、質問を続ける。


「ならせめて夢の内容を教えて頂けませんか?それが終わったら帰りますから。」


「話すことはありません!警察呼びますよ!」

彼女は時守の言葉を遮るように、ドアを強く閉じる。

取り憑く島もない。そんな印象だった。警察を呼ばれても面倒だ。けどこれで確信した。

彼女の死はただの自殺では終わらない。佐奈江さんに何が起きたのか調べた方がいいかもしれない。


「わかりました。

ではまた来ます。昼間に失礼しました。」

時守は友人の家を後にした。だが、この件にはまだ調べる価値は十分にある。


時守は事務所へ戻り、佐奈江さんにまつわる資料を広げる。

佐奈江さんの家族の家にも訪れたが、反応は似たり寄ったりだった。

依頼人に家の場所を聞いてみたが、彼女も詳しいことは知らないようだった。というより、もう関わりたくない。そんな印象を受けた。


「ヒントは彼女が佐奈江さんとテレビ通話した時の家具の配置くらいか……」

ワンルームでベランダ付き。黄緑のカーテンの左上には暖房器具。少しの情報だが、それだけあれば十分だった。

だが、候補があまりにも多く絞りきれない。いちいち部屋の管理会社に確認し、調査をするとなると時間がかかり過ぎてしまうことは明らかだ。

「人数が欲しいな。

修二くんを頼るか。」


ーー現在


「まぁ、そんなところさ。

君はどう思う?」


修二は少し考え、口を開いた。


「わかった。話を聞こう。

部屋に入れてやる。」


「助かるよ。この歳になると体が衰えて仕方がない。」

時守は背筋を伸ばしながら修二に言った。自分から来ておいて、嫌味のつもりだろうか。意図はわからないがこの男の態度は勘に触る。

まるで目の前で欲しいものをぶら下げられるかのような感覚を覚える。


「まぁ入れよ。」

修二はドアを開け、時守と事務所の中へ入る。


「修二くん、話は終わったの?って。

なんでその人も一緒なの?」

事務所へ入った修二を由美子が温かく出迎えるが、時守と一緒に入ってきた姿を見て、思わず言ってしまった。

時守と会った後の修二を見てきた身からすると自分から招き入れるなんて想いもよらないことだからだ。


「由美子さん、事情はあとで話します。

もう一つコーヒーを出して貰えませんか?」


「う、うん、わかった。」

由美子は2人を背に台所でコーヒーを入れ始めた。

理由はわからないが、とりあえず修二を信じることにした。隠してることは多いが行動に嘘はないとそう感じるから。


「ヨイショ。

はぁ相変わらず座り心地が良いね。このソファ。」

時守は体全体を預けるようにソファに腰をかける。


「無駄話はいい。早く資料を見せろ。

手伝って欲しいからここまで来たんだろう。」


「……僕なりに和ませようとしたのに、年上の気遣いを無下にするんだねぇ。」


「そうかよ。」


「少し待ちたまえ、取り出すからね。」

時守は鞄から部屋の見取り図を取り出し、テーブルの上に広げた。


「かなりあるんだな。」

聞いてはいたが、確かにこの量を1人でやるのはかなり時間がかかってしまう。

影について知っている。似たような職業の自分を頼るのも納得だ。


「21枚ある。

ワンルームの事故物件を調べた結果だ。

君にはこの半分の10枚分ほど部屋を見てきて欲しい。」


「わかった。期間はどのくらいだ?」


「だいたい2週間かな。

まぁ急いではないからゆっくりでも構わないけどね。」


「いや、1週間でいい。」

この依頼は修二も気になっているが、この男とは正直あまり関わりたくない。必要な情報が得られればそれでいい。


「そうかい。助かるよ。

じゃあ、1週間後に。」

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