10話 溜まる遺影
ーー翌日
事務所の机にノートと資料を広げ、美羽が眉間を寄せている。
「由美子姉ちゃん!
この問題はどう解くの?」
「長方形
たて 6センチ、よこ 8センチの問題かぁ。
懐かしいなぁ。
これはねぇ、掛け算してみて」
「6×8だから……48?」
「そう。じゃあ三角形は?」
「えっと……半分だから……24?」
「正解。さすが美羽ちゃん!」
鉛筆の先で図をなぞる由美子。
美羽は少し誇らしそうに胸を張る。
修二は資料とノートから目を離さず、
そのやり取りを横目で見ていた。
昨日の出来事と違い、静かな午後だった。
ブー、と小さな振動音で机を震わせた。
スマホには、幽霊の見える展望台の記事が表示されていた。
「展望台…夜に人影、ね」
危険は少なそうだし……行ってみるか。
「由美子さん、今日山頂にある展望台に行ってくるよ」
「わかった、準備しておくね」
「いや、行くのは俺だけで…」
「修二くん、まだ満足に動かせない状態で、
夜の山を登るのは危ないよ。
だから、今回は私も助手としてついていきます。」
「う、わかりました。
お願いします。」
自身の現状を顧みると、断る理由はなかった。
「お兄ちゃん、由美子姉ちゃん、私も行く!」
「美羽ちゃん、夜の山は危ないからまた今度
お姉ちゃんと一緒に行こうね。」
「んー
わかった。
じゃあお兄ちゃん、今度、自由研究が宿題であるの。だから研究のお手伝いして欲しいの。」
「なんで俺なんだよ。俺だって忙しいんだぞ。」
「まぁ良いじゃない
その時は事務所は私に任せて」
「美羽ちゃん、わかったよ。
その時は手伝うよ。」
「やった!
約束だからね」
「あぁ約束だ。」
ーーその日の夜
「修二くん、大丈夫?
あと少しで着くみたいだけど、歩けそう?」
「はぁはぁ
大丈夫、歩けるよ」
入院してる間に体力が落ちているな。
しばらく登っていると展望台が見えた。
「修二くん、展望台に着いたよ」
「はぁはぁ、
やっと着いた
少し休憩させてくれ」
展望台の下にあるベンチに腰掛けていると
視界の端に、展望台の中にいる“影”が見えた。
それよりも展望台の下、
その横に"影"が異様に多いことに気づく。
ここにいる人の数より、多い。
「どうしたの?修二くん
あそこの脇道をぼーっと見て
何かいるの?」
「あそこに道があるのか?」
「うん、なんて言うんだろう…
人が通って踏み固められた道?みたいで」
「なるほど…」
"影"で道が見えなかった……
由美子さんがいるおかげで、気づけた
だけど、あの中に入る勇気は俺にはない…
「修二くん、せっかく調査に来たなら行ってみようよ。」
「ちょっと、由美子さん!」
影を避けながら、由美子さんを追って横道に入った。
「由美子さん、いきなりどうしたんですか?」
「ごめん、見えたからちょっと気になっちゃって
ほら、あそこに小屋みたいなものがあったよ」
そこには、数年放置されているであろう小屋があった。
「確かに、あの展望台の管理小屋だったんですかね。
せっかくですし、辺りを散策してみましょう。
由美子さん、足元に気をつけてください。」
しばらく散策していると由美子が修二を呼び止める。
「ねぇ修二くん、あれ
もしかして死んだ人の…」
「そうですね」
そこには、大量の仏具と遺影が放置してあった。
遺影のいくつかに、"影"が纏わりついている。
そして、どこか視線を感じる……
そんな気がした。
「修二くん、これ警察に電話しないと」
「由美子さん、その前にここを離れましょう
ここに放棄した人が来た場合、危険な可能性があるから。」
「昔何かあったの?」
「まぁ、色々とね」
それに、この大量の遺影の中にいくつか"影"を纏っているものがある……
影は人や場所だけではなく、
物にも宿るのか?
それより、早くここを離れよう
「由美子さん、持ってきたカメラでここを撮って離れましょう」
「う、うん」
ーそして、俺たちは山を降りた。
ーー翌朝ーー
「由美子さん、昨日はありがとうございました。」
「助手として当然のことをしたまでよ。」
「そうですか。
では由美子さん、俺はノートに昨日のことをまとめますから
掃除をお願いします。」
「わかったよ」
ノートをまとめていると、ある事に気づく。
昨日見た遺影たちの顔が思い出せない…
「あれ?なんでだろう…
遺影があることは覚えているのに、
そこに載っている写真が思い出せない。
由美子さん、昨日撮ったカメラ見たいんだけど、ある?」
「うん、あるよ。
はい」
由美子からカメラを受け取り、確認していると
「ん?昨日確認したときは、はっきりと写っていたはずなのに
なぜ遺影の写真の部分だけ、ぼやけているんだ。
由美子さん、昨日見た遺影思い出せる?」
「えーと、あれ?
思い出せない…
なんで、」
原因はわからないまま、俺はノートを開きペンを手に取る。
影は物に宿り、そこに込められた思いは…
やがて、形を成す……のかもしれない。
そう書き残し、ノートを閉じた。
ーー1日前ーー
「監視カメラに動きがあったな。
お、あれはあの時の青年じゃないか。
遺影に宿る"影"の調査のつもりでおいたが、
なるほど、アイツも…
近いうちに会いに行ってみるか。」
男は、部屋の端にある遺影へ目をやった。




